「なんで、山本のしゅうは、大西川に入っちゃいかんの? そんなきまり、聞いたことないよ!」 お菊は、上がりかけた土手をまた降りてきて、一人で男の子たちの前に立った。 「なんだ?こいつ」 「なまいきを言っとるな!」 お菊は、大きく息を吸って 「大西川は、みんなの川だら? なんで山本のしゅうばっかり、仲間はずれにするんな」 お菊のけんまくに、男の子達は一瞬、静かになったが、すぐにガヤガヤと話を始め、 「あんなあ、ずっと昔から、そういうきまりになっとるんな。 家に帰って、おかあちゃに聞いてみなよ」 体の大きい子は、肩をぐっと前に出してお菊の方をにらんだ。 「おかあちゃに聞いたけど、そんな事ないって言っとった。 みんなの川だって言っとった。 川東のしゅうは…川東のしゅうは、みんな、いじわるだ!!」 お菊は、お腹の底から声を出した。 耳がガンガンした。 のどが、ヒリヒリとくっつきそうで、あわててつばを飲み込んだ。 頭の中がかーんと割れそうだ。 「なんだと!お前な、小さいから、ここで遊んでた事もおこらなんでおったけど、オレ達に言いがかりをつけるんか?」 「川東のしゅうは、いじわるだ? とんでもネェ。 川東の学校へ来とるお前ら、山本のしゅうは、なんだよお。 どっちがいじが悪いか、考えてみろ!!」 お菊は、目をかっと開くと、 「大西川は、みんなの川だ。 川東の物でも山本の物でもないって、おかあちゃが言っとった。 川や山は、みんなの守り神だって。みんなで大事にするんだって!!」 お菊のけんまくに、男の子達は黙ってしまった 一年生のチビだと思っていたのに、早口でくってかかってくる様子は、真剣だった。
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