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カテゴリ:随筆・評論・新書などの感想
戦後のドタバタの中、有志の手により設立された浮浪者収容所はやがてヤクザ組織に乗っ取られた。そこに一人の医学生=著者が死に場所を求めてやって来て、医務室に勤め始める。その頃の、僅か数ヶ月間ではあるが非常に内容の濃い時間を記した一冊。新鮮で、資料的にも面白く、思想的偏重もない。もっとこの時代のことを知りたいと思った。知らないことが多すぎる。
誰もが生きていくことに必死だった時代。著者が、学生連盟という、引揚者の手伝いをする組織に入ったのも、その日食べる飯を確保する為、ヤクザが浮浪者収容所の実験を握ったのも国からの補助金を掠め獲る為。著者は、自分が睡魔に勝てなかったせいで患者を見殺しにしてしまったことを書く。対立するヤクザの抗争が近くであるから、中立であるうちは医療の場を提供したい、怪我人が来たら治療してやってくれと所長に頼まれたことを書く(幸い、抗争は中止となった)。手伝いにやってきた、やがて妻となる女学生との出会いまで書くので、好感が持てる。 焼跡闇市時代、あまり専門的ではない医学的なこと、あとは動物のこと、小説以外で読んでいて楽しいのはそれらが書かれたもの。今頃になって自分の好みに気が付き始めた。 中公新書 1982年 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/03/23 12:41:24 AM
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