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私は駅へゆっくりと歩いていた。 電車の発車の時間まで十分な余裕があった。 デパートの前を通りかかった。 十時少し前だった。そう、開店前だ。 それなのに人だかりができていた。 ふふふ、私の好奇心がもたげてきた。 開店瞬間のデパート、どのようなことが起きるのだろう。 デパートの従業員、お客、みんな、どんな反応を見せるのだろう。 九時五十五分、開店まで五分あった。 正面の扉は開いていた。私は人混みを分けて中に入った。 お客達はペチャクチャ話しながら待っていた。 八階の催し物広場で「京都展」が開催されるようだ。 それへの一番乗りを目指すお客達もいるようだ。 お客達の顔は喜々としている。 大人が子供に戻っている。デパートは好奇心を満たしてくれる場所だ。 お客のはしゃぎ顔に反して、デパートの従業員の顔は無表情だ。 それも背筋を伸ばして静かに佇んでいる。 動かない。話さない。笑わない。 はしゃぐお客達、沈黙の従業員、ふふふ、面白い光景だ。 おお、エスカレーターが突然に動き始めた。 それに続いて、十時の開店のオルゴールが鳴った。 おおおおーおっ!従業員が微笑み始めた。 おおおおーおっ!従業員が頭を深く下げた。 おおおおーおっ!従業員が挨拶をし始めた。 「おはようございます。いらっしゃいませ」 「おはようございます。いらっしゃいませ」 あちらこちらの売場で挨拶の言葉が響き渡っていた。 おおおおーおっ!お客はそのような挨拶に関係なく ガバーッと小走りにひたすら歩いていく。 挨拶する従業員、小走りのお客……ふふふふ。 このような光景が毎日あるのだろうな。 ふふふふ、おっと、電車の時間が迫ってきた。 ふふふふ、私は短い足を全速力にして駅に向かった。 何か凄い風景を見た気がしていた。 私の気持ちはなぜか満足していた。ああ。 人気blogランキングへ←ランクアップのために良かったらクリックして下さいな! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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