宮沢賢治 作 「厨川停車場」 逮捕された社会主義者
今も1日約3000人が乗降する盛岡市の厨川駅の情景を描いた詩です。1922(大正11)年6月2日に書かれました。
逮捕経験のある社会主義者が乗客の噂になっています。若いのに老けてみえる姿に当時の厳しい情勢が想像されます。
賢治も、社会主義政党の労農党に寄付をし、小作人の政治活動を支援していました。1927(昭和2)年3月には賢治自身も花巻警察署長伊藤儀一郎の事情聴取を受け、羅須地人協会の活動が弾圧されることになってしまいます。
Larixは、落葉松のことです。
(本文開始)
厨川停車場
(一九二二・六・二・)
(もうすっかり夕方ですね。)
けむりはビール瓶のかけらなのに、
そらは苹果酒(サイダー)でいっぱいだ。
(ぢゃ、さよなら。)
砂利は北上山地製、
(あ、僕、車の中ヘマント忘れた。
すっかりはなしこんでゐて。)
(あれは有名な社会主義者だよ。
何回か東京で引っぱられた。)
髪はきれいに分け、
まだはたち前なのに、
三十にも見えるあの老けやうとネクタイの鼠縞。
(えゝと、済みませんがね、
ほろぼろの朱子のマント、
あの汽車へ忘れたんですが。)
(何ばん目の車です。)……
(二等の前の車だけぁな。)
Larix, Larix, Larix,
青い短い針を噴き、
夕陽はいまは空いっぱいのビール、
かくこうは あっちでもこっちでも、
ぼろぼろになり 紐になって啼いてゐる。
(本文終了)
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