斉藤さんが受けたのは、大阪で行われた
エルビン・ジョーンズのグループ・レッスンだった。
10代だった斉藤さんは、すべてに衝撃を受けた。
その中でも「ドラム的な話でいうと・・・」
と前置きして、こんな感想を伝えてくれた。
「まさか、こんなに
大きな音がするものだとは思わなかった」
そのシンプルな感想から、10代の少年が
圧倒されている様子が目に浮かんでくる。
そして斉藤さんは、更にこう言った。
「大きいけれど、良い音なんですよね」
すると、高橋知己さんが、サラッと付け加える。
「大きくてもうるさくないんだよ。サウンドするというか」
あぁ・・・、それは私もちょっとだけわかる。
ライブで、渡辺文男さんのドラムの50cm前に座ってしまった時。
「こんなに近くでドラムを聴いたら、耳が痛くなっちゃうよ」
と思ったのに、ぜんっぜんうるさくなかった!
耳というより、体の芯から響いてくるサウンドには、
重量感があって、グングン巻き込まれてしまった覚えがある。
大きい音と、うるさい音は違うんだなぁ・・・。
「それは、音楽になっているか、いないかの違いですよ」
と横山和明くんが言っていたことを思い出す。
斉藤さんが参加したクリニックでは、その時
エルビンに新品のブラシを渡したそうだ。
それが、2時間くらいのレッスンが終わる頃には
再起不能になってしまった。
直角に曲がっちゃって!
「えっえぇー!新品だったのに?」
と、驚いたという斉藤さんに、
「そういうことってありうるんですかね?」
とCOOLさんが問うと、
「パワーが全然違う! 力がすごいんだよ
鍛えているから」と知己さんが言う。
「それがエルビンの秘密なんですかね?」と聞くと、
「だから、あんな力で
あの美しい音が出るのが不思議なんだよ。
力まかせにやっているわけではないんだよね」
と答えてくれた。
「もっとずっと繊細なことをやっていると思うんだけど」
と斉藤さんも考える。
力を持っている人が、力を抜いてプレイすると
こういうことになるのか・・・という話しになったけれど、
エルビン・ジョーンズが
どうやって演奏していたのかは、はかりしれない。
ただ、はっきりわかっているのは、
彼が、常に努力していたということだ。
地道に握力を付け、筋力を付け、
その上での「才能」と「テクニック」なんだな。
と思って、雲の上のエルビン・ジョーンズが、
ちょっと近くなったような気がした。
そして最後に、斉藤良さんは、
エルビンとの思い出を、こんな言葉で締めてくれた。
「とりあえず、もっと大きくなってから会いたかった!
あの時は 『何事か?』 となって
いただけだったので」
何だかわかる、その気持ち。