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おもしろき こともなき世を おもしろく 

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2011.02.27
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カテゴリ:処世術
 
世間(よのなか)はちろりに過ぐる ちろりちろり
何ともなやのう 何ともなやのう うき世は風波の一葉よ
何ともなやのう 何ともなやのう 人生七十古来稀なり
ただ何事もかごとも 夢幻や水の泡 笹の葉に置く露の間に あじきなき世や 
夢幻や 南無三宝※ 
くすむ人は見られぬ 夢の夢の夢の世を うつつ顔して
何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ
 


閑吟集


(超意訳・直訳)
世の中なんてちろっと瞬くまに過ぎ去ってしまうことよ ちろっちろっと
どうしようもない どうしようもない 浮世は風に吹かれ波にもまれる一枚の葉っぱだ
どうしようもない どうしようもない 人は古来から70歳も生きることは稀なだ
ただ何もかも ゆめまぼろしや水の泡のようなものよ
   笹の葉に露が置かれる間しかないようにはかなく 思い通りにならない世の中だ
ゆめまぼろしだ なむさん!(仏・法・僧に従う、助けてくれ!)
まじめくさった人は見てられない 夢の夢の夢のようにはかないこの世の中を 正気な顔をしている
何になるだろう、まじめくさってみたところで どうせ、一生は夢だ。ただ、狂えばいい。
(我を忘れて面白おかしく遊び暮らせ or 狂ったように一生懸命生きればよい)




閑吟集(かんぎんしゅう)
永正15年(1518年)に成立した歌謡集。ある桑門(世捨て人)によってまとめられたもの、
とされていて編者は不詳。連歌師の宗長という説もある。
室町びとが感情を託して歌った小歌三百十一首がおさめられている。恋愛歌が中心。
厳密には狭義の小歌のほか、吟詩、大和節、早歌、田楽節、近江節、狂言小歌等を含む。
当時の刹那的な雰囲気や無常観などがよく現れている。
四季・雑、あるいは四季・恋の順に配列し、さらに春の部が、柳・若菜・松・梅・花…
のように連歌風に編集されている。


※南無三宝(なむさんぽう)
南無とは無条件に帰依すること。 三宝とは仏・法・僧の三宝のこと。
私は、仏・法・僧に従います。 ということ。
南無三(なむさん)とは、この南無三宝の略。
咄嗟の危難に対して助けを乞うおまじないの意味で使用されることもある。
三宝に呼びかけて、仏の助けを求める語。
驚いたとき、失敗したときなどに発する語。しまった。なむさん。



決して教科書的とは呼べない歌集。
恋愛の歌が中心だが、本音で生の感情を真っ直ぐに表現しているものが多い。
世捨て人によってまとめられた形からなのか虚無的な思想が垣間見られる。
いつも前向きな言葉を紹介していながらなんなのだが、
こういう厭世的でどこか投げやりなのも意外と好きなのだ。笑
以前ご紹介した一休禅師を思い出す。
一休宗純(南無釈迦じゃ 娑婆じゃ地獄じゃ 苦じゃ楽じゃ
      (丸くとも 一角あれや 人心


一休が亡くなったのが1481年、閑吟集が成立したのが1518年と40年近く離れているが、
時代としては同じ室町時代なので、感覚が似ていたのかも知れない。
閑吟集は戦国時代だろ?というご指摘があるかもしれないが、一休も応仁の乱後まで生きて
いるので戦国の無常は感じていたはず。
朝、目を覚ましても夕方まで生きている保証は何もない時代の狂気は共有している気がする。


「狂」とう言葉は、文字通り狂う、常軌を逸した行動をするというのが本来の意味なのだろうが、
気が違ったようにように何かに集中する意味もある。
現実を知っているかのように冷静を装いながら死の影に怯えて生きるより、目前の事に集中し
懸命に生きろ、とも取れる。


今生きている我々としては、「歌え踊れ、面白おかしく刹那的に生きろ」というのではなく、
この懸命に生きろ、という方の意味としたい。


今を大事にしろ!という格言はたくさんある。
そういったものも刹那的な快楽を追求するとしたのか、今を大切に懸命に生きろとしたのか、
言葉だけを抜き出してしまうと微妙なところだが、私は後者を教訓とする。
投げやりな厭世的な歌は好きだし、かっこよく見える。
でも死ぬまで、「飲む・打つ・買う」と酒・博打・女(男?)の快楽を楽しむのが、
果たして楽しいのだろうか、たまにだったら楽しいかもしれないが、いつもいつもじゃぁね。

Carpe diem(その日を摘め!)  

あまりに突然のラテン語だが、この言葉にも通じるところがあるのではないか。
洋の東西、古今を問わずの真理だろう。



ちなみに「人生七十古来稀なり」は杜甫の「曲行」に由来している。

 『曲江二首』其二  杜甫
 
朝囘日日典春衣、
毎日江頭盡醉歸。
酒債尋常行處有、
人生七十古來稀。 
穿花蝶深深見、
點水蜻款款飛。
傳語風光共流轉、
暫時相賞莫相違。
 

(超意訳・直訳)
朝廷の仕事が終わると、毎日のように春着を質屋に入れ、
曲江のほとりで泥酔して帰るのである。
酒代の借金は普通のことで、行く先々にある。
どうせ、この人生七十まで長生きすることは滅多にないのだ。
花の間を縫って飛びながら蜜を吸うアゲハチョウが奥のほうに見え、
水面に軽く尾を叩いているトンボは、ゆるやかに飛んでいる。
私は自然に対して伝言したい、
「あなたも私と共に流れて行くのだから、ほんの暫くの間でもいいから、
お互いに愛(め)で合って、そむくことのないようにしようではないか」と。 

「碇豊長の詩詞・『詩詞世界』全一千五百首詳註」 



黒澤明監督の映画「隠し砦の三悪人」劇中の火祭りのシーンでの民衆の唄にも
似たフレーズがある。

 人の命は 火と燃やせ
 虫の命は 火に捨てよ
 思い思えば 闇の夜や
 浮世は夢よ ただ狂え
 

この唄自体は黒澤明監督自身の作詞ということだ。



何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ


細かいことばかり気にして悩むのではなく、ただこの人生を狂ったように懸命に生きよう!




 
 
  
 
  





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Last updated  2011.02.27 14:45:16
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