テーマ:詩&物語の或る風景(1049)
カテゴリ:童話や絵本とファンタジー・・
(つづき)
ざわざわざわ。。どうしたんだい? 低い声に驚いて見回すと、昼間は一言も話した事のないシダ達が ミーヤの光に浮かび上がって心配そうにこちらを見つめていました。 あなた達お話しができるの? 驚いて尋ねるミーヤにシダ達は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに答えます。 そうじゃよ。私たちはね、夜が好きなんじゃ。 この少し湿っぽくて、光のない夜に起き出して、たくさんたくさん話をするんじゃ。 へぇー。そうなんだー。知らなかったぁ。。 不思議そうに目を丸くするミーヤにシダ達は嬉しそうに続けます。 夜には夜の世界があるんじゃ。 ほれ、あの木の枝にぶら下がっているコウモリを知っているか? 見上げると黒いコウモリが木の枝に逆さにぶら下がり、薄目を開けてこちらを見ています。 ミーヤは、あまりのことにびっくりして飛び下がってしまいました。 ど、ど、どうして逆さになっているの?? シダ達は笑いながら答えます。 彼等には彼等のやり方ってものがあるんじゃ。 それは御飯をハシで食べるか、フォークで食べるか、そのくらいの違いなんじゃ。 ふーん。。なんとなくうなずくミーヤの後ろの木の上で、今度は ふくろうがホーォゥ。と鳴きました。 振り向くと、ふくろうは首をくるくると回して黄色い目をぱちくりとさせました。 !!またまた驚くミーヤにシダ達は続けます。 ミーヤ。夜には夜の歌があるんじゃよ。それはお前のいつもいる昼の世界の 歌や踊りとは少し違うかもしれんな。けれど、それは当然と言えば当然よな。 暑い夏の日に汗を流しながら歌う歌と、寒い冬に凍えながら歌う歌はきっと違うはずじゃ。 昼と夜はまるで季節のようにその明るさも温度も、そして空気の重ささえも違う。 夜に生きる者には夜に生きるための歌があるんじゃ。 お前の光はちと夜の世界にはまぶしすぎる。少し光りを弱くしてみんなの歌をお聞き。 ミーヤは精一杯光りを小さくして耳を澄ませました。 すると、木々の中を風が吹き抜けていく音が聞こえ、その音の中にやがて 虫達の奏でる音楽が聞こえました。 ふくろう達の羽ばたきや、鳴き声、静かに息を潜めるヤマネコの歌、 遠くの川の音と、そこに住む魚やカエル達の歌も聞こえてきました。 夜には夜の歌があるんだ。。ミーヤは初めてその事を知りました。 そして昼間あんなにはしゃいでいた森の仲間達の静かな寝息がやがて聞こえてきました。 それは本当に安らかな寝息でした。 シダ達は言いました。さあ。もうおかえり。 そして決して夜の世界に来たことを誰かにしゃべるんじゃないよ。 少し淋しそうなミーヤにシダ達は続けます。 ミーヤ。お前の光は優しさに満ちている。 夜の生き物達は決して昼間のお前には話しかけないだろう。 けれど、昼間のお前の光のお陰で、安心して夜の歌を歌えるんだ。 その事だけは決して忘れないでおくれ。 お前の光は決して目に見える者達だけに降り注いでいるのではないよ。 その光の一筋一筋は、目に見えない者達の心もしっかりとあたためているのだよ。。 さあお行き。お前の帰るべき場所へ。 そしてまたいつものオレンジ色の朝焼けを、さわやかな昼の光を、 身体中を染める夕陽を、我々に届けておくれ。 お前はそのために生まれてきたのだから。。 ミーヤは嬉しくて嬉しくて、また涙を流しました。 ありがとう。ありがとう。 そして逃げるように森を抜け、いつもの太陽のフトンの中にこっそりともぐり込みました。 ワクワクする明日の朝日を夢見ながら。。 (おしまい) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jun 20, 2005 02:10:16 AM
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