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カテゴリ:外交・軍事
本日(3日)の日本経済新聞「グローバルオピニオン」に掲載された米コロンビア大学のジェラルド・カーチス教授の意見はアメリカの知識人や政治家の、対日意識のホンネが覗かれて興味深い。一言で言えば「永遠に米国に従属しておれ」ということだ。
<いま、米国では、日本が右傾化して大きく変わる可能性があるというニュースが多くなっている。しかし、そのように変わってほしくはないというのが、日本の有権者らの気持ちだろう> ウソだろう。「右傾化してほしくない」というのは、日本の有権者以上に、米国の政界と知識層なのだ。そのホンネを包み隠しながら、日本の有権者が右傾化しないよう、「日本の右傾化の危険を日経などのマスコミを通じて刷り込む」。カーチス教授が日経のインタビューに答えた狙いはそこにあるように思われる。 大体、日本は「右傾化」などしていない。だが、米国のマスコミや政界は少しでもその兆しが見えると、「右傾化だ」と敏感に騒いで、その傾向を消し去ろうと躍起になる。日本が米国の従属国でなくなる危険を感ずるからだろう。 石原慎太郎氏が尖閣を買収しようとしたことが中国の怒りを招き、緊張が高まったなどという批判が日本国内にも数多く見られ、カーチス教授も同意権だ。だが、中国はそれ以前から漁船が尖閣水域に侵入するなど、無謀な行動で日本を圧迫してきていた。それに対して「尖閣を守れ」と唱えるのは自然な自衛意識の現れである。それを右傾化というのだろうか。 アメリカは大量破壊兵器が存在するかどうか不明瞭なのに、大量の軍隊を送り込み、強引にイラクに攻め込んだ。大量破壊兵器は存在しなかった。また、ニューヨークの貿易センターベルを攻撃、破壊されたことで、アフガニスタンに大規模攻撃をかけた。貿易センターを攻撃したビンラディン一味がアフガニスタンのタリバン政権とつながり、タリバンがビンラディン一味の引渡し要求に応じないということが原因だった。 もちろん、貿易センタービルの攻撃が人道にもとる卑劣な行為だったことは言うまでもない。しかし、アフガニスタンやイラクへの米国の攻撃は多くの非戦闘員、無辜の住民を殺傷し、住宅や民間施設も破壊している。 このイラク、アフガニスタンへの攻撃は日本よりも100倍も1000倍も右傾化した行為ではないのか。日本人は尖閣諸島への中国の侵略の危険を感じ、それに対抗するために防衛力を拡充しなければならない、と言っているだけだ。実際に中国を攻撃していないことはもちろん、「先制攻撃せよ」と発言する人間もいない。 カーチス教授はこうも語っている。 <日本の尖閣諸島への主権について米国は中立だ。日本の支配下にあるから日米安全保障条約が適用されるが、主権は日中間の問題だと考えている>。 要するに「基本的には日本が自分で守りなさい」と言っているのだ。自力で守らざるを得ないなら、防衛力を強化するのは当然で、その行為や発言を右傾化と言うとすれば、首を傾げざるをえない。 その辺を意識してか、こうも言う。 <中国が侵略的な行動に出れば、当然ながら米国は日本を守る。中国が日本に傲慢な態度を取るのであれば、米国は尖閣は日米安保の対象と中国に伝え、日本とともに中国に対抗する> ところが、言い過ぎたと思ったのか、すぐにブレーキをかける。 <ただ今回の問題のきっかけは尖閣をめぐる石原慎太郎氏の発言。その後始末を米国がやるというのは無理な相談だ。日本が問題をエスカレートさせる態度を取る場合、米国はついていけるかを考える必要がある> 「尖閣は自分で守れ」と言ったり、「中国が侵略的な行動をとれば、米国は日本を守る」と行ったり、矛盾している。 だが、実は米国の国益本位といて点では一貫しているのだ。 <日本が中国に飲み込まれ、アメリカの手を離れるといった、明らかに米国の国益にとってマイナスとなる事態が生じれば、アメリカは中国に対抗して、日本を中国にとられないようにする。でも、そこまで行かなければ、多少中国にいじめられても困るのは日本だけだから構わない。日本が変に逆ギレして右傾化し、軍備を大幅に強化されると、アジア各国が日本をリーダーに思うなど、米国の国益にとってマイナスとなる。さらに右傾化して軍備が強化されたら米国にも脅威になる。何しろ米国はかつて日本に原爆を2発も落としている。その歴史的なうらみを、日本は今でも持っているはずだ……> 米国の対日意識を斟酌するえば、こんなところだろう。 <オバマ政権は米国と日本の防衛政策が一体となって、中国を刺激しない範囲で日本が地域的な役割を果たせるようになると考えているのではないか。日本が憲法を改正して「普通の国」になると言ったら、オバマ政権は喜ぶだろうか。日本の防衛政策は米国の戦略を補う程度でいいと思っているはずだ> ここに、カーチス教授、否、アメリカの知識人や政治家のホンネが凝縮されている。「日本はアメリカの従属国のままでいればいいんだ。それほど悪いようにはしないよ」ということだ。 <自民党政権のときに良かった日米関係が、民主党政権になってから悪くなっているとは必ずしも言えない。自民党は尖閣や竹島、北方領土への対応を指して、民主党の外交が弱いからだと指摘しているが、そうではない。連立を含めて政権を50年以上も担っていた自民党が領土問題の解決に役立つことをしてこなかったツケが回ってきた面もある。領土は民主党政権の問題ではなく、日本の問題だ> これほど白々しい言い方があろうか。「領土問題の解決」に最も有効なのは、軍事力の強化である。領土をかけて戦争をしようと言うのではない。セオドア・ルーズベルト米大統領は「棍棒片手に、穏やかに話す」(Speaking softly while carrying a big stick)が外交の本質だと言っている。政治学者のカーチス教授なら百も承知だろう。 そうした外交を日本も実行しようとすると、いつも米国は邪魔をしてきた。ロシアとの領土交渉が進展することも苦々しい思いで見ていたはずだ。日本の米国離れ、ロシアや中国との融和は米国の国益に沿わないからだ。米国の国益にかなう範囲で中ロと多少の摩擦を生じさせながら少しだけ友好な関係を保っているのがちょうどよい、と思っている。 日本が「普通の国」になっては困るのだ。「普通の国」になるというのは独立国家なら自然な欲求だが、「そんな欲求は持つな」とカーチス教授は言う。「日本の防衛政策は米国の戦略を補う程度でいい」と。なんとも日本を見下した高飛車な言い方ではないか。 <国際社会での日本の発言力がだんだん小さくなっている大きな理由は、首相がしょっちゅう替わることだ。毎年のように首相が替わるから付き合いきれない。……そのうえ、その首相がはっきりモノを言わない。海外と付き合うのが官僚ばかりでは、本当の意味で政治のリーダーシップは発揮できないだろう> はっきり意見を言わず、アメリカの言いなりになっている方がいいんじゃないですか、カーチス教授? はっきり「ノー」という石原氏のような政治家が出てくると「右傾化」「軍国主義化」と言って、抑えようとしてきたのがアメリカではなかったか。 もっとも、こうした米国の行動は筋が通っている。それが国益を尊重する国家というものだ。だが、同様に、日本も従属国から独立国としての道をめざす方は筋が通っている。もちろん、超大国の米国を怒らせては日本の国益に沿わない。日米同盟は今も不可欠だ。だが、従属国ではない、より独立した形で同盟を維持する道はあるはずだ。集団的自衛権を持ち、イザと言うとき米国を守る軍事行動をとれるようにするのも、その道を太くする。それなら「普通の国」になって結構と米国は言うはずだ。 それなのに、いつまでも従属国でよいとする雰囲気が今も日本のマスコミや政界、経済界に色濃く存在する。日経がカーチス教授や、ナイ元国防次官補、アーミテージ元国務副長官などの意見を好んで取り上げるのも、そうした姿勢の反映と見ていい。次回に、日本側のそうした知的風土を考えたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.12.03 15:23:05
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