カテゴリ:ちょっとショートストーリー
少年は道の端に立ち止まっていた。
雨上がりの少し湿ったアスファルトの向こうに、まるで今生まれたばかりのような虹が二重になってかかっていた。 一つはまるで地面から顔を出したように低く、もう一つはその上に大きく、けれど淡い光を放ちながら、まるで少年を呼んでいるようだった。 今までずっと歩いてきた、このでこぼこのアスファルト。舗装されてからしばらくたっているようで、端の方は少しぼろぼろと欠けたりしている。 時には暑い日ざしの照り返しで少年の身体を焼き、時には雨に打たれてずぶぬれの少年の足を力強く支えたりもした。そして時にはこんな美しい虹へと続く、美しいじゅうたんのような素敵なシーンを作り出してくれた。 頭上には今までの雨のことなんかまるで知らなかったような顔をしている青空が広がっていた。そしてまだ少しだけ雨の残した水蒸気に煙っているかのような空気の向こうにその虹はかかっていた。 きっとこの虹もあと何歩も歩かないうちに消えてしまうだろう。けれどその虹が少年のそのこれからの一歩ずつを生み出していた。 この先のどうなるかわからない一歩を踏み出すという意味では、誰もが冒険家である。その足をどの方向にどれだけ進めていくのか、それがその人の人生になる。どんな人でも、刻一刻と年をとり、大人になる。その時の一歩一歩がその人を作るんだ。 その虹が自分の踏み出した足の方向にあるのかどうか、それは決してわからない。どちらに行けばいいのか、それは誰にもわからない。そしてその虹が少年の足を軽くしてくれるのか、重くしているのかそれもわからない。少年の足を直接動かしているのは筋肉で、けれどその筋肉を操るのは心なんだ。だから僕らはきっといつも虹を探す。 探さなくてもいいのかもしれない。何も変わらないかもしれない。けれど我々は虹を探す。なぜなら我々は冒険者だから。。 --- これはHABUさんの写真集”空へ”の中の一枚から。 HABUさんの写真でいいな、と思うのは、その写真一枚の中に、現在の一瞬だけでなく、過去も未来も入っていること。その儚い瞬間だからこそ、そこに無限の時を感じることができるのだと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Feb 23, 2005 06:20:55 PM
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