そのあしを みせるとき - 幽霊 -
足がない幽霊。円山応挙が描いた足のない霊は、日本的美学に基づくとも言われます。本来は、幽霊の着る経帷子(きょうかたびら)では、足元は裸足。しかし裸足の足は、幽霊にしては生々しすぎます。人形浄瑠璃でも、女の人形には足はありません。男の人形には、足があるにも関わらず。女性が足元を人目にさらさないのが、たしなみだったころのなごりです。足のない幽霊にも、この日本的美学がうかがわれます。もっとも人形浄瑠璃でも、「曽根崎心中」のお初には足があります。足を使った芝居があるから。1703年、元禄16年に公開された曽根崎心中。この近松門左衛門の作品は、心中ブームを巻き起こします。次々と若者が心中する大混乱。1723年、享保8年に幕府は心中禁止令を出します。1.心中した男女の埋葬禁止2.ひとり生き残れば、殺人罪で打ち首3.双方生き残れば、戸籍を削って非人とするあまりの厳しさに、心中はまさに命がけ。幽霊になって、この世に戻る気もないでしょう。日本的美学が、失われつつあるこの頃。現代の幽霊は、まだ足を見せることを恥じるでしょうか。【参考図書】 輝峻康隆,「幽霊」,桐原書店,1991年,207P