韓国の龍の日記

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• BOOK OFF礼賛

  綱島駅近くにＢＯＯＫＯＦＦがあり、愛顧している。３ヶ月以上動きのない本は105円（税込み）。ハードカバーでも人気のない本は３ヶ月経てば105円で買える。僕はこれで、中谷巌「入門マクロ経済学」他、今までに６冊ほど買った。しかも、読み終わった後ＢＯＯＫOFFにもっていけば、30～50円で買いとってくれる。ということは、都合50円で本が読めるということ。まるで貸本屋みたい。また、日によっては２０％オフサービスをしており、その時は105円→84円。きょうなど、きょう一日有効の100円券を、BOOKOFFで105円ｘ２で買った２冊の本を60円で買いとってもらった際にもらったので、それで立花隆「ぼくが読んだ面白い品・ダメな本　そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術」（文芸春秋社）をたったの５円で買えた。BOOKOFFはイオンと同じく僕にとっては宝の山だ。欲しい本が必ずあるとは限らないけど、105円の棚を見ていると、今では絶版になっているとか入手が難しい本なんかが偶然見つかることあって普通の本屋さんとは違った発見がある。しかし、20%オフとか100円券とかやっていて本当に黒字が出るのだろうか。ちょっと心配。

  2010年08月01日

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• 藤原直哉「『天のシナリオ』の読み方」（あ・うん）

  よくラビ・バトラの本の翻訳をされている経済アナリスト：藤原直哉さんの本。人智を結集して将来予測をしてもそれは当たらず、全く予想外の出来事により全然違う方向に進んでしまうことがよくある。でも、その思いがけない展開も、あとで考えると理に適っていたり、そうならざるを得ない、そうなるべき必然性があったことに気づいたことから、藤原氏は、「何か人知を超えた秩序、目に見える人間や自然界の動きを支配する、眼に見えない論理があるのではない」かといい、それを「天のシナリオ」と呼んでいる。この本は2005年に刊行されている。その時点で藤原さんが「天のシナリオ」はこうなっているのではないか、と想定していろいろな問題につき書いている。ユーラシア大陸の一体化、中国の勃興と危うい未来、米国の凋落等々。全10章の中で特に藤原さんの弁に熱がこもっているのが第８章「日本の政治は『草の根』情報公開を頭に入れて読め」で、ここの部分に僕は共感する。P.169　「政府自体が、これら勝ち組と同じように、世間に「勝ち」を認めてもらおうと躍起になっているように思えます。　しかしそれは間違いです。　政府は、そもそも勝ち組をめざすべきではなく、『負け組』になりそうな人を助けて『勝ち組』に入れるようにはからうべきです。　政府自らが勝ち組をめざせば、負け組のことを気にかけることすらなくなってしまい、負け組は忘れ去られてしまいます。　社会での勝ち負けは相対的なものですから、勝ちがあれば負けも必ず存在するのです。この『負けている元気のない人々』に活力を与えるのが、政府の本来の役目ではないでしょうか。　ここで政府が民間の争いに加わって勝ち組をめざすようなことをしたら、負け組はどうやっても這い上がることができません。」この本刊行当時は小泉政権のときで、まさに小泉政権自体が世間に「勝ちを認めてもらおうと躍起になっていたように思え」る。後に小泉政権が日本社会の格差を大きくしたと非難の声を浴びることになるが、小泉首相と一緒に仕事をした竹中平蔵氏はそれをいつも強く否定して小泉氏を絶賛する。　しかし、ごく私的な印象でしかないけれど、竹中氏は小泉氏と肝胆相照らした仲で、心から相手を尊敬して・・・というようには見えない。同じ穴の狢がお互いに確かに実務処理能力は高い相手を利用しあっただけにすぎないように見える。小泉・竹中に日本国民全体を上に上げるという哲学はなかったと思う。アメリカと結んで自分たちが「勝ち組」に乗ることが第一義であり、坂本龍馬のような日本全体を想う心は見えない。藤原氏の言葉を続ける。「日本政府は、負け組をしっかりとサポートするという懐の深さを示して、国のためになる政治をするべきなのです。　見栄を張って我が身を飾るような政府では、けっして国のためにはなりません。　私がよく述べる『勝ち負け』とは、『その時代において成功したか否か』ということを意味しています。　たとえば、弱者から搾り取ったお金で会社を大きくしても、それは現代では長くは通用しない道理です。　その経営者は、競合他社には勝ったかもしれませんが、時代の流れを見れば負けたといっていいでしょう。　今の社会では、同業社同士の競争など何の意味もなさないほどちっぽけなことなのです。　もっと大きな視野をもって、世の中の役に立つこと、世界や地球にとって良いことを成し遂げることが『勝ち』なのです。　そんな『勝ち』を万人がめざすようになれば、どんなに住みよい社会になることでしょう。天のシナリオは、間違いなくそのような世界を求めていると思います。」僕も全く同感。このあとが面白い。この本の未来の地点に僕らがいるから振り返ってみて面白い。「小泉政権の後継者として、麻生氏や高村氏や安倍氏といった面々が挙げられていますが、どの人が引き継いでも、小泉時代の流れから抜け出せないと思います。　小泉首相があれだけ豪語しても、どうにもならなかった改革ですから、あとはもう誰がやっても改革などできそうもないというのが私の意見です。　新生日本を築く人物として、福田前官房長官を推す声もありますが、政治の現実と社会の行き詰まりを十分理解している福田氏は、総理として指揮をとるつもりはまったくないのだそうです。　福田氏以外の総理候補は、米国型の競争社会を追いかけることに腐心していますから、小泉路線を脱却することは無理でしょう。　この際、小泉内閣の残影をひきずるのはやめて、日本社会の歪みを是正するためには、新しい風を吹き入れる人物でなくてはなりません。　それには、何もかも知り尽くして政治の第一線から退いた福田氏が、もしからしたら斬新な新生日本をリードしてくれるかもしれないと思います。　もしも福田氏が日本の政治の陣頭指揮に当たれば、昭和と平成時代の悪い部分の幕引きをして、誰もうまく対処できなかった『長きにわたる敗戦処理』を、国際的視野から丸く収めてくれるのではないかと、私はひそかに期待してます。」事実は小泉さんの後を引き継いだのは小泉さんも支援した安倍さんだった。「美しい国」を掲げて小泉路線とは違う方向に舵を切ろうとしたのかもしれないが、インド洋の燃料補給の件で民主党の協力を得られず、米国の怒りをかうことに怯えたのか突然辞めた。その後、どうしてもと請われたのだろうか、福田さんが首相に就任。「何もかも知り尽くして」いた福田さんは、小沢民主党との大連立を組まなければこの先進めないと腹を決めていたのだろう、その大連立が組めなくなって福田さんも辞めた。そして、麻生さん、鳩山さんを経て今は菅さん。この章の題にある「草の根」市民運動の出身の菅さん。参院選での惨敗で若干苦しい立場にはあるが、「天のシナリオ」の方向上にはいるのかもしれない。あとこの本では将来の日本のあり方として国民皆農業で最低限の自分の食糧は自分で生産すること、各地方が各地方にあった衣食住を打ち出して新たな「観光」産業を立てることを提言している。これも実際的な提言だと思った。

  2010年07月19日

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• 平川克美「株式会社という病」（ＮＴＴ出版）

  韓国でＥさんが主催している「メールなんでも相談」。そこで配信されていたメルマガ・クリエイジ僕が韓国にいたときに、このメルマガで一度に読んだ書評が、岩井克人「会社はこれからどうなるのか」とこの平川克美「株式会社という病」。僕も株式会社という制度に疑問があり、また、これから会社はどうなっちゃんだろうという疑問があって、日本に頼んでこの２冊の本を買い寄せた。結局、韓国在任中は１頁も読めなかった。さすがに帰国の時に全部の本を持ち帰るのは輸送費が高くつくので、殆どの本はソウルのBOOKOFFに売ったのだが、この２冊の本は売ってしまうと二度と手に入らないと思って持ち帰った。だって、岩井克人はともかく、平川克美という人は殆どの人が知らないだろうから。まず一週間前に岩井克人の本を読んだ。会社というものは法人としてのヒトであり、株式という形でずたずたに分割されるモノでもある、という驚きの論考。この本だけでも眼から鱗落ち状態だったが、続けて平川克美の本を読んだ。前書きに、この人が経緯を払うのは、網野善彦と吉本隆明と岩井克人であるという。どの人も僕が尊敬する人達だ。そしてきょうこの本をほぼ読み終わった。感想は、良き人間であれ、賢い人間であれ、その人なりに正しく生きていれば必ず繋がるということ。この本は実に素晴らしい。著者は超　頭が良く賢く正しく生きている人だと感じた。なんと素晴らしい日々。きのうよりも確実に今日の方が僕にとってはいい一日だった。よ～し、来月も頑張るぞ～

  2010年06月30日

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• カレル・ヴァン・ウォルフレン「人間を幸福にしない日本というシステム」（毎日新聞社）

  長男の通う中学校の市民図書室で見つけたこの本。まず題名にしびれた。現代の日本はひどく閉塞感が漂う。　「はたらけど　はたらけど　わが暮らし楽にならず　ぢっと手をみる」by石川啄木。僕なんかはまだ恒産があるだけいいけれど、今の日本には働きたくても働く場がもらえない人たちも沢山いる。ということは啄木の時代よりももっと悪くなっているということだ。著者はオランダ人のジャーナリスト。冒険を求めて世界を放浪。62年に初来日。フィリピン革命の報道でオランダ・ジャーナリズム部門最高賞を受賞。まるで坂本龍馬のような人だといえよう。村上春樹はイエルサレム賞を受賞した時の講演で「システム」という壁とそれに向かう市民という「卵」を対比させ、自分は飽くまで「卵」の側に立つと宣明した。この本の著者がいうシステムも同じものだろう。著者ははっきりと「偽りのシステム」という。この本のキイワードの一つがアドミニストレーターズ（管理者たち）。すなわち、官僚と企業経営幹部とエスタブリッシュメントな学者とプレス。彼らが甘い汁を吸い続けるために僕ら市民を「偽りのシステム」で囲い込み、幻想の虜にして「シカタガナイ」と思わせる。だから日本はchangeできないのだ。1994年にこの本は書かれた。この当時、日本人でこういう状況を喝破した人は一体何人いたろう？やはり世界を放浪し、歴史を渉猟して幅広く且つ大局的な視点を得られたからこそ異国である日本のことが日本人以上に見えてしまったのだろう。エスタブリッシュメントな人たちは学歴や胆力や腕力など何か人より秀でたものをもち、それで相対的に弱気な一般市民に上から目線でものを言う。しかし、人間というものはクールヘッドとwarm heartとを持ち合わせてこそ未来を築けるものだ。エスタブリッシュメントでない一般市民でも、クールヘッド（それは別に学歴を意味しない）と熱い心を連結させ、もっとはっきりものを言えば、エスタブリッシュメントにだって勝てるのだ。そして、そうなってこそ日本はよりよくなれる。この本で称揚されている学者は、福沢諭吉、丸山真男、吉野作造。みんな僕の好きな人たちばかりだ。ということは僕の読書体験は誤りじゃなかったと思わせてくれる。市民が市民としてアドミニストレーターズに対抗するにはどうしたらよいか？その処方箋が本書だ。是非心ある多くの市民に読んでほしい。

  2010年04月27日

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• 香山リカ「しがみつかない生き方」（幻冬舎新書）

  今度長男が通う中学校が日曜の２時間と水曜の２時間に図書館を市民に開放してくれている。そこにこの本があったので借りてみた。香山リカの本を読むのはこれが初めて。少し前に五木寛之と香山リカの対談の新書があって、そちらの方を読みたかったが、それはこの図書館にはなかった。何にしがみつかないか。それはこの本の章立てを見ればだいたいわかる。序章　　ほしいのは「ふつうの幸せ」第１章　恋愛にすべてを捧げない第２章　自慢・自己ＰＲをしない第３章　すぐに白黒つけない第４章　老・病・死で落ち込まない第５章　すぐに水に流さない第６章　仕事に夢をもとめない第７章　子どもにしがみつかない第８章　お金にしがみつかない第９章　生まれた意味を問わない第１０章　＜勝間和代＞を目指さない昔だったら、高望みさえしなかったら得られた「ふつうの幸せ」がこのごろは得ることが難しい。もっとも、ここで僕が言う「昔」というのも相対的なもので、たとえば今から40年くらい前の日本だろうか。さらにもっと昔に遡って身分制度があった時などは今よりももっと窮屈だったかもしれなくて、「ふつうの幸せ」を得ることはもっと難しかったかもしれない。要するに、＜勝間和代＞のような上昇志向をもたずに、普通の幸せを求めるのだったら、世間から思いこまされている諸価値にしがみつくことをやめればいい、ということだ。各章の見出しを見ると、なるほどその通りだと思う。ただ、本を読んでいて感じるこの違和感はなんだろう。五木寛之のように、「あなたがそうして生きているだけですごい奇蹟のようなことなんだ」というような抱擁感や優しさが感じられない。上から目線。香山氏の批判の仕方。「勝間氏は、『Ｃｈａｂｏ！』と呼ばれるチャリティプログラムに参加していて印税の二割を貧困にあえぐ国の子どもたちの自立支援に提供する、など社会貢献活動にも取り組んでいる。ただ、本格的な貧困に陥った人はこういったプログラムにより救済の手が差しのべられるのかもしれないが、そこまでには至っていない弱い立場にある人、失敗しかけている人、競争に参加できない、あるいは脱落した人たちの存在を、勝間氏のような『努力、競争、成功』を掲げる人はどう考えているのだろう。そのあたりは、他の前向きな生き方本を読んでいても明らかにされていない。」香山氏自身が、では、勝間氏が手を差しのべていないという立場の人たちにどういう手の差しのべ方をしているのか一向に明らかにされていない。この本で述べられているような、世間的諸価値へのしがみつきをやめて考え方を変えれば救われますよ、と言うのが答えなのだろうか？印税の二割を絶対貧困層に寄付するというだけでも立派なことではないか。香山氏はそれさえしていないだろう。にもかかわらず、「ここをやっているというけれど、あれをやっていない」という批判の仕方は「じゃあ、あんたはなんなんだ」という反感を買うだけだ。香山氏はこの本でもっともらしいことを言っているけれど、当の本人が、「私ってこんなこといえるくらい賢いし、勝間さんより美人でしょ、でも本は勝間さんほど売れないのが悔しい」って気持ちをきっともっているから違和感を感じさせるのだと思う。結局、香山氏自身が「自分がいちばん！」という気持ちを捨て切れていない。頭がよくて、容姿もよく、精神科医という世間的に尊敬される職業にあり、しかも作家という二足のわらじを履き・・・、この本の中では精神科医という仕事もやりたくてやっているわけじゃない旨、また女性として男性として差別された旨、また子どもをもったことのない欠落感らしきものも書かれていて、「私だっていろいろ苦労もしたのよ」とアピールしたいようだが、所詮恵まれた人が上から目線でものを言う際のカモフラージュの材料としか見えない。誰もが勝間和代になる必要はない。でも、香山氏のように上から目線で、突き放されたもの言いをされると、勝間和代をめざさない悩める人たちにも何の救済にもならないと思う。

  2010年04月03日

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• 勝間和代「断る力」（文春新書）

  勝間和代は時代の寵児のようで、食わず嫌いだった。印象としては、勉強して、徹底的に合理的な行動をとって、マネーゲームで儲けて、勝ち組に入りましょう、という人かと思っていた。立花隆・佐藤優「ぼくらの頭脳の鍛え方」（文春新書）では、立花氏がちょうど僕と同じような印象を勝間氏に抱いているようで、こう切り出す。立花「・・・勝間和代さんなんかはどうなんですか。僕はちょっと、俗物すぎて、つきあえないなという感じがするんだけど。」それに対し、佐藤「彼女は古典に対する関心がほぼゼロです（笑）。私の推察では、読んでも、努力の割に得るところが少ないというので、勝間さんは古典を切りすてていると思うのです。しかし彼女に関して、世間で非常に誤解されていると思うんです。彼女の発想とは、基本的にはマルクスの『資本論』で言うところの熟練労働者になれというものだと思うんですね。要するにマネー・ゲームの中で、株を買って、儲けて、資本家になれ、と言っているわけではない。あるいは出世して経営者になれ、というのでもない。断る力を身につけて、これ以上の仕事は引き受けない。そして、自分の時間を持て。ただし、普通に生きていると商品になってしまうから、スペシャリストになれ。つまり、代替が容易な単純労働者ではなく、『資本論』が説くところの熟練労働者になれ、と言っているわけなんです。」そして佐藤氏は、勝間氏がマッキンゼーにいたときにクライアントとの関係がこじれて何度も自殺しようと思ったこと、二度の離婚を経てシングルマザーであること、Ｃｈａｂｏ！というＮＰＯを通じて印税の２割を第三世界に寄付していること、等を紹介している。それで、僕が勝間氏に抱いていた印象とだいぶ違うのに興味をもち、勝間氏の「断る力」を読んでみた。内容としては、上記佐藤氏の要約の通り。非常にわかりやすく、明快に書いてあるし、章が終わるごとに復習のポイントが書いてあって、頭への定着がはかれるようになっている。さすが、勝間氏は頭のいい人、勉強ができる人だと思う。ものごとを断れないのは、それによって嫌われることをおそれるからだ。でも嫌われないためにやりたくないことをやって自分の身を細らせていくのでは誰のための人生かわからない。すべてのことを断らず、他人の意のままに生きたところで、それでも誰かからは嫌われるのだ。無限の能力と時間があるわけではない普通の人間だから、断るべきことは断って自分の時間をつくって自分が目的とすることに対して努力して、より周囲に対して貢献できる自分の力を伸ばすということ、それは正しいと思う。この人の本を読んで、単なる合理主義者ではない、暖かいものを感じた。勝間氏自身が順風満帆に来た人ではなく、多くの苦労をしてきた経験が彼女の思いを暖かいものにしているのだろう。

  2010年04月03日

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• 田宮俊作「田宮模型の仕事」（文春文庫）

  この本も昨年3月に日本に帰ったインチョンの教養人Ｋ君が教えてくれた。僕と田宮模型との出会いは小学生のとき、ドイツ戦車パンサーだったと思う。アメリカやソ連や日本の戦車が画一的スタイルだったのに対し、ドイツ戦車はそれぞれ造形美があった。僕はぐーたらだったから、別途タミヤ製の筆やら絵の具やら買ってリアルっぽく塗装することはしなかった。また、その頃、ジオラマ用に兵隊のプラモデルを売っていて、熱心な模型ファンはそれを熱であぶったり、パテをつけて膨らませたり、様々な色をつけたりして、たとえば井上陽水がギターを弾いている情景を作って、その作品をタミヤに応募。タミヤは優秀作品を集めた写真集を販売していて、それを見て僕は溜息をついていた。この本、一言で言うと成功したビジネスモデルがわかる本。タミヤって全然ぶれてない。日本企業のあくまで品質を大事にし、儲け過ぎる事をせず、従業員や購買者を大事にする、そういう良いところをぶれずに堅持している。だから今に至るまで押しも押されもせぬ地位を築いている。タミヤと比べると多くの日本企業がぶれまくっている。ビジネスマンは須らくこの本を読んで、どうしたらビジネスで成功できるか勉強した方がよいと思う。

  2010年01月26日

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• 吉川英治「宮本武蔵」（講談社）

  僕は子供の頃から高校時代まで、実に本を読めない男だったので、世に名高い吉川英治の本は今に至るまで読んだことがなかった。全く本を読まなかったわけではない。高校時代の夏休みにはドストエフスキーの「罪と罰」を読んで、最初のうちは長ったらしい名前がいろいろ出てくるのに辟易してページをめくるのが億劫だったけど、50ページほど読んでこの作家の文体に慣れてきた頃には読むのが止まらなくなった。大学に入ってからは、あるきっかけで大江健三郎に凝りだし、文庫で読めるものはすべて読み、新刊が出ては買った。その後は村上春樹。しかし、吉川英治のものは、当時歴史物に興味がなかったせいで、一向に手にしようとしなかった。僕が韓国にまずは単身で来た2003年2月末。当時のNHK大河ドラマは「武蔵（MUSASHI）」。このときは会社を立ち上げたばかりで、自分でも何をどうしていいやらわからず、土曜も日曜も返上して仕事をしていた。そして日曜の夜にTVをつけたら武蔵をやっていて、僕は中学～高校と剣道をやっていたこともあって、興味をもって見た。あ、そういえば亡くなった上司のMさんが、私がシンガポールに駐在していた1991年頃だったろうか、「君には緩急がない。せっかく剣道をやっていたのだから、ここでも剣道をやったらいい。君にこの本をあげるから。」とくださったのが宮本武蔵の「五輪書」。本は読んで、武蔵の求道者としてのストイックな厳しさに感銘を受けたものの、体育が万年「1」で運動コンプレックスがあった僕は、「はい」と言いながら結局剣道は再開しなかった。また2003年に戻り、NHK大河ドラマで興味をもった僕は、8月に妻子がこちらに来るときに、BOOK OFFで吉川英治の「宮本武蔵」を買って持ってきてほしいと頼んだ。たまたま妻が行ったBOOK OFFには１，２，６，７巻しかなかったのであるだけを買ってきてもらった。しかし、その後、仕事をもっと上手にやるために読むべき本が別にあり、また、次々と興味が別に移ってしまったため、きょうまでこの本は手付かずにきた。ドラマの方は欠かさず見続けたので、「大体わかったからいいや」と思ったのもある。最近になって、仕事をもっと上手にやるために読むべき本を読むのも大事だが、それだけでも息が詰まるので、娯楽としての小説も読むようにし始め、ふと書棚を見ると6年3ヶ月前に買ってきてもらった「宮本武蔵」が手付かずに残っていたので読み始めた。読んでから見るか、見てから読むか、という問題もあるが、僕の場合は見てから読んだことになる。武蔵役の市川新之助はあの目つきが武蔵像にぴったりだし、堤真一も、ちょっといい加減で自堕落な、それでいておっちょこちょいで人のいい演技がこの本の又八にぴったりだと思う。渡哲也演じる沢庵和尚は、本の年齢設定よりドラマは少し上に設定してあるけれど感じは出ている。米倉涼子演じるお通は、一途なところは本に描かれている性格をよく表しているが、若干違うような気がする。今回本を読んで思ったのは、ドラマを見てすべてわかった気になってはいけないということ。もちろんドラマつくりのプロが作った作品だから、とことん原作を解釈して、それを本よりも限られた時間で、しかも言葉の説明なく演技で表さなければならないから仕方ないことではあるが、本にはあってドラマに抜け落ちたところが多々あると感じている。読んでいるのはまだ２巻の途中だが、たとえばこんな部分を読むと、必ずしも史実かどうかわからないけれども、吉川英治が現代も昔も同じ人間のやること、そう大きな違いはないはずだと大胆に創造したのだろうなと思われる箇所があって、あらためて吉川英治の人間洞察のすごさを知る。文庫版第2巻の206ページ。「街に歌がさかんになりだしたのは、何といっても太閤の世盛りからだった。室町将軍の頃には、歌があっても廃頽的な室内のものだけだった。その頃は、児童がうたう歌まで、ひがみっぽい暗い歌が多かったが、太閤の世になってからは、歌も明るくなり大きくなり希望的になって、民衆はそれを汗をかきながら太陽の下でうたうことを甚だ好んだ。　関ヶ原の役の後、社会文化に家康色がだんだん濃くなってくると、歌もすこし変って来て、豪放さはうすくなった。太閤様のころには、民衆からひとりでに歌が湧いてきたが、大御所の世間になってからは、徳川家付の作者が作ったような歌が民衆へ提供されて来た。」さもありなんと僕は思う。だから、見てから読むか、読んでから見るかはどちらでもいい。一つの作品、或いは一人の人間の有様を味わい尽くすには、本とドラマと両方を心の目で読む/見るに如くはない。

  2009年12月23日

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• ジャック・ウエルチ「わが経営」（日本経済新聞社）

  大学の大先輩Aさんに貸してもらったこの本。上・下巻のやっと下巻の286ページまで読んだ。正直、今まで読んできて、ジャックのあくなき上昇志向に食傷気味だった。だって、僕にはそんな上昇志向はないもん。こじんまりまとまりたいタイプだもん。だけど、第24章「CEOという仕事とは」を読んで目が開いた。「あまり口を出さない、徹底して口を出すいつ口を出すべきか、いつ自由にさせるべきかを計るのは純粋に本能的な判断だ。メディカルシステムが抱えたX線管の問題には首を突っこんだが、ガン診断におけるGEにとって最大の技術革新、270万ドルのスキャナーの企画や価格決定には加わらなかった。これはたいていの場合、純粋に直感の問題だ。私が加わればプラスになると感じとったときは、最後まで口を出す。自分には大した考えがないと自覚しているときにはあまり口を出さないようにしている、ここで要求されているのは一貫性ではない。ときには行き当たりばったりのいい加減さのおかげで仕事が早く片づくこともある。自分が力を発揮できるチャンスを好きに選ぶことだ。自分にできると判断したときには積極的に現場に出かけたいと思っているし、自分の出番ではないと考えたときには、フィールドの外から応援することにしている。こっちのほうも同じように大好きだ。」僕は現在韓国のたった5人の会社のCEOなのだけれど、そしてそのうちに日本に帰国辞令が出ると一挙に課長あたりに降格になるのは見え見えだけど、CEOは直感や本能的判断に身を委ねるときもなきゃいけないということがわかり、常に左脳的だけではないことが理解できて、現在C.E.O.の人、これからC.E.O.になりたいという人には参考になるだろう。ジャック・ウエルチさん、実に幸せな人生を生きられたものだと感心する。

  2009年11月13日

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• 和田裕美「和田裕美の必ず結果が出せる営業法則」（ｳﾞｨﾚｯｼﾞﾌﾞｯｸｽ新書）

  これもインチョンの教養人K君が置いていってくれた本。この本もこの間読んだ壇れみさんの本と内容が相通ずるものがある。やっぱり女性はすごい！偉大だ！「男のロマン」なんて言っている男は、してやられちゃうんだろうな。僕は営業に自信がないから、こういう本を読んで勉強します。さすがは、さとなおさんも絶賛する和田さん！ありがとう、壇さま、和田さま。

  2009年11月11日

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• 壇れみ「テッパン男」（ｳﾞｨﾚｯｼﾞﾌﾞｯｸｽ新書）

  ３月に日本に帰ったｲﾝﾁｮﾝの教養人K君が残していってくれた本を今読んでいる。壇れみさんのことは何も知らなかった。この方は1970年代生まれで、銀座の高級ｸﾗﾌﾞのホステスをやっていた人。僕は思うのだけど、水商売の人っていうのはすごい。何がすごいかというと、色々な種類の人間に接しているので、人間類型をよく御存知で、どんな人間にも対応できる。僕がもし会社の社長ならば、営業マンを須く水商売に送って営業の基本を勉強させる。戸塚ヨットスクールや地獄の特訓よりもよっぽど効き目がある。「テッパン男」・・・なんのこっちゃわからないだろうと思う。要するに女性にモテる男のこと。この本では女性にモテる男になる鉄則を20こも披瀝してくださっている。一つ一つは小さなことだ。曰く、手がきれいであるべき。きれいな靴をはくべき。福田前首相や安部前首相のように、背広に着られるような人ではダメ！どれも真実だと思う。そして、この本がすごいのは、女性にモテる男になることだけを提言しているのではなく、男にモテる男＝仕事ができる男になれる法則を明かしているところだ。その意味で、女性に興味のない男も須くこの本を読むべし。そして、僕は女性というものは大概男よりも優れていると思うのだけど、その優れている女性がつまらない男に引っ掛かったりする。ということは、女性もこの本を須く読んで人間のあるべき姿を勉強すべきと思うわけ。こんなすばらしい女性が日本人にいて、僕ら日本人は日本語が読めるのだから、何はともあれ、日本人１億２千万人、須く読むべし。僕が書くと「堅い」文章になっちまうけど、この本、すごく読みやすい。あまり勉強していない人でも誰でも読める。それで、読んで後の人生楽になるのだったら、それでいいじゃない！壇れみさん、僕のソウルメイトじゃないかと思うくらい痛快だ。しかもきれい。→ブログはここhttp://ameblo.jp/remiremiお友達になりたいわ～

  2009年11月09日

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• 高樹のぶ子「甘苦上海」が終わった

  前に書いたけれど、日経新聞が届くといのいちばんに読んでいた連載小説「甘苦上海」が終わった。実にくだらなかった。いつも僕はこの小説をくさしながら、「ひょっとしたら最後は大団円で終わるのでは？」という一縷の望みを託していたが、くだらないままで終わった。想定どおりではあるけれど。高樹のぶ子の小説を読むのはこれが初めて。この人はもっとまともな小説を書く人だと思っていたけれど、この程度のものしか書けないと分かった。紅子の元から不意に去った石井京。石井は中国人女性：周ビンをはらませていた。そのことを知って紅子は煩悶するが、周ビンの父親から「娘をよろしく」との手紙を受け、石井京にそのことを知らせなければと、まず周ビンに会いに寧波まで会いに行き、周ビンと一緒に石井京に会いに行く破目になる。石井と深い関係になったにも関わらず、周ビンの前ではそれと悟られぬように振舞う。紅子の中で悪魔と天使が行きかう。でも周ビンのおなかの子には何の罪もないことをわかっているので、紅子の中の天使が勝ち、そのまま寧波のホテルに戻る。食欲のない紅子は青島ビールをあおり一人ベッドに入る。そこに、空耳か現実か、誰かの来訪を告げるベルが鳴り、紅子がその人を迎え入れたのかどうか余韻を残して小説は終わる。結局、この小説では紅子の心の振り子がワッタカッタ（行ったり来たり）するだけだった。50を過ぎたいい年こいたキャリアウーマンが、経験から学ばずワッタカッタするだけで一年間の小説をもたせて高樹のぶ子さんは何を訴えたかったのだろう？まるで今の日本の政治の停滞性、或いは郵政民営化をめぐるワッタカッタを反映した小説。別にそんなこと、小説で読まされなくても現実を新聞で読めばわかるよ。くだらなさの二乗を描いてなんになるの？高樹のぶ子という才女。「策士策におぼれる」みたいなもんで、自らの才に恃みすぎて、自身のくだらなさを露呈してしまった。

  2009年11月02日

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• 佐伯泰英「子育て侍」（幻冬社文庫）

  素浪人さんから頂いたこの本を読んだ。佐伯泰英さんの本を読むのはこれが初めて。タイトルを見て、「子連れ狼」の亜流かと思ったが、「子連れ狼」のような凄惨さはない。主人公は赤目小藤次。別名酔いどれ小藤次。ひょんなことから、子連れの刺客須藤平八郎を討ち果たし、赤子の駿太郎を当の須藤平八郎から託され、赤子をおぶりながら刃物や刀の砥ぎ稼業をする。実はこの赤子の駿太郎はやんごとなき家柄の娘と、一介の侍の須藤平八郎との間にできた子供であり、やんごとなき家の者達が駿太郎を亡きものにしようと追いまわる・・・・。この小説では「子連れ狼」と違い、長屋の気の良い人たち、気風のいい人たちがたくさん出てきて、読んでいてほのぼのとする。そしてみんなそれぞれ心が繋がっている。これぞ古きよき日本の社会だったと思う。

  2009年09月22日

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• さだまさし「解夏（げげ）」（幻冬舎文庫）

  昨年の日本人学校秋祭りで買った本。そろそろ今年の秋祭りが来るので、その前に読んでまた古本フェアに供出して誰かに読んでもらおうと思って読み始めた。500ページ近くあるので手に取るのが億劫だった。でも、一旦読み始めたら止まらない。それほど詩情も日本情緒も人情もある本で、時折目に溢れる涙を止められなかった。表題作のほか、「秋桜（あきざくら）」「水底の村」「サクラサク」の4篇収録。「解夏」では難病であるベーチェット病の結果失明を余儀なくされる教師が主人公。舞台はさだまさしの故郷である長崎。この小説では時間がたゆたうようにゆっくりと流れる。長崎の丘に吹く風が肌に感じられるような小説。「解夏」という言葉自体僕は知らなかった。この小説で僧である林老人が主人公に説明するところによると、禅宗の僧たちが托鉢しながらの辻説法に出立するのが旧暦4月16日で「結夏（けっか）」。そして辻説法を終えて僧たちが元の庵に戻るのが旧暦7月15日で「解夏」。主人公の視力は難病のため徐々に徐々に失われていく。それは緩慢な死に似ている。林老人は主人公のこの境遇を知って、「つらい行ですなあ。視力を完全に失ったときにあなたは不安と恐怖から開放される」と言う。つまりは、「解夏」に重ねて主人公の「死」と「再生」を描く物語なのだ。解説で重松清が書いているように、「解夏」に限らず他の短編もすべて、過去と現在と未来が交錯する。過去は「思い出」、未来は「希望」。そして現在の中に「思い出」も「未来」も入っているということだ。さだまさしの小説は出てくる一人一人に対するまなざしがやさしい。もちろん、善男善女ばかりが出てくるわけではない。心に傷を負っている人、堅い殻に閉じこもっている人にもその人なりの理由があり、その理由も含めての許しがある。人間はみな同じだよ、という。その面で重松の小説との親和性を感じた。癒される本だ。

  2009年09月11日

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• 高樹のぶ子「甘苦上海」（日経新聞連載）

  日経新聞の朝刊の連載小説といえば、かつては五木寛之の「旅の幻燈」とか、なんといっても一連の渡辺淳一の小説（「化身」「ひとひらの雪」「失楽園」等々）とか、男目線の小説が多かった。特に渡辺淳一の小説は、喪服姿に欲情して昼間から喪服女性を樹に押し付けてことを致すなど、朝っぱらから仕事のための臨戦態勢に入り込むにはテキメンだった。今の連載は高樹のぶ子「甘苦上海（かんくうしゃんはい」。この主人公は紅子といって、50歳をこえたキャリアウーマンで、上海に自分の店（エステだったかな？）を出して成功している。やり手であり、それでいて女性としての魅力ももっている女性。その彼女が新聞記者崩れの京（けい）という30代の男に惚れこみ翻弄される。事業家としても女性としても高い自負心をもっていた紅子。その紅子が自分をコントロールできる範囲で京とつきあい始めたつもりが、どんどん深みにはまり、まるで純情可憐な乙女の真摯な恋愛のように真剣に京を好きになる。一方京は記者時代に取材していた社長婦人だかなんだかと懇ろな関係になり、最後その婦人が自殺する前日にその婦人宅で婦人がピアノを弾くのに寄り添っていたのを記者仲間に知られている。婦人の自殺は京が書いた記事が原因だという話もある一方、その寄り添いあう姿からすると、婦人の自殺の原因は他にあって京は心傷ついた婦人を支えていたのかもしれないことも示唆される。それだけ京はゴロツキのようでもあり、腐った男のようでもあり、ジゴロのようでもあり、或いは繊細な男のようでもあるミステリアスな存在。そこに手練手管も備えたはずの50女がどんどん惹かれていき、そういう自分を冷静に見ているメタ自分があったはずが、いつのまにか冷静さを欠いて、嫉妬したり、怒ったり、ちょっとしたことで喜んだり、泣いたりする。最近のお話は、＜あらすじ＞によるとこうだ。「紅子は京を杭州旅行に連れ出した。旅の終わりに別れ話を切り出そうと考えた紅子だが、先手を打たれる。雨の中に紅子を置き去りにしたまま、京が姿を消してしまった。」雨が降り、傘をとってくるとホテルに戻った京だが、なかなか帰って来ないので紅子が部屋に戻ってみると、京の荷物とルームキーの一つがなくなっている。京の携帯に電話しても出ない。きょうの新聞の後半の方はこうだ。「逡巡の間に、京に二度電話を掛ける。いずれも呼び出し音だけで出ない。私の番号が表示されるのを見て、出ないのだろうと思い、部屋の電話から掛けてみるが、やはり鳴り続けるだけで、やがて自動的に接続が切られた。自分を掻きむしりたいほど惨めだ。　無礼の極み、非礼この上なし。何の説明もなし、別れの言葉もなし、けれどカードキーがテーブルに置かれていたのは、京の意志に間違いないわけで、彼はわたしのこの苦痛が判っていてそうしたのだと思えば、八つ裂きにしたくなる。　やはり上海に戻れば良かった。今夜この部屋で眠るべきではないのだ。松本の助言に従えばこの苦痛から逃れることが出来たのに。　時計を見ると九時を回っている。食欲はないけれど、ルームサービスでスープとサンドイッチを頼んだ。ルームサービスはすぐに来た。そのチャイムさえ、もしや京かと思う愚かさ。頭を上げずに受け取りサインする。」ここに出てくる松本というのは、関西人の、単身赴任の企業駐在員で、あるきっかけで紅子と知り合い、最初はそのとぼけた雰囲気もあり、「どうせ企業派遣の駐在員で、上海シャオチエとお金で適当に遊んでいる普通の男だろう」と見くびり紅子は男としての魅力を感じないが、あるきっかけで性的な関係ももつ。その後も松本には京が一番で、松本は二番目の男と公言してはばからず、京に翻弄されて口惜しいとき、哀しいときに松本と会う、というそういう関係。その松本は紅子から京がいなくなったいきさつを聞いて、「まだ宵の口や。この時間やったら二時間で上海へ戻れるで」と電話で言ったのが上記の「松本の助言」。----------------------------------ふう、疲れる。前に会社の先輩M部長と話していたときに、「あの小説、しょーもないやろ。でもこの間もKと話してたら、『しょーもないけど読んでしまう』っていうんで意見が一致してな」と言われ、激しく同意してしまった。僕は日経新聞はうしろから読む。まずこの小説。次に「私の履歴書」、「交友抄」。そして「文化」は内容によって読んだり読まなかったり。それから段々前のページに移る読み方。僕からしたら、本当にしょーもない小説。でも、「嫌い、嫌いも好きのうち」なのかもしれない。でもやっぱり、こういう「すべてを自分の手に入れなければ気がすまない」プライドの高い女性というのが翻弄されて右往左往したり、またお高く止まったりするのを読んでも「どーでもいいよ」と思う。そうそう、この小説は臨場感を高めるために、先日の日食なんかも時事的に取り入れるなど工夫している。なんかそういうのも小賢しい。上記した場面の前の部分から僕が感じるのは、京が今回去ったのは紅子への意趣返しとかではなく、自殺するためじゃないか。そういう匂いを紅子自身も感じとる場面も何度か描かれていたが、いざいなくなったら上記の通りの紅子の怒りよう。そういう気持ちがの移り変わりがリアルな女性の描写だと著者は考えているのだろうが、そんなことを中年男に読ませて何になるのだろうか？結局僕自身が充分大人の男ではないということなのだろうが、もし紅子に限らず女性なら誰にでもあるものを、心の動きも含め赤裸々に僕ら中年男に教えてくれているのなら、僕は「女性の欲深さ」はもう大体察しているので、あえてそれを目の前に差し出して見せてくれても全然嬉しくないっすよ、と言いたい。そう言いたいんなら読まなきゃいいじゃないか、と言われそうだが、どれだけ陳腐な内容が今後展開するかを見極めたいという思いはある。

  2009年09月01日

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• 吉本隆明「共同幻想論」（角川文庫）

  きょう、この本を読み終えた。学生時代に読んだときは、柳田国男の「遠野物語」や「古事記」をテキストに論を進めていて、これが現代の何の解明に通ずるかがわからなかった。しかし、亀の甲より年の功。僕も47年も生きて、腹も出てきたし、「きったね～な、おやぢ」（by西城秀樹　at　寺内貫太郎一家・・・あ、違った。おやぢじゃなくて、悠木チホ演ずるばあちゃんだった）と言われかねない汚れたおやぢになってしまったけれど、長く生きてこそわかることもある。＜簡単なレジュメ＞・全幻想領域＝上部構造・人間の社会の成り立ちは、個人、男女（家族）、社会。・個人＝自己幻想＝文学、詩歌、（音楽？）　男女（家族）＝対幻想＝セックス　社会＝共同幻想＝法、宗教、権力・これらの幻想がどう絡み合い、侵犯しあいながら、個人が家族を作り社会を作り、そして家族から個人が疎外され、社会から個人や家族が疎外されていったかということを解明した本。・つまり、この本は人間や社会や世界のトータルな把握に導いてくれる本。-------------------------------------------------------------------僕は権力や名声はいらない。お金も、小銭は欲しいが使い切れない大金は欲しくない。自分のささやかな楽しみ（読書、音楽）をもてて、いさかいはありながらも家族がいつか離れていく宿命のときまではつながりあっていて、そして社会を少しでもよい方向にもっていければそれでいいし、それができればもう死んでもいい。でも死ぬまでに、できれば吉本さんが到達し解明した人間、社会観を吸収し、できうればそこに1mmでも何かを付け加えたいものだと思う。奇麗事に聞こえるかもしれないけれど、それが人間と言う種が継続していく目的だと思うから。子孫に美田を残す気はないけれど、子孫がより幸せに暮らせる社会つくりに少しは貢献したいと思う。

  2009年08月25日

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• 吉本隆明「改訂新版　共同幻想論」（角川文庫）

  大学時代に字面だけ追って、とりあえず全頁を眺めた本。その後、吉本隆明・糸井重里「悪人正機」や吉本隆明「家族のゆくえ」を読み、徐々に「今なら読めるかな？」と思った。そうそう、「家族のゆくえ」には「共同幻想論」の一章である「対幻想論」が所収されていて、このときに少しわかった気がした。そして今、この「改訂新版　共同幻想論」を読んでいる。最近、「吉本隆明　五十度の講演」を聴いているためか、よく理解できているような気がする。なんというか、吉本さんの思想やその流儀に慣れてきたというか。いまこの本を読んで、吉本さんは何とまじめな、聡明な、地道な、謙譲な人かとよく理解できる。吉本さんを再度表舞台に立たせた糸井さんに感謝したい。吉本さんの出発点は詩人だし、糸井さんの出発点はコピーライター。どちらにも共通するのは言葉に沢山のイメージを重ねたり、言葉から沢山のイメージを汲み取る人だということ。結局人間が人間たりうるのは言葉があるからで、言葉として連綿と残されてきた歴史を読み解くことで人間の次代が切り拓かれるのだと思う。その意味で、自民党も民主党も言葉をもっと大事にしなきゃいけないと思う。そして僕ら大衆は、為政者の耳触りのよい言葉や、小気味よい言葉に惑わされて本質を見失ってはいけないと思う。だから地道に勉強することが大事だと思うきょうこのごろ。

  2009年08月20日

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• 「安岡正篤一日一言」（致知出版社）

  昔、日めくりカレンダーというのがあって、そこには毎日一言、教訓となるような教えが書いてあった。この本は、一年365日（いや、閏年のために366日分）１頁に２日分ずつ、安岡師の著書から名言を取って掲載している。僕はこの本を２年前に買い、毎日該当ページを読んでいる。併せて、「中村天風一日一言」（致知出版社）も読んでいるが、こちらは若干言い回しが難しい。安岡師は非常に平易な言葉で教えてくださる。８月９日　木の五衰「木の五衰」ということがある。「木の五衰」の一つは「懐の蒸れ」。枝葉が茂ることだ。枝葉が茂ると風通しが悪くなる。そうすると、そのために木が弱る。弱るから、どうしても根が「裾上がり」つまり根が浅くなってくる。根が上がってくる。そうすると生長が止まる、伸びなくなる。頭（梢）から枯れてくる。これを「末（うら）枯れ」という。末というのは梢（木末）という意味だ。梢が枯れてくると「末（うら）止まり」生長が止まる。その頃から、いろいろの害虫がつく。「虫食い」。８月１０日　人間の五衰人間もそうだ。いろいろの欲ばかり出して、すなわち貪欲・多欲になって修養しない。つまり省しない。そうすると風通しが悪くなる。つまり真理や教えが耳に入らなくなる。善語・善言を聞くということをしなくなる。そうすると「裾上がり」といって、人間が軽薄にオッチョコチョイになってくる。そうするともう進歩は止まってしまう。すると悪いことにばかり親しむようになる、虫が食うのだ。つまらないやつにとりつかれ、そして没落する。これおは「人間の五衰」だ。だから植物の栽培もこの省という一字に帰する。-----------------------------------------------------------諄々と説くところがすばらしい。これを読めば誰でも腑に落ちるのではないか。僕はノリピー好きだけど、８月１０日の項はノリピーのことを言っているようにも思える。つまりは、どんなに良い人間でも少し気を抜くとそういうことになってしまうということだ。木は、枝葉が生い茂ると裾上がりになるから剪定＝余計な枝葉を省く、ということをしかきゃいけない。日本の官庁が○○省というのは、まさしくこの意味で、余計な物を省くということからその名がついたと安岡師の別の本で読んだ。貪欲・多欲を廃し、省くこと。昨日書いたスローライフに通じるような気がする。

  2009年08月10日

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• 高村薫「照柿」（講談社文庫）

  高村薫・・・もう数年前に、今は帰国した教養人：ますじいに、「龍さんが読むべき読書リストはこれ」と言われ渡された本の中に「レディ・ジョーカー」や「神の火」が入っていた。その硬質の、しかも「神の火」では原子力発電に関する微に入り細を穿った描写に舌を巻いた。「マークスの山」や「レディ・ジョーカー」での主人公：警部補合田雄一郎を取り巻く警察の描写のディテールにも驚愕した。しかも、高村薫は女性にしてこのハードボイルド。合田雄一郎シリーズの2作目にあたる「照柿」。昨年のソウル日本人学校秋祭りの古本市で上下巻とも求めた。アマゾンの書評を読むと、「夏の暑さがじわじわじめじめと迫ってくる」旨書かれていたので、手に取るのが鬱陶しく今まで放置してきたが、幸いにも今年のソウルの夏は雨も多く、いつ梅雨が去ったとも去らずともわからぬような気候が続くので、今読んでもそれほど息苦しくはあるまい、と思い読んだ。「照柿」とは熟柿に西日があたったときの色。この臙脂色がこの小説の出発点であり、小説全体を彩る色だ。その中でも合田雄一郎の幼馴染　野田達夫の父親が「青の時代」という絵を描いており、臙脂色に青の絵、青のワンピース、赤の口紅、赤のワンピース、鮮血、が混じる。芸術、放蕩、親子、男と女、未来を規定してしまう子供の一言・・・・。すごい人間描写だと思う。また、野田達夫が属する工場の描写も秀逸。メーカーに勤める僕も「さもありなん」と思うようなリアリズムに徹した描写。これが日本の、工場の勤める人たちの姿だと思う。そのプロ意識も、その搾取のされ方も、その「会社のイメージよりも現場の待遇改善を」という意識も、「俺なんか、関係ねえよ」という若い工員の意識も。読み始めたらとまらない。おそるべし高村薫。

  2009年08月08日

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• 松本仁一「アフリカ・レポート－壊れる国、生きる人々」（岩波新書）

  この本も教養人Ｎさんが貸してくださった。「アフリカ」。僕にとっては遠い国々。そう、うちの会社の諸先輩方は、若干の資本参加していた会社がナイジェリアにあったので、若かりし日々ナイジェリアでご苦労されていた。が、今ではその会社との関係も清算し、ビジネスでアフリカと直接関わりあうことは稀になってしまった。だから、アフリカといえば、TOTOの「アフリカ」くらいしか知らない。僕は韓国にいるせいで、前近代的な非人道国家としては北朝鮮、それから小さい頃からの憧れが幻滅に変わった、民主主義的超先端国であるにも関わらず、過去うまくやったことが今でも通用すると錯覚しているアメリカ、この二国にどうしようもない憤懣を抱えているが、この本を読んでアフリカの沢山の国はどちらかというと北朝鮮に似た、しかし、北朝鮮ほどはひどくなくてまだ希望がもてる国々だとわかった。それにしても、北朝鮮、アメリカの上に更にアフリカのことを考え続けて、自分に何ができるかと思うと、身がもたない。所詮僕のキャパシティは大きくないからできることは少ない。だったらアフリカについては知らん振りを決め込むのがいいのかもしれない。まずはジンバブエ。2007年6月にムガベ大統領は、物価上昇は英国の策略とアジり、何の前触れもなく物価半減令を出したという。急に言われても仕入れ原価を大幅に割る価格では商業主は損をするだけなので、店頭からモノが消えた。その結果、物価上昇率は16万倍に上がった。それまでは白人の農場で、ジンバブエ人の農業指導士の下、輸出ができるくらいの収量を誇っていた農業も、ムガベ大統領が煽った、白人は抑圧者であり、彼らのせいでジンバブエ人は貧困を囲っている、白人の農場を自分達の手に取り戻せ、という指令で、結局は白人が追い出され、農業指導士になろうなんて奇特な人たちはいなくなり、それまでうまくいっていた農業も壊滅。西欧列強が無理やり引いた国境のせいで、一つの国に２０もの諸部族が入り混じっており、その最大勢力出身のムガベ大統領は、同じ部族の人たちには若干篤く処するため、長期政権を維持している。北朝鮮と同じ、或いはアメリカと同じ、セレブ階級が自分さえよければいいという人生観。うちの会社の諸先輩方がいたナイジェリア。石油が取れる国だが、石油を輸出して得られた外貨は政府関係者の間だけで、何に使ったかもわからぬまま消えてしまい、一般庶民を益することはない。公立学校の先生の給料も遅配、或いは無配となり、子ども達は満足な教育も受けられないから民主主義は進歩しないという悪循環。でもナイジェリアでは庶民たちがNGOをつくって自分達でできる素焼きの器を売ったお金を出し合って先生の給料をひねり出しているそうだ。この本の副題である、「壊れる国、生きる人々」。そう、アフリカの救いは北朝鮮のように、人民が完全に無力化されていないところだろう。或いはアメリカと違って、巧妙なロジックとずる賢い演出によって民主主義を偽装しながら騙すという行為がないことだろう。アフリカのセレブは見る人が見ればみえみえの横暴であって、偽装も何もない。ごくごくささやかでつつましい動きだが、人民が知恵を出し合って生き続けている。アフリカをどうしたらいいか、は原丈二さんが「新しい資本主義」という本で考えてくれているから、僕はこれ以上悩みを引き受けない。でもこの本で学んだことは紛れもない現実として記憶し続けよう。

  2009年07月18日

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• 堤未果「貧困大国アメリカ」（岩波新書）

  この間貸してもらった「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」がすごくよかったです、と貸し手のNさんに申し上げたところ、「じゃあ」と貸してくださったのがこの本と「アフリカ・レポート」。これらの本を読むと、僕一人じゃとても抱えきれないと、心が苦しくなる。「貧困大国アメリカ」。僕が小さい頃に「奥様は魔女」を見て憧れた豊かなアメリカはもう今はない。中産階級が消失して、ものすごい金持ちか、貧乏人に二極分解したのが今のアメリカだ。民主主義が定着していない国だったらこういうことがありうるのはわかる。たとえばそれはアフリカであり、北朝鮮だ。しかし民主主義大国であるアメリカで、こういう状況を放置しているというのは、人間として許せないことだ。フード・スタンプをもらって、一日1ドル50セントのチーズ・マカロニで食を維持し、しかしその高カロリーでぶくぶく太り短命となる。民営化で日本のような国民皆保険はなく、民間の保険会社に高額の保険を掛けなければならない。民間保険会社は自社の業績を上げるために、医者の診療を急かす。結果、高額の保険を払い続け、いざ保険を適用すべき病気になったときにはあとは破産しかないという状況。アフリカや北朝鮮なら、（為政者は）一体どうしたらいいか頭が廻らないからしょうがない面もあるが、世界の頭脳が集まっているアメリカで「どうしようもない」ことは有り得ない。つまりは、これらもサブプライムもすべて「自分さえよければいい」セレブ階級が、ブッシュ馬鹿政権と結託して、弱い一般庶民にすべての重荷を背負わせているということだ。ああ、何たること。これが民主主義大国アメリカの21世紀の姿か？多分、アメリカ政府＝セレブはアメリカの国民の半分以上が死んでしまえばいいと思っているに違いない。これで国といえるのか？結局アメリカはすべてのことに確信犯だろう。そんなアメリカをのさばらせてはいけない。これを解決できるのは東洋をおいてないと思う。日・中・韓、連帯せよ。・・・これが「貧困大国アメリカ」を読んでの雑感です。

  2009年07月16日

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• 三枝匡「V字回復の経営」（日本経済新聞社）

  学校の先輩Aさんが貸してくださった本。三枝匡さんはボストンコンサルティング勤務後、自分のコンサルティング事務所を開き、現在はミスミグループの代表取締役。この本は、小説仕立てで赤字事業部をV字回復させる流れが書かれている。三枝さんの実際経験した5社でのことが、秘密保持の必要性もあり、具体的にどことはわからないように、混ぜ合わせて書かれているそうだ。さすがに長年の実際経験があるだけあって、大企業病に陥った停滞事業がどんなものか、そこで働く社員たちのメンタリティはどういうものか、改革はどういう手順で行わなければならないか、そのときの改革者の資格は、そのときに改革者が留意すべきことは･･･等々が非常にリアルに、ことこまかに書かれていて非常に参考になる。停滞感のある大企業に勤める経営陣から一般社員に至るまで読んで、自社の状況が一体どの辺にあるか、そして改革の必要性があるならそれをどのように推進すべきか、またそのときの「あなた」はどういうマインドでことにあたるべきか、といったことを考えられたら、非常に有益だと思える。よい本です。

  2009年07月11日

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• 村上春樹「1Q84」BOOK2（新潮社）

  まずはお詫びして訂正を。この間書いた日記では「上巻」と書きましたが、あれは「BOOK1」の間違いでした。「BOOK2」も読み終わりました。男主人公の天吾の章と女主人公の青豆の章とが交互になっている構成で、しかも天吾と青豆とが段々繋がってくるので、「先が読みたい」の２乗で読み出したら止まりませんでした。しかも内容的に、オウムをモチーフにしたと思われる宗教がらみの話や、浅間山荘事件をなぞったと思われるエピソードや、人間ではない何者かであるリトル・ピープルなどが出てくるものだから、読んでいる間じゅう心穏やかならず、仕事も手につかずぼっとしてしまうほど僕の心に影響を及ぼしました。しかし、前に批評した「アフター・ダーク」ほどではないけれど、いろいろな問題が解決しないままで、或いはオチがつかないままで終わってしまう点は、性善説がモットーの僕には不完全燃焼感を感じずにはいられませんでした。青豆がなぜああいうことにならなければならないのか。リトル・ピープルと天吾たちとの闘いは結局どうなるのか、考え出すと眠れなくなりそうです。余韻を残すという意味では、「1Q84」よりも「ノルウェーの森」や「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の方がずっと上のような気がしましたが、この評価は僕自身が読んだ年齢での印象が定着してしまっているので、今の僕がこれらを再読したとしてどれがいちばん上だと思うかは定かではありません。1Q84で宗教団体のリーダーが言っていた、善と悪とのバランスというものが村上さんのいちばん言いたかったことなのではないかと思いました。すなわち「正義が勝つ」ではなくて、人間の歴史は善と悪との鬩ぎ合いで、ある時点をとれば悪が優勢、別の時点をとれば善が優勢、とそういうことが言いたかったのではないか。おそらく「風の歌を聴け」を書いた頃のクールな村上さんではありえなくなったためでしょう。その意味では、Beforeオウム、afterオウムで村上作品を区切る必要があるのかもしれません。

  2009年06月30日

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• 村上春樹「１Q84」上巻（新潮社）

  今、この本を読んでいる。上巻の470ページまで読んだ。まだ全部読んでいないので評価できないが、村上春樹の集大成の予感がする。中野図書館では20セット入ったにも関わらず、順番待ちの列が夥しいらしい。そんな状況で、ネタバレはまずいと思うので、今まで読んできた部分についても粗筋や感想は書かない。キイワードは、天吾、青豆、空気さなぎ、さきがけ、あけぼの、二つの月、タマル、老婦人、DV、ふかえり←なんだか、マックの日本語変換の「ことえり」みたい！）、戎野先生、ヤナーチェック・・・・まるで「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」のように、章毎に天吾と青豆の話が展開され、一見何の関係もないような二人が段々繋がってくる。オウムの事件を追った村上さんだから書ける小説であり、ジョージオーウェルの「1984」を原書で読んだから書ける小説であり、クラシック音楽に造詣が深いから書ける小説だと思う。僕はかつて村上さんの「アフターダーク」を読んでこんな感想を書いた。ここで僕が予言したとおり、やっぱり僕は村上さんを尊敬し、村上さんに期待し、そして出会えた1Q84。実に素晴らしいのだろうと思える本。

  2009年06月26日

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• 團藤重光・伊東乾「反骨のコツ」（朝日新書）

  僕の悪い癖で、この本もわずか58ページしか読んでいないが、その真価が「見えた！」のでもう書評しちゃいます。團藤重光先生。刑法学者で、現在96歳。最高裁判事、宮内庁参与も歴任された方。僕のゼミの先生である福田平先生の師匠筋の方。大学を卒業して25年になろうとしているので、暫く忘れていたが、2ヶ月前ほどに日経新聞夕刊に團藤重光先生のインタビュー記事が出ていて、「ああ、今でもご存命なのだ」と思った。そうこうするうちに、愛読する日経BPで音楽家の伊東乾氏が團藤先生と対談しているのを読み、そこでこの「反骨のコツ」が07年に出版されたこと、更には、團藤先生が「法学の基礎」（全面改訂版）を出されていることも知った。どこかの大先生がこの「法学の基礎」は不朽の名著だと言われたとのことも日経BPで知り、「反骨のコツ」と「法学の基礎」の二冊を日本に注文した。勉強しなかったとはいえ、一応法学部を卒業して25年も経っているので、いまさら法律の入門書もないだろうとは思ったけれど、「不朽の名著」との評には抗えなかった。この本は有斐閣から出版されており、3500円もしたし、箱に入って、しかも昔ながらのパラフィン紙でカバーがしてあり、「今更大学一年でもあるまいし」と思ってちょっと読み始めるのをためらい、まずは読みやすそうな新書の「反骨のコツ」から読み始めた。もう読み始めてすぐ興奮の連続。アマゾンで「反骨のコツ」の評をいくつか読んだら、評価するものもあり、「伊東氏の一方的な話ばかりで、もっと團藤先生ご自身の話を読みたかった」というのもあったのだけれど、先の方までパラパラめくると、とにかくずっと團藤先生と伊東氏と、交互の対談にはなっている。58ページまで読んで大体察しがついたのは、伊東氏の広範な教養で、「あれは、これですね」といろいろな学問を結び付けているのを見て浅薄な読者が、伊東氏が自分の教養を吹聴するために自分の話に引き付けて團藤先生を利用したように読んだのだろう。違う。伊東氏と團藤先生と通底するものがあるから、「あ、團藤先生がこうおっしゃるのは、あの学者のあの説や、あの戦時中のその体験から由来しているのだ」と伊東氏にピンときたのだと思う。だから團藤先生と打てば響くような会話になっているのだ。この本を読むとすごい日本人がいたものだと、歴史の中で断罪された人たちに新しい光を逆照射してくれる。たとえば５・１５事件の犬養毅暗殺。青年将校が押し入り、犬養首相は「話せばわかる」と言ったのに対し、「問答無用」でズドン。僕は犬養首相は狼狽して、「は、話せばわ、わかる」と言ったイメージをずっともっていたが、この本によると違う。團藤「海軍の若手士官たちがピストル持って首相官邸に乗り込んだでしょ、次々と。みんなあわてたのを、犬養さんは『話せばわかる』と言って、みんな来なさいと言われた。それで話をしかけたんですよ。そうしたら撃たれちゃってね。」伊東「『問答無用』ですね。」團藤「話を始めたら説得されちゃうでしょ。犬養さんって立派な人ですからね。僕も同県人だったけれど、なかなか剛の者で知れ渡っていて、議論したらかなわない。それがわかっていたんでしょう。うっかり議論に乗ったら大変だっていうんで『問答無用』。」こんなことは生き証人の話を聞かなければわからない。ご存命の間にこういう話を引き出した伊東さんはたいしたものだと思ったし、それを読むことができた僕はこれでまた歴史の真実を知り、すばらしい日本人がいたんだとわかって感動した。また團藤先生は宮内庁参与をされていたので、昭和天皇と親しく話をすることがあって、昭和天皇は、陸軍は言語道断、海軍はそれよりましにしても、軍人一般を嫌っていたとのことだ。バルチック艦隊撃破の東郷平八郎氏さえも必ずしも評価していなかったと。天皇のプリンシパルは、あくまで憲法に沿った対応をとることだったためと。この他にも、僕が大学時代に読めもしなかったポスト構造主義者のロラン・バルトも読まれて、その精神を理解し、「法学教室」という雑誌にバルトと法律とを論ずるコラムを書かれていたと。その知的なフットワークのよさには舌を巻く。今、自らの自伝的な本を執筆されているという。團藤先生の骨格は陽明学。同郷の熊沢蕃山の影響をたくさん受けられたそうで、その辺のことが現在執筆中の本には書かれているらしい。若い頃は徹夜も大丈夫だったが、今は7～8時間の執筆が限度だと仰る。若干47歳の僕でも７～８時間の仕事をしては「ああ、疲れた」と酒に逃げ込むのに・・・。96歳の反骨精神。ましてやその半分以下しか生きていない僕は、もっともっと頑張らなければならないと思った。

  2009年06月08日

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• 茂木健一郎・南直哉「人は死ぬから生きられる」（新潮新書）・２

  この間、この本の感想を書いたが、実は1/2程度読んだところで、「この本の価値、見えた！」と思って書いた。しかし、その後最後まで読んで、そんな生易しいものではない本だと感じた。南直哉氏は茂木さんよりも4歳年上。どういう人生を歩んできたのか、詳細は私は知らないが、若い時代に結構のた打ち回ってこられた方だと思う。その結果、哲学志向となって、その南さんにピッタリきたのが仏教だったのだろう。南さんは茂木さんに自分と非常に似た資質を見出す。南さんは茂木さんの「心身問題」に関し、「クオリア」という、ある質感の概念を持ち出したことで、通常の科学者の常軌を逸してしまったのではないかと思ったという。つまり、普通の科学者ならば身（脳）から意識（心）にいたるまでダイレクトな化学反応みたいなものを解明しようとするはずだが、茂木さんはその中間に「クオリア」という数値化できない質感を媒介させた。それはすなわち科学の否定であり、仏教の世界への歩み寄りのように見えたそうだ。更に茂木さんは、「仮想」「偶有性」という概念をもちだし、そこには何か戦略をもっているのではないかと南さんは勘ぐるが、対談の結果、茂木さんはある戦略に沿ってこれら概念を持ち出したのではなく、すべてこれらのキイワードを得たきっかけは現実からのリアルな働きかけがあったからだという。これはすなわち仏教の「悟り」のようなものだ。茂木さんは世界を解明したいという野望を持っている。しかし人間には解明しきれないものがあるのであって、そもそも人間の中心には「不在」があるのだと、２回目の対談で南さんと茂木さんとは合意する。であれば、茂木さんが科学的手法によって解明したいと思っているものは、実は「不在」であって、解明しきれないもの、すなわち釈迦が言った「無記」として片付けるべきものかもしれないのだ。茂木さんはまだ若いせいだろうか、或いは知的なことに関しては今まで負け知らずであり、自らの知力に頼むところが大きいからだろうか、未だに方法論も含めて世界解明のために模索を続けている。南さんはそこに、いつか深甚なる絶望に陥るのではないかと察したのだろう、茂木さんに出家したらどうか、と迫る。茂木さんは肯じない。まだ科学者としてやりたいという。三度目の対談の最後の二人の対話；茂木　朝シャワーを浴びながら、「俺は孤独だな」と思ってたけど、今日はお会いできて本当に良かった。南　　お互いをどれだけ理解しているかわからないけど、ある程度通じているなという幻想はある。久しぶりに会うと、ちょっとだけホッとしますね。茂木　ホッとすると同時に、何か・・・・、南　　嫌だなあと（笑）茂木　そうそう（笑）。自分の鏡像を見せられているようでもいて。だから、ニーチェの「星の友情」ぐらいの距離がいい。「われわれは、それぞれその目的地と航路とをもっている二艘の船である」。南　　ちょっと格好つけ過ぎじゃないですか。茂木　ニーチェは「また二人は会うことはない」と言っていますけど、我々は、またいつかお会いしましょう。どこまで続くかわからない、人生という泥沼の中で。（それで、この後ニーチェの「星の友情」が引用されている）--------------------------------------------------------------この、南さんの、おそらく人生の先輩としての、茂木さんへの思いやり。そして茂木さんとして、まだ自分の思うようにやらせてもらう、という突っ張り。最後はニーチェを引用して、暫く二人は会わないほうがいい、という絶好宣言をやわらかに二人でしている。これは本当にすごい。現代の、深く品格の高い哲学者同志の会話だと感じた。

  2009年06月05日

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• 茂木健一郎・南直哉「人は死ぬから生きられる」（新潮新書）

  僕んちの本家は福岡のお寺。だから定年後は坊さんになりたい。一方、これまであまり勉強をしてこなかったルサンチマンがあって、仕事（つまらない売り上げ計画つくりを何度も繰り返させられている）よりも本を読みたい。学問と科学の世界で生きてこられた茂木さんと、禅宗のお坊さんで恐山の院代も務められている南直哉さんとの対談がこの本。今、経済がおかしくなって仏教に救いを求める人も多いけれど、仏教というのはやさしい癒しの世界ではないそうだ。南さんによると、「悟り」を得た後、更に自己解体し、一段上の「悟り」を得るのが本来の仏教の世界。人間というものは死ぬまで何度も古い自分を脱ぎ捨てるべきものだ。茂木さんは学問と科学の世界で生きてこられて、世界の解明を目指していらっしゃる方。このお二人の対談は非常にエキサイティングだ。結局、仏教＝哲学。科学も一時は哲学を捨て、ある枠組みを決めてその中での科学的合理性を追求してきたが、その結果としての科学万能主義＝意識万能主義に世界がなってしまった。その反省から科学も哲学と合一化しようとしている。つまり科学も仏教もめざす頂は同じということなのだろう。「人は死ぬから生きられる」。この題名の妙味を感じる。古い自己を脱ぎ捨てること＝死であり、でも生きている限り次の日の朝目覚めて新しい自分として生まれ変わる。そういう自己運動を死ぬまで続けるのが人間だ。この本を読むと、つまらぬしがらみに押し潰されることが如何に馬鹿馬鹿しいかわかる。とにかく生きること。生きている限り何度でも失敗していい。失敗は再生の契機なのだから。そういうことをこの本は僕に教えてくれた。

  2009年06月03日

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• 町田智浩「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」（文春ペーパーバックス）

  家内のお友達のNさんが貸してくださった本。著者の町山さんはコラムニスト・映画評論家で、生まれ年は僕と同じ。だから47歳だろう。編集者として「映画秘宝」を創刊した後渡米。現在もバークレー在住という。僕はアメリカには幻滅を感じていたけど、実はアメリカに行ったのは新婚旅行の時一回きり。1993年。まずロスに入り、ディズニーランド、ユニバーサルスタジオに行き、段々東の方へ移っていった。家内が留学していたオクラホマで腹をこわし、その次に行ったニューオーリンズでジャズを聞き蝦蛄を食べ、最後ニューヨークに行ったときにはもうふらふら。ツアーで有名人のお家拝見をしたらそれで力尽き、自由の女神も見ていないし、セントラルパークにもいけなかった。だからアメリカのことを本当に知っているとはいえない。僕のアメリカ観は幼い頃見た「奥様は魔女」によって醸成された。広い家に住み、ピザとか超大型ケーキとかをオーブンで焼く。大型家電があり、広い庭とガレージがあってオープンカーに乗る。当時まだ貧しかった日本から見たら、アメリカはパラダイスであり、憧れだった。科学の国だった。ところが最近のアメリカを側聞するにかつてとは違うようだ。特に馬鹿ブッシュが決定的にアメリカを二極分解してしまった。富めるものともたざるもの。それでも僕は実地のアメリカを知っているわけではないので僕の側聞が真実かどうかはわからなかった。しかしこの本を読んで大体僕が予想していたことは真実だろうと思えた。なんせアメリカに何年も在住している町山さんがそう言うのだもの。今の日本が昔の日本とは違うように、今のアメリカは「奥様は魔女」のアメリカとは違う。でも・・・できればアメリカにはフェニックスの如く再生して欲しい。科学の国、教育の国、アメリカンドリームの国だったのだから。

  2009年05月27日

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• 湯浅誠「反貧困－『すべり台社会』からの脱出」（岩波新書）

  インチョンの教養人K君の置き土産がこの本。僕は大きな事実誤認をしていた。日本は1500兆円もの個人資産がある故、韓国と比べて蓄積の量が違い、未曾有の経済危機だ何だと言っても余裕が違うと思っていた。韓国人がこの状況下でも酒飲んで明るく笑って気炎を上げているのに対し、余裕をこいている日本人のしょぼくれかたは一体なんだと。しかしこの本を読んで、日本が如何に低落しているか、というよりも一部のエスタブリッシュメントは更に肥え、馬の骨は更に貧困化していることがわかった。年収百数十万円という人がこれほどいるとは。この本の「強い社会を」の章の言葉が印象に残る。「少なからぬ人たちの”溜め”を奪い続ける社会は、自身の”溜め”をも失った社会である。アルバイトや派遣社員を『気楽でいいよな』と蔑視する正社員は、厳しく成果を問われ、長時間労働を強いられている。正社員を『既得権益の上にあぐらをかいている』と非難する非正規社員は、低賃金・不安定労働を強いられている。人員配置に余裕のない福祉事務所職員とお金に余裕のない生活保護受給者が、お互いを『税金泥棒』と非難しあう。膨大な報告書類作成を課されて目配りの余裕を失った学校教師が子どものいじめを見逃す。財政難だからと弱者切捨てを推し進めてきた政党が、主権者の支持を失う。これらはすべて、組織や社会自体に”溜め”が失われていることの帰結であり、組織の貧困、社会の貧困の表れに他ならない。」これほど今の日本社会を言い当てている言葉があろうか？かつての日本はみんなが助け合うほのぼのした社会だった。しかしグローバルスタンダードの旗の下、小泉、竹中なんていうとんでもない為政者たちが、自分らはぬくぬくと生きながらすべてのしわ寄せを弱者に背負わせた。しかし、更に言えば、そういう口先だけの心無い輩を拍手喝采で迎えた日本人の集団知の低下も問題だ。福沢先生の「一身独立して一国独立す」の言葉を噛み締め、「学問のすすめ」を読み、未来を展望すべき時期に僕らはさしかかっていると思う。

  2009年05月20日

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• 天童荒太「悼む人」（文芸春秋社）

  もう日本に帰られたOさんの奥さんが家内に貸してくれた本。第140回　直木賞受賞作。直木賞＝娯楽小説、読み物、芥川賞＝純文学という括りかと僕は思っていた。この小説は「オール読み物」に連載された本だというから、直木賞が順当なのかもしれないが、この小説の深さは芥川賞ものだと思う。いやいや、そういう区分自体が前世紀的だろう。結局いいものはいい、ということだ。帯には、「聖者なのか、偽善者か？『悼む人』は誰ですか」とある。悼む人は、新聞や雑誌の死亡記事を読んではその地に行き、亡くなった人を知る人たちに聞きまわって、「この人は誰を愛しましたか、誰に愛されましたか、何に感謝されましたか」と問う。聞かれた人は、「宗教関係ですか？」と怪訝な顔をする。或いは逝去者に近い人だとそういう質問自体が死者を愚弄するものだと怒りだすこともある。悼む人は宗教関係者ではない。幼い頃に可愛がってくれた祖父に、「私が死んでもおまえに覚えていて欲しい」と言われ、学生時代の親友に先立たれ、命日を絶対忘れないと誓ったのに一周忌を忘れてしまう。また、医療機器メーカーに就職し、その関係で末期の子供達に優しくするが、その優しさもむなしく子供達は死んでいく。そうした人間存在のはかなさに、悼む人は、死んだ人たちを、「誰を愛したか、誰に愛されたか、何に感謝されたか」の3点でもって自分の胸に記憶していくのだ。なぜなら、せっかくこの世に生まれ来たのに、誰の記憶からも失われてしまったらその人の生きた意味がないと思うから。この小説では生と死、誕生、性、そして死にゆく人が今際の時に、自分が非道にあたった人たちにすまないと謝りたい気持ち・・・そういうものを丁寧に、細やかに描く。大団円は死にゆく人の情景。ものすごく美しい。僕もこんな死なら何も怖くないと思う。天童荒太の小説は、僕はこれが初めてだけど、ある意味で人類、或いは日本人のこれまで延々と紡いできた歴史の一つの到達点だと感じた。僕も人間の価値というものを考える。小さい時には、総理大臣か、社長か、或いは芸能人になって世に名を知らしめることが人間の価値だと思ってきた。しかしそうではない。名もなくても、人に知られずともいいのだ。どんな非道な人間でも殺人犯でもずっとずっと遡っていけば、必ず、誰かに愛され、誰かを愛し、何かを感謝される。たとえば、赤ん坊の時まで遡れば、親や親戚に愛され、周りの、自分の味方となってくれる人を愛し、その笑顔や愛らしさで心を温かくしてくれたことで感謝される。それでいいのだ。それだけで人としてこの世に生まれてきた価値があるのだ。こういう到達はやはり21世紀的だと思うし、こういう到達が日本人の手になる小説で描かれたことを同じ日本人として誇りに思う。

  2009年05月18日

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• 野中郁次郎「企業進化論」（日経ビジネス人文庫）

  最近感じるのは神の見えざる手。なんだかいろいろなことが繋がっていく。野中郁次郎教授のお名前は存じ上げていたが著書は読んだことがなかった。そうしたところ、うちの会社を見てくださっている本社のH部長が「野中郁次郎はいいぜ」と仰っていて、僕は「ふ～ん」と聞いているだけだった。　そうしたところ、在韓国の、学校の大先輩がこの本を貸してくださった。「野中郁次郎さんは頭がいいよ。この本いいよ。だけど、難しいと思うよ。」と仰った。この本をお借りしたのは2ヶ月ほど前だったが、先輩の「難しいと思うよ」と仰ったお言葉に怯んでしまってなかなか手にとれなかった。そしてもうかれこれ一ヶ月前だったか、僕の大好きな日経新聞の夕刊の「心の玉手箱」で連続５回だったか野中教授が執筆されていた。この方の原点は子供時代に米軍戦闘機からの銃弾爆撃を受け、命からがら逃げたときにふと空を見上げると、パイロットがニヤっと笑うのが見えたというそのことだそうだ。野中教授は長じてから日本の大学を出て、暫く企業勤めをしてそれから米国の大学に行かれた・・・・・。本社のH部長は日経は朝刊だけで夕刊はとられていないとのことだったのを思い出し、この記事の切抜きをFaxでお送りしたら喜んでくださって、H部長が課長の時に課員のY君に野中教授の英語の論文を訳させたものをPDFファイルで送ってくださった。それを読むとうちの会社の社長がよく仰る「形式知と暗黙知」というのが出てくる。ここでも何かが繋がった。2ヶ月間手に取れなかったこの本だが、そろそろ先輩にお返しすべきと思い、思い切って読み始めた。最初のうちはProduct Portfolio Managementなんかが出てきて、「ああ、これはマーケティングの本か」と思っていたらどんどんこの教授の思索が進行して、すごく深みに入っていく。正直、途中止まれなくなるほど面白く興味深く読んだ。ただ、残念ながら情報量が多すぎてアウトラインをご紹介するのは僕の手に余る。経営に携わる人、老若男女のサラリーマンにはぜひ読んでいただきたい本だ。とにかく情報量が多くて深いので、それぞれ個性の違う人がそれぞれに何か汲み取るところがあると思います。

  2009年03月19日

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• 船井幸雄「生きる！」（あ・うん社）

  前に船井幸雄「有意の人」について書いた。船井さんがその本を書くときにほぼ同時に書き上げたのがこの「生きる！」だ。「有意の人」の場合、できるだけ客観性を保つために人の意見や説を中心にしたこともあって、船井さんが日ごろ感じていることを十分に盛り込めなかったので、その辺を中心に書いたのがこの本。本の前半は、「有意の人」に出てくるいろいろな意見や説や将来見通しに関する記述だ。いわゆる2012年問題。天変地異かアセンションかという話。船井さんは天変地異かアセンションか、それとも何事もなく終わるかはフィフティ・フィフティだと仰る。僕は今までいろいろな本を読んできて、正直、どちらに転ぶかはわからないと思う。しかしどちらに転んでも悪くないと思う。もしも、天変地異が起こって人類の大半が滅ぶとしても「楽園実現か天変地異か」によると、肉体が滅んだ人間の魂は輪廻転生の世界を脱して解脱の境地に達するという。仏教の究極目標は解脱だから、この域に達することができたらもはや肉体の制約を受けて窮屈なこの世に転生する必要はないわけで、すこぶるハッピーだ。一方、人類が滅びなかったとして、おそらく資本主義は大幅に社会主義的な修正を受けるだろう。そこに現れる世界は昔の日本のようなもっと助け合う世界のはずだ。それも悪くない。だから僕はどちらに転んでもいいと思うわけだ。「生きる！」に戻ると、船井さんは2012年に何かが起こる確率は半々と前半で語る。そして後半は、何かが起ころうと起こるまいと人間は人間のあるべき姿で死ぬまで努力し勉強を続けるべきだと仰る。間違っても急にトチ狂って俗世を捨てて修行に出たりするべきでないと仰る。今自分がいる足元を掘るべきだと。僕も同感だ。明日地球が滅びるとしても僕は今までできなかったこと、たとえば百人の女性を侍らせて酒池肉林とか、死ぬほど美味しいものを食べまくるとかしないだろう。昨日と同じような一日を生きてそのまま明日に突入するのが理想だと思う。だから未曾有の経済危機などとあわてる必要はない。大局観をもって生きればいいという話だ。

  2009年03月11日

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• 立花隆「滅びゆく国家～日本はどこへ向かうのか」（日経BP社）

  ちょっと前に教保文庫に寄ったとき見つけた本。定価2200円に対し、24310Won。今のWon安の為替を前提にすると日本で買うより安い！ということで買った。買ってからしばらく置いておいた。立花隆の著書は「僕はこんな本を読んできた」くらいしか読んだことがない。「知の巨人」と呼ばれるだけあって、ものすごい量の、しかも広範囲に亘る読書をされてきて、「こりゃ、すごいなあ。でもあんまりにも知に立ちすぎてる感じもするなあ。」と思って、買ったはいいものの、手に取るのが億劫だった。しかし、まえがきを読んだだけでこの本は僕が捜し求めていた本のひとつだということがよくわかった。「私は多くの点で小泉政治に批判的である。だが、だからといって、私はアンチ小泉思想に凝りかたまった人間ではない。・・・（中略）・・・私は小泉首相あるいは小泉内閣に対して、一貫してアンビバレントな気持ちを持ってきた。小泉改革というのは、自民党の旧体制（田中派・経世会勢力）が築いてきた、官僚と政治家が結託して国家を喰い物にしてしまうという社会システムを破壊するという側面を持っていたが、そのこと自体は、そういうシステムと戦ってきた人間の一人として、大いに評価する気持ちが強いし、事実よくやったと評価していい側面もかなりあると思っている。・・・（中略）・・・しかし、では双手をあげて、小泉政治賛成を叫ぶかといえば、決してそうではない。小泉政治がもたらしたデメリットは、メリット以上に大きなものがあると思う。」僕もまったく賛成だ。当時はほかの誰がやるより小泉さんがマシだと思っていた。しかし結局あの人のやったことは郵政民営化でしかない。そして既に政界引退を表明し、二度と総裁選には立たないことを約束したにもかかわらず、麻生首相が郵政民営化に懐疑的なことを言うと、途端に定額給付金の反対に回る。僕は小泉さんに言いたい。「あんた、引退すると言ったろう？もうあんたの時代は終わったんだろう？だったらどうして同じ自民党の仲間であり、あんたの後継者でもある麻生さんを助けて盛り立てようとしないのか？結局あんたは日本の民度の低い大衆を扇動するポピュリズムの政治家でしかないだろう？あんたみたいに姑息で、立ち回りがうまいだけの、信念のない男は僕は男として認めない！！」この本は日経BPのサイトに立花氏が書いてきた2005年～2006年の記事をまとめたもの。そのときの立花氏の将来見通しには外れたものも若干あるけれど、大筋においては大体当たっている。さすが知の巨人と感服した。自分だけ高踏的な物言いをするわけじゃないけど、日本人よ、わが同胞よ、あなたがたはもっと民度が高いんじゃなかったか？いい加減、口と立ち回りのうまい小泉さんとか田中真紀子とかに拍手喝采を送るのはやめようじゃないか。結局、私はバカでしたと白状するようなものだ。これからの日本を託せるのは武士道を身につけた男じゃないか？

  2009年03月06日

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• 和田秀樹「まじめの崩壊」（ちくま新書）

  この本もインチョンの教養人K君にもらった。和田秀樹と和田春樹と間違えやすいのだけど、和田春樹は歴史学者で北朝鮮礼賛派。和田秀樹は僕より２つ年上で、灘高→東大医学部卒の秀才。前に僕はこの人の「天才の教科書」（ビジスタMOOK　ソフトバンクパブリッシング）を買って読んで非常に参考になった。「天才の教科書」にも書いてあったが、精神医学的にはメランコ人間とシゾフレ人間の二つに大別できる。メランコとはメランコリー（鬱病）から来ており、「自分をしっかり持ち、周囲に流されにくい、競争好き、自力本願のパーソナリティ」で、シゾフレとはシズフレニア（統合失調症＝精神分裂病）から来ており、「自分がなく周囲に合わせようとするパーソナリティ」をいう。僕自身は明らかにメランコ人間だ。メランコ人間をもっと説明すると、「自分で人生を切り開いているという意識が強く、価値観や規範はすべて自分の中にある。心の主役は自分であるため周りに流されることは少ない。責任感が強く、どんなことも自分で対処しようとし、うまくいかないばあいは、自ら責めを負うタイプだ。メランコ人間は、広く浅い付き合いよりは、特定の人との深い関係を好む。理屈っぽく、論理性や秩序に対して強いこだわりがあるため、納得がいかなければ反発する。また、柔軟性や融通性に欠け、過去にも強いこだわりがあるため、過去の失敗を引きずりやすい傾向がある。」一方のシゾフレ人間は、「自分をあまり持たず、収支の価値基準に合わせようとする。主体性がなく、周りの力や運が境遇を決定すると考えるため、仕事で失敗すると、運の悪さや周囲のせいだと思い込む。他人に嫌われることを恐れ、本音を出さないため、深い人間関係を築くことが苦手である。しかし、多くの場合は人との接触を絶つわけでもなく、建前だけの浅い関係を望む。競争心はなく、命令に従っても自発的に行動を起こすことはしない。」う～ん、みんながみんなとは言わないが若い世代にこの型が多いような気がする。（ここまでは主に「天才の教科書」P.53に拠っています）この本に戻って、その章立てを紹介すると、序章：「日本人はまじめ」という神話が崩れている第１章：まじめな国民性の崩壊第２章：平気でウソがつける日本人第３章：義理人情の崩壊第４章：まじめでない子どもと若者たち第５章：拝金主義とまじめの崩壊第６章：「ルールのない国」の危険な将来第７章：「まじめの崩壊」は日本に何をもたらすか第８章：まじめ社会再建の意義要するに昔の日本人は圧倒的にメランコ型が多いが、アメリカが日本人のマインドコントロールに成功し、日本を属国化しながら「グローバリゼーション」を旗印に日本に拝金主義をはびこらせた結果、日本国および日本人は急速に変質、変節し、シゾフレ人間が日本を席捲するようになったということ。僕はそのとおりだと思う。ただ最終章での結論＝まじめ社会再建のために何をすべきかというと、一に教育の充実、二にまじめ批判をやめ、ふまじめ批判をすべき、という処方箋は若干物足りない。もうちょっと画期的な処方箋がほしかったが、そこまではないものねだりというものだろう。前にも書いたが、80年代前半の、僕が大学生の頃は、フジテレビに代表される「軽チャー」全盛で、「まじめはダサい」、浅田彰流にいえば、シゾフレならぬスキゾフレックスで、「軽いステップで不断に差異を作り続け、よどみにはまらない」ことがカッコいいことだったが、今は、「軽チャー」の旗手の糸井重里氏も年齢と経験を経て、「まじめがカッコいい」に変わってきた。そういう変化を見るにつけ、日本の文化社会は絶望するにはまだ早いと思う。

  2009年03月02日

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• 稲垣武「北朝鮮に憑かれた人々」（PHP研究所）

  ある人に貸していただいたこの本。かつて「地上の楽園」と喧伝された北朝鮮。地上の楽園建設・発展のために多くの在日朝鮮人の人たちが北朝鮮に渡った。それを鼓舞していたのは朝日新聞や進歩的文化人たち。あの頃はそのように思いこまされても仕方なかったかもしれない。北の実状というものがよくわからなかったのだろう。青春の麻疹のような共産主義への夢とあこがれを北に託した人たちも多かったはずだ。しかし、その頃から20年も30年も経ってからも北を擁護し反韓国的言辞を弄する朝日、毎日、そして和田春樹、小田実、安江良介、中川信夫、高樹のぶ子・・・・といったこの本に出てくる進歩的文化人はいったい何者なのかと思う。みなさん頭はいいはずだし、作家先生は人間に対する洞察が一般人より深いはずなのに、なぜ素人に理解できない論理でもって北の片棒を担ぐのか？１．金をもらっている　２．ぶれない姿勢を堅持したい　３．朝日などは、それが「ウリ」だから姿勢を変えると朝日自体が成り立たなくなる？この本の著者は元は朝日新聞の記者だ。だから朝日的なものをよく知っている。その人が何年何月何日、何という媒体で誰それがこう書いた、発言したと事細かに調べ、その後同じ人がさらにどういうことを言っているかも書いてある。個人的には小田実は嫌いじゃない。いいところも沢山ある。しかもあの知性だから、発言している当人も途中で「間違っていたんじゃないか」と気づいたはず。にも関わらず立場の修正をしなかったのは、その点においては知識人として不誠実だと詰らざるを得ない。それから前の岩波書店社長の安江良介。この人のことをネットで調べたら、金箔職人の父をもち苦学した人で、民衆の苦しみ、就中在日朝鮮人の人たちの苦しみもよく理解し、お呼びがかかればどこにでも飛んでいって集会に参加したり講演を引き受けていたそうだから、この人は亡くなるまで「自分は間違っていたんじゃないか」とは思わなかったのだろうと思う。単独で金日成と12時間に亘って語り合ったという。そこで金日成のある意味での懐の深さに感化されたようだ。だからといって、知識人、それも民衆をよく知っていたはずの安江氏がかくも簡単に北のお先棒担ぎで人生を終えたことが免罪されるわけではないけれど、それに気づかずに一生を終えたとしたら、それがこの人のキャパシティであったということだろう。気づいていながら余計な言葉で本心を糊塗する輩よりはましだ。こんな進歩的知識人たちをのさばらせる日本という国はなんとおめでたい国だろう。誰かも何かに書いていたが、人間誰しも過ちはある。ある年齢に達するまで、ある経験を積むまで気づかないこともある。それは仕方ない。しかし、ある時に己の認識や考え方に過ちを見いだしたら、そのときには潔く謝罪して方向転換すべきなのだ。それはなにも恥ずかしいことじゃない。むしろ自らの過ちを糊塗するために強弁に強弁を重ねたり、わけのわからぬ非論理的な言辞を弄し続けることの方が罪が重い。そういう輩は地獄に墜ちるがいい。

  2009年02月23日

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• 坂本政道「楽園実現か天変地異か」（Ameba Books)

  船井幸雄の「有意の人」を読んで、この本が紹介されていたので日本から取り寄せて読んだ。坂本政道氏は東大理学部を出てソニーに勤め、その後モンロー研究所でヘミシンクなるものを経験して魂の体外離脱をできるようになった人。ヘミシンクとはなにか？左右の耳から周波数の異なる音を入れると、その周波数の差に脳が同調して、最近日本人学生に流行の大麻に酔ったような状態になる。これによって、幽体離脱が起こり、あの世とか銀河系外宇宙とかに行けるという術だそうだ。この本の内容はこういうことだ。・2012年に何かが起こる。それは楽園実現かもしれないし、天変地異かもしれない。・楽園実現となるか、天変地異となるかは今年の末までに大勢が決まりそうだ。・楽園とは何か？争いのない世界。人類が国境を越えて調和する世界。・天変地異とは、隕石が２つ地球にぶつかっていくつかの大陸の一部が水没するというもの。そうなると世界中の人間の半分以上が死ぬ。・今のところ、どちらに転ぶかはわからない。この本によると、ピラミッドパワーの力を解明し、それを使って生命エネルギーを呼び寄せられるかにかかっており、ピラミッドパワーの利用を実現するという使命を坂本氏が負っているそうだ。・ピラミッドパワーが今年末までに間に合えば、人間の数は10年ほどかけて徐々に減っていき、ソフトランディングで楽園が実現する。間に合わなければ天変地異で半分の人間が滅亡する。・しかし、どちらに転んでも我々は恐れることはない。たとえ天変地異で死んでしまっても、死んだ後の魂は輪廻の世界を解脱して、それら魂のふるさとであるプレヤデス星団かオリオンの三つ星に帰って平安な生活ができるというのだ。僕自身はどちらに転んでも構わない。もしもこの世に残ることになるならば命が尽きるまで今よりましな世界が実現するよう努力を続けるだろうし、一方、今までつまらない会社の仕事をしてきて、いい加減疲れたという思いもあるから、肉体の制約を逃れて楽になれるんだったらそれでいいという想いもあるから。結論はどちらに転んでも僕ら、今の時代に生きている人間は悪いようにならないということだ。一体何を僕が言っているかわからない人が多いと思う。眉唾だと思う方は是非この本を手にとって欲しい。未曾有の経済危機だの何だの、そういうことを言っている場合じゃないと実感するはずだ。あなたは人間としてまだ数十年生きたいのか、それとも永遠の平安な世界に戻りたいのか、自分で決めればいいということだ。

  2009年02月20日

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• 米原万里「不実な美女か貞淑な醜女（ブス）か」（新潮文庫）

  「愛の法則」を読んで感動した話をしたらJJMAMAさんが「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を貸してくださり、米原万里のすごさに感動、そしてJJMAMAさんが貸してくださった本がこれ。タイトルにすごく惹かれるでしょ？男ならば。でもこの本のレーマは至って真面目。言葉をなりわいとする通訳と翻訳。その違い。訳者と役者の違いと同一性。方言と標準語、それぞれの活きる場面・・・等々、「はじめに言葉があった」人間の生業を時にはユーモラスに、時にはお色気たっぷりに、時には至極真面目に活写する。すばらしい本だった。「人間」というものを知りたい皆さん、是非読んでみてください。

  2009年02月16日

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• 福岡伸一「できそこないの男たち」（光文社新書）

  インチョンの教養人K君にもらった本。この本を読めば、なぜ男が報われないのかわかる。男は一所懸命働く。そいでもって土日昼寝なんぞしていると、嫁さんから「もっと子供の面倒みてよ」とどやされる。「なんでかな～、僕、まじめに生きてるのに、ちょっとの息抜きも許されないのかよ」と思う。そんな想いの男性諸君！この本を読み給え。なぜ男がかくも弱いのか、哀しい存在なのかがわかる。人間のデフォルトスタンダード（基本仕様）は女だった。アダムの肋骨の一本をとってイブを作り給うたなんてのは真っ赤なウソ。なんせ男は女性に奉仕するために生きている。奉仕して奉仕して、女性より８年ほど早く死に、女性はその後幸せなおひとりさまを楽しむ。思わず笑ってしまったのは、ひとつを除くすべての死因で男は女を上回る。脳、心臓、癌、はては自殺まで男は女の３倍くらいの割合でぽこぽこ死ぬ。そして除かれたひとつとは何か？女性の死因で唯一男より多いのは、老衰。これ、すなわち天寿の全う。女性よ、男を哀れみ給え。かくもはかなき蜻蛉の如き人生なれば。ま、そんな内容が少しクールで詩のごとく綺麗で、それでいて透徹した文体で描かれる。僕はこの本を読んで世の中の仕組みがわかった気がする。

  2009年02月11日

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• 大前研一「大前流　心理経済学」（講談社）

  大前師が2007年8月に出した本。大前師の愛弟子である慎さんにおねだりして貸してもらった。僕の粗雑な脳では読むそばから内容がこぼれ落ちていくので、極めて不正確だが、大体こういう内容。１．日本人の個人金融資産は1500兆円。２．しかしこの金融資産を金利0.数パーセントの普通預金や定期預金や箪笥預金して平気でいるのが日本人。３．公的資金で救済を受けた銀行たちは集めた預金を貸すときには数パーセントの金利を取り、預金者には0.数パーセントの金利というのは明らかに国民から収奪している。４．収奪した金を銀行たちは国債だの米国債だのの購入に使い、ドブに捨てている。５．日本人は個人のIQは高くとも、これが集団になるととたんに愚鈍になる国民性がある。＝集団IQが低い。６．一方、シンガポールやドバイなどは国家主導でファンド投資をし、10年間平均で約10%の収益をあげている。７．日本の銀行は預金者の金利をもっと上げるべきである。そうすると1500兆円ｘ数％の金利で一年に何十兆円の金利収入が国民全体に入るわけなので、消費税を上げるよりもよほど効果がある。８．日本人はその金を使って消費すれば経済は回る。９．ところが日本人は将来への漠然とした不安、老後の不安のために金を貯め込み、人生を楽しまず、死ぬ間際の資産が数千万円と生涯最も富んだ状態になる。１０．政府がもっと国民に安心を与える政策運営をし、日本人の心理を開放してやれば日本は生活者大国になる。・・・この本が書かれた少し前から米国のサブプライム問題が露見したが、今のような大問題にまではなっていなかった。だからこの辺まで読んで、さしもの大前師もファンド礼賛のようなことを書かれているのは見通しが甘かったのかなあ、という気もしていた。しかし、第７章「一人の人間が世界を変える」を読んで大前師はやはり素晴らしいと思った。英国を再生させたサッチャー首相との対比で小泉首相のことが書いてある。「言ってみれば小泉首相は改革を進めるリーダーではなく、政敵を倒すために改革の名を騙った独裁者だったのである。それを引き継いだ安倍（前）首相は、『美しい国』の原型を戦前の全体主義時代の日本に求めた。どちらも本物の指導者とは言い難い。二人に共通しているのは二一世紀にどういう国を作るべきか、という命題に対して、今の世界を眺めながら日本にとって相応しい役割や構想を考えるのではなく、現在顕在化している問題点に、対症療法的に『改革』案をぶつけているだけだという点である。安部さんの後を継いだ福田首相は、新しいことよりも古い自民党的バランス感覚で政策を打ち出そうとしている。政策はベクトルであり、選択である。両方やろう、ということでは、前にも後ろにも進まない、ということになる。日本人は集団IQが低いうえに総じて保守的で、世の中が変われば、『自分も変わらなければ』と思うが、できれば自分が生きているうちはこのままなんとかなってほしいと考えている。この保守的な意識に対して、もっと言い日本ができる、その原資を我々は持っている、ということを訴えていくには、相当に信頼性の高い政治家が出てこなければ無理だろう。それは一人でもいい。日本人はひとたび変わる方向に向かい始めれば、一気に進む能力を持っているはずだからだ。」といい、具体例として航空料金をぐっと引き下げたHISの澤田秀雄氏、ブロードバンド料金を引き下げた孫正義氏、更に古くは水道哲学で家電製品を安く全国に普及させた松下幸之助氏、レジャー産業を隆盛に導いたヤマハの川上源一氏、言わずとしれた本田宗一郎氏他のことが書いてある。体を張ってお上に抵抗し、渦中ではピエロのような役割を引き受けたこれらの人々の縦糸の系譜を大前師は観てきたからこそ、今の怠惰かつ無気力かつ未だに「お上絶対」的な大多数の日本人にも完全に絶望することなく語りかけている。大前師はやはり常に本質を見極めている人だ。次に出る（出た？）本は「さらばアメリカ」という本らしい。この本も慎さんが買われたら貸してもらおう。

  2009年02月09日

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• 船井幸雄「有意の人」（徳間書店）

  この間日本に帰った時に、イトーヨーカドーの本屋で見つけて買ったこの本。日経新聞にこの本の広告が出ていて、多分僕が思っていることを理論的且つ体系的に書かれているのだろうと確信していた。そういう折り、全く偶然に、素浪人さんが船井幸雄さんの「人の上に立つ人間学」をくださって、いよいよ僕も、いろいろな本や人を経巡って、恐らく僕にとって決定版たる船井幸雄さんに行き着いたのだろうと予感した。僕は前にブログに書いたことがあるが、最近の世の中は昔と比べて格段に魂レベルが向上した人が増えたと確信する半面、「どうしてこんなことが」と思うようなレベルの低い事件、事故が起きて、明日へ繋ぐ希望が明滅していた。よい方で言えば、インターネットを通じて多くの見知らぬ人とつながり、会ったことがなくても「この人は覚醒した人だな」と思える人と多く繋がることができた。一方、食品偽装とか金融破綻とか戦争とか百年一日の、過去に囚われすぎているとしか思えないことに実に多くの人たちが呪縛されていて、もっと勉強して考え方を変えればいいのに、と思ってきた（傲慢な言い方に聞こえたら、ごめんなさい。別に自分が偉いとかそういうことを思っているわけではありません）。きょう、誕生日にあたり有為な本を読みたいなと思ってこの本を読了した。幸い、韓国語クラスの新年会の集合時間を一時間間違えて早く着いたので、お店で集中して読み、帰りのバスで読み、先程残りを読んで読了した。経済は既に恐慌状態に入ったらしいし、これから2008年を中心とした前後５年間が大転換の帰趨を占う年となるという。この期間を人類がどう過ごすかによって、アセンション（人類のステージが数段上昇すること）か人類滅亡かが決まるという。僕もまさにそう思っていた。現代の、世界に散らばる「覚醒した人たち」＝有意の人が結集すればアセンションは実現できるとも思うし、旧態依然たる考え方や行動しかできない人たちに返り討ちにあえば人類滅亡で、一体どちらになるのかわからない状態だった。しかし、この本を読んでどうやら楽観してもいいように勇気づけられた。アセンションを実現できれば、新時代（みろくの世）に入れるという。そこは競争よりも互助の世界。僕が理想とする社会。そしてその世界に入るためには有意の人となること。有意の人とは、「自分やお金や目先のことも大事だが、それとともに"世の中の構造やルール""人間の正しいあり方"などを知り、正しく考え、正しく生きよう・・・と気づき、勉強に取り組みはじめようとしている人か、すでに取り組んで実行している人たちのこと」だ。自分に甘いかもしれないけれど、こういう定義なら僕も有意の人になれる可能性はある。そして大変化の時代の基本的な対処法は、以下の通りで、これが分かる人が有意の人と言えそうだと。１．大きな真実、大切なことを知ろう２．肯定し感謝して、プラス発想して前向きに生きよう３．よりシンプルに、より自由に生きようこれでいいのならみんな非常に気が楽にならないだろうか？正しい人間のあり方に沿って、勉強し、他の人に対し、公正且つ真面目に仕事をし、心を明るくもって、好きなこともやって生きたらいいのだ。競争に勝つために自分を曲げる必要もないし、他人を蹴落とす必要もない。僕はこの本を読んでこれからの激変の時代を生きていける自信が深まった。

  2009年01月31日

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• 五木寛之「人間の覚悟」（新潮新書）

  五木寛之という作家は、終戦の時に朝鮮は平壌から福岡に引き揚げ、小学校～高校を福岡で過ごし、青雲の志を抱いて上京、早稲田の露文科に入学。生活のために血を売る売血をし、大学生協ではコロッケパンのコロッケ抜きが常食。結局授業料が払えず抹籍処分（大学在籍の歴史を消すこと）になった。その後、作家として名声を確立したので、結局早稲田はちゃんと卒業したことになったのだったかは記憶が定かでない。この作家の出世作は「青春の門」。僕は中学時代にこの筑豊編を読んで感動した。主人公の父、伊吹重蔵は筑豊の炭坑で働く。ある時炭坑の坑道が塞がってしまったか何かで、誰かが発破をもって塞がった部分を爆破しなければ閉じこめられた仲間を助けられない事態になり、重蔵は「バカも利口も命はひとつたい！」と言って単身発破をもって飛び込み自分の命を引き換えに仲間を助ける。僕は同じ福岡の人間としてこの行動、気持ちがわかる。福岡の人間はのぼせもんだし、単純だし、気持ちが熱い。理屈ばかり言う東京もんには、「しぇからしか！（いちいちうるさい、黙っとれ、というニュアンス）」と一喝。心にストンと落ちれば四の五の言わないのが流儀。その重蔵の一人息子の信介は早稲田大学に入学。僕も信介に憧れて早稲田に入って角帽を被りたい（当時映画「青春の門」では重蔵を緒方拳だったか、その妻を吉永小百合、信介を田中健、その幼馴染みの織江を大竹しのぶが演じ、そのスチール写真で田中健が角帽を被っていた）。それで、高校受験の時に超冒険して早稲田大学高等学院を受けるもあえなく敗退。結局、違う大学に行ったが、今でも肌が合うのは早稲田出身者で、慶應は何だか違う。そんなことはどうでもいい。この本、いい。五木寛之はある時休筆して今日との龍谷大学の聴講生となり仏教を学んだ。それ以来、自分の経験、歳を重ねての人間としての熟成を背骨に、変転極まりない現代に翻弄される人たちに向けて癒しの言葉をかけてくれている。この本は胸に染み入る言葉が沢山出てくる。たとえば、「ヨーロッパやアメリカ流の自然保護というのは、これ以上空気や水を汚して森を破壊すると最も大事な人間の生活がもたない、人間を守るために自然を濫費しないようにしようという考え方が根源になっています。しかし、それではもうだめなのではないでしょうか。そうではなくて、草木の一本、一石、一草にも虫にも動物にも心があり、魂があり、仏性がある、森にも山にも命があると考える日本人の伝統的心性こそ、環境について考える上で根本的大転換をもたらす新しい思想として現代に大きな価値を持つのです。」アメリカがつくった未曾有の経済危機。金融が自己増殖する幻ははじけた。世界はパラダイム転換すべきときを向かえており、新しい２１世紀をつくるときに牽引車となるべきは日本人であろうと僕は思っている。それだけの良き歴史と蓄積を先人達は僕らにくれた。だから未曾有の経済危機であっても日本は比較的傷が浅い。この程度のことで心が沈み込むようでは、現代日本人はご先祖様に顔向けできないと思う。今、きついなあと感じている日本人には是非読んで欲しい。旧来の考え方にがんじがらめになって自分自身を苛んでいる愚を、やわらかく諭してくれるだろう。

  2009年01月29日

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• 船井幸雄「上に立つ者の人間学」（PHP文庫）

  船井幸雄という名前は知っていたが本は読んだことがない。最近、日経新聞に最新刊の広告だろうか、船井先生の福々しい御尊顔と、「今こそ『覚醒した人々』が集結すべき時」という旨の言葉が書かれていて、僕も常々そう思っていただけに、この人の本を読みたいと思っていた。やっぱり「引き寄せの法則」が働いたのだろうか、素浪人さんが「もうこの本は３，４回読んで、自分の考え方と全く同じだから、あなたにあげます」とこの本をくださった。僕の考え方とも全く一致した。キイワードは「天地自然の理」。人間にも宇宙にも自然にも地球にも則るべき「理」があって、それに従うとどんどん「ツキ」が来る。なんとなれば、神というか、それこそ「天地自然の理」がそれを喜ぶからだ。そして今の世は（といってもこの本が出たのは90年の1月だからかれこそ20年前になるのだが）、人間の精神ステージがだいぶ上がり、人間とこの世界は確実に前進進歩している、というのも僕が日頃実感していることと同じ。そういう内容のことが、平明に且つ気取りや衒いもなく、科学的知識、精神世界のこと、果ては占星術、生物学、物理学等、ありとあらゆる学問を踏まえて書かれているので、この本を虚心坦懐に読むならば納得できる読者が多いのではないか。大江健三郎がエッセイにひと頃「水瓶座（アクエリアス）の時代」ということを書いていた。大江氏も僕も誕生日は１月３１日で水瓶座なので、アクエリアスの時代には僕ら水瓶座人が活躍する余地があるかと期待していた。・・・いつしか、そんなことも忘れていたらこの本にいきなり「アクエリアスの時代」が出てきた。シンクロを感じる。船井先生の研究によるとアクエリアスの時代の正確な出発点は2028年2月3日で、既に1844年2月3日、魚座から水瓶座への遷移期間に入っているそうだ。特に1937年2月3日には遷移点に到達し、この日からは時代の交替のための助走期に入ったと見られている。「占星学者に言わせると、アクエリアスの時代の初期において、数千年の間、人類によって為されてきた悪行為や悪想念、あるいは悪習慣からかもし出される悪いバイブレーションの蓄積を一掃する現象がおこるというのだが、それによって人類が滅びるかもしれないということになっている。　しかし、この説には救いがある。というのは、そのダメージを最小限にくいとめ、人類のかなりの部分が生き残れば、これまで発展してきた物質科学と、これから発展する精神科学が一体化して、すばらしい文明が築かれるだろうということである。」（P.219）100年に一度の未曾有の経済危機。僕はこれはまさにアメリカやいろいろな国の利権者によって行われてきた悪習を覆すパラダイム転換の契機であると思っている。そしてパラダイムが転換するとすれば、それは旧来の成長至上主義の、物質文明に偏った、化石エネルギーを否定して、人類共生の、精神世界を重視した、循環可能エネルギーを使った、LOHASでゆっくりした、やさしい社会であると思う。そういう、普段僕が考えていることを、極めて明晰に言葉にしてくださった船井先生との出会い。2009年はツイテル。

  2009年01月21日

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• ビルトッテン「日本は略奪国家アメリカを棄てよ」（ビジネス社）

  同じ著者の「銀行は強盗、外資はハイエナ」を読んで非常に感銘を受けたのでこの本を読んだ。ビルトッテン氏は日本で30年以上ソフトウエア会社の社長をしている。前に自動車の貿易問題でアメリカと日本とがすったもんだしたときに日本を擁護し、アメリカ大統領宛に手紙まで書いたという。そして、911以降、同氏はアメリカのブラックリストに載り、アメリカに渡航する際には厳しい検閲を受けるようになり、ついにアメリカ国籍を棄て日本人になった人。この本を読むと、アメリカのひどさがわかる。アメリカはアメリカン・ドリームに象徴されるような自由な国ではない。自由を享受できるのはごく少数の特権階級だけで、残りの90%はどうでもいいような扱いを受けている。一方、日本は完全にアメリカの属国になりさがっている。長く輝かしい歴史を有する日本。「和を以て尊しとなす」日本。日本にはグローバリゼーションなど所詮根付かない。弱肉強食、勝ち組・負け組の思想など似合わない。僕はビルトッテン氏の考え方に与する。未曾有の経済危機の今こそ、パラダイム転換の好機であり、古き佳き日本に回帰するチャンスである。そこは三百年の安定した江戸時代をもつ日本。大丈夫。とにかく僕もビルトッテン氏に学び、自分一人でできることから始めよう。

  2009年01月10日

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• 野村克也「野村再生工場」（角川oneテーマ21）

  インチョンの教養人K君が、もう読んだからと僕にくれたこの本。教育者、指導者、知将としての野村監督のすごさがよくわかる。僕は元々身体制御能力が並以下なため、運動は何をやっても下手。福岡にいた小学校13年は体育の成績はずっと5段階評価の「1」。その時の友だちからは「運動神経が鈍い」と四六時中囃し立てられていた。気の弱い今時の子だったら自殺もんだが、僕は幸いにも鈍感力があったから、特に堪えることもなくきょうも生きている。だから体育も運動もスポーツもやるのもいやだし、全く関心がなかった。野球なんかも全然観ない。小さい頃からの蓄積がないから、今に至るも新聞のスポーツ面は素通りだし、どの球団に何という選手がいるかも知らない。そんな僕でも、王、長嶋、張本、小林、柴田、ヤクルトの古田（これはうちの奥さんが好きなので）とその時の監督だった野村さんは知っている。でも名前と顔を知っている程度、話をしているのを聞くとなんかひねくれたおっさんやなあ、という印象だった。しかしこの本を読んで野村監督がすごい知将であることがよくわかった。野村監督は家が貧乏だったので、苦労をかけたお母さんとお兄さんに、自分がお金を稼いで報いるために高校卒業後テスト生として南海に入団。頭も最大限に使い、戦略を練って、もちろん努力も人一倍して上にあがっていった。そんな苦労をした人だから、個性がそれぞれ違う選手一人一人に、違った仕方と言い方で指導をし、選手を引き上げ、チーム（組織）の中で適材適所で活かすことに成功した結果、弱小チームを優勝に導けたのだ。数々の業績を挙げた人だから、自慢たらたら自画自賛満載になりがちだが、この本ではそんなものの片鱗もない。淡々と事実に即して書いている。いかに人間としての総合力が高いか、ということだろう。子供がサッカーに熱中している関係で僕もサッカーには少し関心があり子供と一緒にTVを見る。一流のサッカー選手はみんな賢いように見える。試合後のインタビューを聞いても「ああ、この人は頭がいいんだな」と思う人が殆ど。ところが野球は（僕が父親の見ているTVをなにげなく眺めていた頃のことで、今はどうだか知らないが）バカっぽい人が多いように見えた。野村監督によると、当時は何も考えないでただやっている選手が殆どだったようで、そこに頭を使うことを導入したのが野村監督だった。身体能力や野性的勘が超一流でなくても、一人一人の技能が超絶していなくても、頭を使いチームとして成果を出すことに集中すれば一流選手を沢山集められなくても勝てることを証明したのが野村監督だった。これは即、会社のリーダーにも応用できることだ。僕もそういう知将になりたいと思えた。野球好きの人にはたまらないと思う。具体的な選手とのエピソードが満載。僕は選手を殆ど知らないから顔も思い浮かばず、プレーの実態も知らず「ふ～ん」と読むだけだが、それでも面白い。

  2009年01月08日

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• 米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」（角川文庫）

  JJMAMAさんから貸してもらったこの本を読んだ。昨年だったか一昨年だったかに急逝された米原万里さんの実体験記。米原さんはロシア語の同時通訳をやっていた方。そして、この人の書く本はどれも人間の真実を衝いていて、もの悲しくも温かく、時にはセクシーで、時には爆笑を誘う。この本の粗筋を書く能力は僕にはないので、とにかく心ある皆さんに読んで頂きたい。この本には、ロシア、ルーマニア、日本、イギリス、ドイツ、アメリカ、ユダヤ、イスラエル等々インターナショナル満載である。そして、読んでいてわかるのは、資本主義にも共産主義にもそれぞれ明暗があり、一人の人間に弱さも醜さも、強さも美しさもあるということ。それはつまり人間の真実である。今、未曾有の経済危機なんていうけど、くだらない。今回の件の本質は一部の特権的な人や国（アメリカ）が宴のあとを僕らもたざる者、弱き者にツケ回ししようとしているだけのこと。経済なんて、永遠に成長できるはずはないのだから、今回の件を機に贅沢をやめればいいだけのこと。その方が地球を長持ちさせてくれる。そんなことがすべてわかる本なので、心あるすべての人間に読んで欲しい。じゃ、おやすみなさい。

  2008年12月12日

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• 浅田次郎「勇気凛凛ルリの色～四十肩と恋愛」（講談社文庫）

  ストロング宮迫さんのメルマガで紹介されていた浅田次郎の「人は情熱がなければ生きていけない」、「新撰組読本」、そして標題の本。ここに出てくる逸話に感動してすぐに日本に注文した。浅田次郎氏の本は、「鉄道員/ラブレター」、「蒼穹の昴」、「日輪の遺産」、「椿山課長の７日間」しか読んだことがない。稀代のストーリーテラーだと思う。「鉄道員/ラブレター」を読んだときには、電車の中だったにも関わらず滂沱の涙を禁じ得なかった。浅田次郎氏が沢山の苦労をされて、それでも一所懸命生きてこられたからこそ人間のささやかな喜びや仕合わせ、深い悲しみや絶望を知っていて、それを抑制の利いた筆致で描かれるので涙腺を刺激するのだと思う。僕は小さい頃「柔道一直線」を見ていて、一条直也（桜木健一）の幼なじみの吉沢京子より、いつもレモンをもちながら直弥を見つめるもう一人の女性の方が好きだった。僕はその時青かったと思う。いまなら迷いなく吉沢京子ちゃんが好きだ。そしてもう一つ忘れられない場面は、直也の家は魚屋さんで、そこに柔道のライバルを招いたところ。ライバルは直也の魚の食い散らかしを見て、鬼車の言う「初心」とは何かを悟り、「小次郎破れたり」ならぬ「直也破れたり」と喝破し実際に試合で直也に勝つ。当時は意味がよくわからなかったけれど、今はよくわかる。何せ僕も歳取って涙腺が弱くなったから。標題の本で感動したところ：絶望して、あるいはリストラされてホームレスになった人たちへの言葉；「人は、もはやこれまでと思えば石に蹴つまずいても死ぬ。自分の力で踏みこたえていなければ、どこまででも堕ちて行く。死なぬように堕ちぬように懸命の努力をすることこそ、人の人たる所以なのである。他人の力のみで開ける人生など、何ひとつないのである。どうか一年前、無理無体に家族を奪われ、家を焼かれた神戸の人たちのことを思い返して欲しい。人間は健康でさえあれば、いついかなる環境からでも、必ず立ち上がることができる。いかに公平さを欠いた世の中であろうと、少くとも神は、人間にそれだけの勇気と力とを、等しく与えているはずなのである。」今、未曾有の経済危機でリストラされる人がたくさん出るであろうこの時代にこそ、広く読んで欲しい言葉だ。（もちろん僕自身リストラ候補の例外ではないであろうから、高踏的にもの申している訳ではありません）「冬の夜の家出は、生の選択であった。あの晩、私は着のみ着のままで死から脱出した。ボストンバッグの中には、預金通帳と辞書だけが入っていた。なぜ辞書であったのかはわからないが、ともかく広辞苑と漢和辞典と、研究社の英和辞典を持った。教科書も着替えももたずに辞書類だけを詰めこんだというのは今さら説明のつけようもないが、だぶんそれらが私のアイデンティティーであったのだろうと思う。あえて具体的な理由をつけるとするなら、それらは別れた母が買い揃えてくれたものであった。中学に合格したとき、おまえには塾にも行かせず家庭教師もつけなかったのだからこのぐらいはしてやるよと、乏しい財布をはたいて買ってくれたのだった。ホステスをしながら私を育ててくれた母は、結局経済的な事由で私を手放したのだが、そのとたんにこんなことになってしまったという苛責の念が、家出に際してパンツよりも辞書を選ばせたのであろうか。とんだ浪花節になってしまった。どうかすべてはナーバスな作家の鬱状態におけるたわごとだと、お許し願いたい。ボロボロの広辞苑を枕にして、これより眠る。おかあさん、おやすみなさい。」これが涙なくして読めようか。お母さんの心を痛いほどわかるし、それをわかりながら家出する浅田氏の心もわかる。そこには人間と人間との心の営みがある。

  2008年12月10日

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• ビルトッテン「銀行は強盗、外資はハイエナ」（小学館文庫）

  僕は前に書いたように、大学時代は心情左翼だったのだけれど、ここ数年は右傾化している。尤も右だの左だの極端を言う前にグラデーションはいくらでもある訳で、ほとんどの人間は中間層だと思う。右と左、富者と貧者、勝ち組と負け組・・・グラデーションは無限にあるのに、二極分解させたがるのは一体どういうことだろう？昔の日本は楽しいことも悲しいこともみんなでシェアしていたと思う。この本は素晴らしい。著者はアメリカ人なのだけれどソフトウェア販売のために何十年前に来日し、そこで日本に魅入ってしまって、この本を2002年に書いた後、2006年には日本国籍をとったとのこと。この人が言う。日本人はMBAの勉強をしない方がいい。むしろ感情を全開にした方がいいのだ。とにもかくにも騙されたと思って読んでみてください。よっぱらってまふので、あらすじ紹介できません「、れられら～」

  2008年11月24日

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• ガルブレイス「日本経済への最後の警告」（徳間書店）

  ガルブレイス教授の本を読むのはこれが初めて。「ゆたかな社会」の題名は知っていたが、当時はビジネス書には全く興味がなく、読まなかった。 「大恐慌」という著作もあるので、大恐慌になぞらえられる今日の経済状況の中で何か学ぶべき事があるのではないかと思い読んだ。 題名である日本経済への警告はプロローグと、最後の部分だけで、間は経済学史。ケインジアンであるガルブレイス教授はニューディール政策と共同歩調をとることになったケインズ経済学の今日における有効性を言う。 今日の経済状況でオバマ新大統領に求められるのは、中間層や弱者を救うための、政府による経済政策であろう。 そして、日本。この本が書かれたのは2002年で小泉政権の時代。グローバル化の中で生き残るために構造改革が必要であると言い、富める者も貧しい者も等しく痛みを分け持てと言う小泉総理（当時）へ呈する疑問。 結局恐慌や経済停滞のしわよせを受けるのは常に中間層や貧者だ。富者はおいしい汁だけを食い尽くす。とすると、小泉構造改革に対して僕らはＮｏと言ってもよいのだ。結局小泉さんは歴史の審判がくだる前に引退した。自己保身のためにはすこぶる賢い身の処し方だと思う。 ケインズ経済学は愛の経済学。こんな時代だからこそ、弱肉強食の経済学でなく愛の経済学が必要だ。その意味で、今読む価値のある本だと思った。

  2008年11月18日

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• 山田真哉『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』（光文社新書）

  「食い逃げされてもバイトは雇うな」の続編。この本もインチョンの教養人K君に貸してもらった。両方の本を読むのが望ましい。上巻では「感情より勘定」だからして、バイトを雇う費用と食い逃げされる損失を計算して、バイトを雇う費用＞食い逃げされる損失だからして食い逃げを容認する方が会計（科学）的には正解だと言う。その舌の根も渇かぬうちに自己否定の下巻。「ビジネス（非科学）的には勘定より感情もあり」というのがこの本の趣旨。この複眼的視点がすばらしい。会計（科学）が万能ではないということを説く会計士：山田さん。うちの会社の計画好きには辟易していたが、なぜ計画信仰が生まれるかの理由もこの本を読んでよくわかった。それは株主対策だ。しかし、浮気な株主にそこまでコミットする必要もあるまい。現状を見よ。アメリカ発の金融危機の煽りで、何ら問題のない日本企業が軒並み株安となっている。所詮株主なんて美人投票しかできないのだ。山田さんは「計画よりカード」と説く。環境が変わった時に計画を作り直すのではなく、この環境にはAカード、あの環境にはBカードと、いろいろなカードを切れることこそ変転極まりない現代には必要なことだと思う。Y君よ。この間計画を立てたばかりなのにもうローリングはやめようよ。疲れるよ。

  2008年10月28日

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• 塩田潮「昭和の教祖　安岡正篤」（文芸春秋）

  ソウルジャパンクラブの本棚にあったこの本を借りた。ひとことで言うと、安岡師の新たな一面が見えた。 僕が今まで読んだのは安岡師ご本人が書かれた本。なんて頭がいい人だろう、そして一本筋の通った人だろう、と思った。世間の評判は歴代総理のご意見番。「平成」の名付け親。 「平成」の名付け親であることはまず間違いないのだけれど、歴代総理のご意見番というのはちょっと違うらしい。安岡師に師事したのは佐藤栄作総理くらいで、池田隼人総理は安岡師なんて眼中になかったらしい。僕にとって意外だったのは、安岡師の息のかかった人たちの会：国維会で内閣を固めた政権があったらしいが、それでもうまく行かなかったという。広田弘毅首相（城山三郎の「落日燃ゆ」の主人公で、外相から総理になってA級戦犯として処刑された。処刑前に東條英機が「天皇陛下、万歳」と言うのを聞いて、「今のは漫才ですか？」と処刑官に聞いたという、福岡修猷館出身の英才）もそのメンバーだったが、それでも徳治主義は成り立たなかった。この本を読んで安岡師も万能ではなかったことがわかった。それならば、知能程度は低い僕でも何らかの形でお国や世界に貢献できるだろう。そんなことを思ったきょうこの頃。

  2008年10月08日

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