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蒼い風 現象への旅

蒼い風 現象への旅

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Dec 9, 2011
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カテゴリ:小さい旅
?燭もない。
線香もない。
ただ長い夜を開いてアルバムの写真に見入る。

なんどもなんども見た写真たちは新しい何かを伝えてくれることはなかった。
遺影は作らない。
そう決めてB1の額にオリジナルそのままの写真を貼るのにアルバムから抜いていく。
部屋に飾ってある自慢の写真を選ぼうとしたら、あるはずの場所に無い。
見回してみてもどこにも見当たらない。
まだ布団さえ暖かいのに誰かが片付けた筈もないが。

父は19歳で出征した。
川上から海軍に入ったのは父ひとりだったらしい。
ハルピン時代にサイドカーつきのハーレーを乗り回していた頃の写真がお気に入りだった。
自動車教習教官として宇佐航空隊へ移動して母と出会った。
二人の子に恵まれたが戦況の悪化とともに前線へ。
機銃掃射で負傷はしたものの全滅に近い状況でも生き延びた。
銃後の内地では上の子供が病死。
父はそのときのことを「長男友万が身代わりになった」とこぼしたことがある。
過酷なブーゲンビル島で終戦。そして抑留。
マラリヤによる激しい衰弱。引き揚げで帰国したとき誰もが死を覚悟していたらしい。
気丈な母は実家の大分に父を引き取って献身的に文字通り懐抱して命をつないだ。
吉野に戻っても食べるものが無かったからだ。

部屋でいくつかの紙袋を見つけた。
見せられたことのないプリントが数本とデイケアがわりに趣味的に作っていた折り紙作品と色紙類だ。
そのなかにお気に入りだった額を見つけて戸惑った。
紛れも無くそれは整理されている。
どこかへ持って行くつもりだったのかもしれないが、ひとつの区切りをつけてある。


会場に最初に来てくれたのは福井の従兄弟だった。
足労をねぎらう言葉をかけなければならないのに極まってしまった。
「ごめんね」
母のときでも泣くことは無かったのにもういちど「ごめんね」と言って後の言葉は嗚咽に変わった。
大阪組、奈良組の到着でも出る言葉は「ごめん」しかなかった。

原稿もなにも持たずに挨拶に立った。
「悔やみしか残っていません」はっきり自覚した。
整理されていた写真のこと、眠ったまま逝ったこと。
吉野に送ること。
そして礼を述べた。

孝行できなかったことに悔いはない。それは形ではないから。
そのことは父が一番判っている。

悔やみが残っているのは、あと一日でも一時間でも一緒にいてやれなかったのかという自責だ。

私は、子として父のことを何も知らない。

何も知らない。



遺言は守る。


  命のたま巡りてふえしあすはしりゆき 古木写行の乳児やいつこ


12月6日






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Last updated  Dec 9, 2011 11:23:27 PM
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