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契約社員として働くナガセは、ある日、世界一周旅行の費用と自分の仕事の年収163万円が同じであることを知り、その費用を貯めることにする。
第140回芥川賞受賞作です。初めて読んだ作家さんでした。 この作品は芥川賞受賞作の「ポトスライムの舟」に加えて「十二月の窓辺」の二つが収められています。 どちらも働くということを軸に、主人公の心情を描いた作品で、ページ数もだいたい同じくらいという大変似た作品です。しかし二つの持つ雰囲気はだいぶ異なるものでした。 「ポトスライムの舟」は淡々とした雰囲気でいつの間にか読み終わってしまうという印象なのに対して、「十二月の窓辺」は初めから重厚で重苦しい雰囲気が漂っています。途中で読むのを止めたくなる程、深く重く心に切り込んでくる作品でした。だからといって、「十二月の窓辺」が決して悪い作品というわけではありません。 寧ろ私はこちらの方が強く印象に残りました。 芥川賞に代表される純文学作品は人間を深く追求していくことがテーマだと思うのですが、その中でも究極のテーマは「自分は何故人に嫌われるのか」ではないかと個人的には思っています。こんなとてつもなく苦痛の伴うことは、出来れば誰もしたくないことでしょう。そんな究極に自虐的なことを笑いに持っていくようなこともせずに、真摯に描き切るのは作家さんにとっては苦痛と勇気の伴う作業だと思います。 最近の芥川賞作家では綿谷りささんが「蹴りたい背中」でそれをしていたように感じました。 「ポトスライムの舟」がさらっとした印象だったので、まさかこの作者が「十二月の窓辺」で、その作業をするとは思っていなかったです。 綿谷りささんはこの究極のテーマを学校という世界で、津村記久子は仕事を通して描いたように感じました。 しかし、個人的に何が悲しいかといえば、作家がこんな身を削るようなことを書き上げても、それで作品の売り上げが伸びるというわけでもないということでしょうか。まあ、こんな自虐的で暗いテーマを積極的に読みたいと思う人はあまりいないのは仕方がないことだとは思うのですが。こういった作品は芥川賞に選ばれなければ、あまり日の目をみないだろうと思えば、芥川賞の必要性がわかります。 以上から、「十二月の窓辺」は文学的には非常に優れた作品だと思うのですが、終盤は少し不満が残りました。 何故かと言えば、途中までは読むのが辛くなるほど、リアルすぎて重く心に響く雰囲気だったのに、終盤から結末にかけて、リアリティからどんどん遠ざかっていったように感じてしまったからです。うまくまとめる為に、あんな展開にしてしまったのでしょうか。ちぐはぐな印象を受けました。 働くことについて、雰囲気の違う二つの作品が収められた作品です。読後感の良い作品とは言い難いですが、仕事を通して自分を見つめる為に読むのも良いのではないでしょうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.02.19 22:23:45
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