カテゴリ:閑話
ある日のヴェルース家の朝。
「…くしゅんっ」 次いで少し鼻を啜る音。 「……風邪かな」 その日の朝はそれほど暖かいというわけでもなかった。 むしろ少し肌寒いとさえ感じる程度か。 自分の状況を確認。 掛け布団→何故かドアの辺りまで飛んでいる。 枕→抱きかかえて寝ていたらしく手元にある。 寝間着→上だけ部屋の隅っこにある。 体温→いつもより熱く感じる。 確認終了。 「…………」 つまり自分は、何時も独りでしている事をし終わった後、寝ている間に布団をドアの辺りにまで蹴飛ばして、ボタン外したままだった上着も部屋の隅に投げて、枕を抱えて小さくなって寝ていたということか。 なるほど、それなら風邪くらいは引くだろう。 我が事ながら情けなく感じてくる。 ぐー。 ……身体は正直だ。 後片付けも早々に、ヴェルースはリビングへと向かった。 「グッドモーニン! アリス!」 朝からグレイの馬鹿は元気だ。 いつもなら罵詈雑言をこれでもかと浴びせかけて隅の方に追いやってやる所だけど、今朝は止めておいた。 なんか、身体がだるい。泥を引きずってるみたいに身体が重い。 ん、頭もボーっとしてる気がする。 「アリス、大丈夫? 顔、赤い」 「ん、大丈夫。ちょっと熱があって身体がだるくて頭がボーっとするだけだから」 と、ハルカの頭を撫でてやりながら返す。 まぁ、100%大丈夫じゃないんだけど。 「それはいけない、さぁアリス、私の胸に飛び込んでおいで!」 「誰が飛び込むかアホが!」 突然スーツを脱いで両手を広げたグレイに、掌を打ち込んだ。 九○流 焔○子 「ぐ、ゴフッ」 「ぜぇ、ぜぇ」 コイツのバカな振る舞いのせいで余計に身体がだるい。 その後なんとか朝食を異に流し込み、制服に着替えた後学校へ向かった。 でも、その選択は失敗だという事を私は数分で理解した。 授業の内容が全く解らない。声が遠く感じるし、視界だってグラグラと揺れている。 「(やっぱり大人しく寝てれば良かったかも……)」 そんな考えが脳裏を過ぎるが、後の祭りだ。 ……結局、昼頃には限界が来て早退したけど。 「はぁっ……」 フラフラしながら家に帰った私は、簡単な氷嚢を作ってベッドで横になっていた。 額のひんやりとした感覚が、とても気持ちよく感じる。 とりあえず薬も飲んだし、暫らくは大人しく寝ていることにしよう。 瞼を閉じて、静かな闇に意識を沈めて行った。 嫌な夢を見た。 そう、とてもとても嫌な夢。 彼らと敵対し、殺し合う、そういう夢。 ……意識は沈む。渦巻く混沌の中に。 「……ヴェルースさん寝てるよ?」 「起こすのも可哀想だし、置手紙書いて帰るか?」 「うーん、どうしようか」 複数の人間の声がする。 とても聞き慣れた人たちの声だ。 「……なんか用?」 とりあえず声を掛けておこう。 一眠りしたからか、気分も大分楽になっていた。 「あ、起きたんですか」 「お前、朝から調子悪そうだったからな。様子を見に来たんだ」 「ちなみに提案はカガリだ。あとこれはお見舞い」 「辛い時は無理せずに休めば良いのに」 キラ、カガリ、ユウヤ、レイナの4人が目の前に居た。 お見舞いだと言って渡されたのは『月光の安息』のケーキだった。 しかもご丁寧に『お大事に』と書かれたカードまで入っている。 「今日は色々と大変だったなぁ」 「体育とか特にきつかったよね」 そのまま4人は談笑を始める。 私は時々振られる話に相槌を打つだけだ。 『ありがとう』 そう、唇だけの動きで彼らに伝える。 こういう平和な日々がいつまでも続けば良いと思う。 こういう平凡な日々がいつまでも続けば良いと願う。 一日だけの骨休め。 一日だけの躰休め。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[閑話] カテゴリの最新記事
|
|