カテゴリ:心揺さぶられたこと
さて、今日も愉快な話で無くてすみません。
医療従事者以外で、『日に日に衰えていく人の姿』を見た経験のある若い方ってどれ位いるのでしょうか? ある意味、医療従事者というのは、『人の衰退』、『人の死』を日常としているので、『死、老い、衰え』というモノへの受け止め方が一種の『感覚麻痺』を起こしていると私は思っています。また、そうで無ければ勤まらない面も沢山あります。 『自分の両親・兄弟全員をガンで亡くす。』 という経験を30代でした女性(現在50代後半)と、私は知り合いました。テレビや雑誌、インターネット、折り込み広告などなど、様々なメディアで民間療法の情報が溢れています。彼女も、自分の肉親(5人)を『ガン』で亡くしているため、『ガン』という病気に対して、一方ならぬ思いを持っていたそうです。そこで、若いうちから、「民間療法で、『ガン』を寄せ付けない身体にしよう!」と色々な方法を実行していたそうです。 緑茶 ココア 黒酢 ウコン 有機野菜 アルカリイオン水 科学配合物無使用洗剤 無添加・無香料食品 ・・・ 良いと言われるものは何でも、取り入れたそうです。 しかし、あと数年で還暦を迎えようという昨年夏に、『胃ガン』であることが発覚。彼女は絶望したそうです。それでも彼女は、治療と併せて民間療法を継続していました。 昨年の12月半ばから、一月半程ほぼ毎日、私は彼女と会っていました。元々、痩せ型の彼女が、日を追うごとにさらに 細く、小さくなっていくのを私は感じていました。 それは、『明らかに昨日と違う』のです。 眼下が落ち窪み、眼球が飛び出さんばかりに剥き出し、髪の毛が大量に抜け落ち、皮膚が皺皺で斑点状の湿疹と、大きなシミのようなモノが沢山浮き上がり、身体全体の骨が、ギシギシ音を立てているのはないかと思われるようで、私は彼女のあまりの痛々しい姿を見るのが辛くなっていました。 それでも、彼女が私の顔を見ると嬉しそうに微笑んでくれるので、毎日彼女の顔を見ずにはいられませんでした。 彼女も、自分が日毎『哀れな姿』になるので面会人が減っていくことを感じていました。だからこそ、余計に毎日顔を出し、自分の子供とも年が近い私の訪問を心待ちにしていたのかもしれません。 年が明けて、彼女は寝たきりになってしまいました。点滴の管の本数が増え、自分の力では全く立てなくなっていました。 切除した胃の『ガン』が他所へも転移。食事はほとんど口から摂取できない状態。私の目にも、はっきりと『死』が近いと感じさせました。それでも、私が訪問すると1日中横たわってばかりの彼女は、上半身だけ起きて、ほんの数分ですが話をしてくれました。 いつものように、彼女の元へ顔出しに行こうと思っていた日のことでした。この病院は、建物が狭く医師や看護婦の声が よく聴こえてしまうのですが、廊下から話し声が聴こえてきました。 「○○(彼女の苗字)さんの所、行くのヤダァ!だって、治らない人面倒見るのってツマンナイじゃん」 「民間療法で、抗ガン作用なんてあるわけ無いじゃん!」 「こっちの言う治療さえしてれば良いのに、あんなの気休め、気休め!」 「人間いつかは死ぬんだから、もうお孫さんも居て、あと少しで60なんだからさー、(暗に若くないから死んでも良い言ってる?)」 こんな会話がなされていました。 ヒソヒソと話していたため、恐らく私以外の人には、聞こえていなかったと思います。 それから、1週間経たないうちに彼女は 医師から帰宅を勧められ、退院していきました。彼女は、小柄な私でも軽々と持ち上げられそうな位に、さらに小さく細くなっていました。全て分かっているはずなのに、彼女は 「家に帰れるから、嬉しいわ。」と笑って、私に言いました。 無理して笑わなくても良いのに…。とその時の私は思いましたが、そうでは無いのです。無理に笑ったのでは無いのだと、今なら思えます。 『色々な思いが、巡って巡ってどうしようも無い時、我知らず笑みが出てしまう。』そんな感じだった気がします。 今月に入り、彼女はまた入院したそうです。母の転院で、私が彼女の入院している病院へ行くことはまだ少し先になりますが、また毎日彼女に会いにいきたいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年10月17日 22時18分47秒
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