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信号が赤になった。私は止まった。 なにげなく右側を見た。 五メートル先に乳母車が止まっていた。 乳母車に赤ちゃんが前向きに乗っていた。 お母さんは赤になった信号を見ていた。 おっと、赤ちゃんが私の顔をじっと見つめた。 ヤバイ、私は赤ちゃんの視線をはずすことができなかった。 仕方がないのでニヤッと笑った。 エッ、赤ちゃんもニヤッと笑った。 な、な、なんと可愛い笑顔なんだろう。 私は顔をくずしてニヤニヤと笑った。 赤ちゃんは声をあげて笑い始めた。 お母さんが気づいたようだ。 私は笑いをやめて困惑した顔を見せた。 お母さんも苦笑いをして赤ちゃんをなだめ、私に軽く会釈をした。 信号が青になった。 お母さんは乳母車を動かそうとした。赤ちゃんが泣き出した。 お母さんは仕方なく乳母車を止めた。 私はお母さんに軽く頭を下げて歩き始めようとした。 赤ちゃんが泣き始めた。私は歩みを止めた。 赤ちゃんは笑い始めた。 う~ん、これは困った。 私はどうしたらいいのだろうちとの顔をしていたはずだ。 ヨシッ、私はある作戦を立てた。 赤ちゃんが、私に親近感を感じる理由を知っている。 問題は、赤ちゃんと私の距離が五メートル離れているということにある。 そう、私はこのような状況によく陥る。 その長年の体験が、私にあることを教えてくれた。 五メートル離れていると、赤ちゃんには私が赤ちゃんと同じ背の高さに見える。 私、短足である。顔もお腹もふっくらと肥えている。髪も薄い。 つまり、赤ちゃんは私を赤ちゃんと同じ年の仲間と勘違いして微笑んでいるのだ。 だから、赤ちゃんは私に向かって微笑む。私も仕方なく微笑む。 仲間同士で微笑みあう。赤ちゃんは満足ということだ。 私は、赤ちゃんに近付いた。 赤ちゃんにとってはズームということだ。 赤ちゃんは驚いた顔を見せた。 そうだろう。仲間と思っていた。 それが、突然に大きくなり、無精髭の変な顔になった。 私は追い打ちをかけた。頬を叩いてポコンと鳴らした。 それを合図かのように、お母さんは乳母車を動かした。 ふふふ、驚いた顔を見せながら、赤ちゃんは泣かずに去っていった。 ああ、ため息をついて顔を上げた。秋の空が広がっていた。 人気blogランキングへ←ランクアップのために良かったらクリックして下さいな! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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