それぞれのクリスマス。月原兄妹弟&白猫&エリス編
ベルカ絶対防衛戦略空域B7R通称『円卓』。 そして、円卓の空を悠々と飛ぶ鋼鉄の怪鳥が2機。≪戦闘機乗り達の間で畏怖される場所も、空から見れば壮大な眺めだ≫「……ああ。空は良い、心が安らぐ」 純白に染め上げた翼と漆黒のボディを持つ凶鳥、ADF-X02F『ヒュッケバイン』に搭乗している月原太陽は、真横を飛ぶ純白の怪鳥『フレスヴェルク』に通信を送った。 白猫は微笑を浮かべて返答する。見渡す限り、白銀の世界。円卓は雪化粧が施され、かつての激戦区とは思えないほどに美しい。「……そろそろ基地に戻ろう、太陽」≪ん、もうそんな時間か? 俺はもうちょっと飛びたいんだけど≫「それはまた今度な。次に来た時で良いだろ?」≪いつになるか分からないけどな≫「俺は待つよ。ずっと。お前とまた一緒に空を飛べる日を。ずっと待ち続けるさ。このフレスヴェルクと一緒に」≪……まぁ、その前に中佐のお仕置きか≫「へ?」≪その機体、無断で持ち出したからな。ちゃんと整備されてるとは言え、無期限待機が命じられてる試作機。この機体も納入予定とはいえ、ホントは俺が乗って良い機体じゃないし。今頃中佐、きっと怒ってるぞ≫ その言葉で、少女は背筋が冷たくなって行くのを感じた。「にゃ、ニャア~」≪……情けない声を出すなよ。俺も一緒に謝ってやるから≫「……ありがと」 その後、基地に戻った二人は、試作機を無断で持ち出した件でラーグ中佐にたっぷりと説教されたらしい。 ラーグ中佐に説教された後、太陽は罰として反省文50枚、空戦における戦術レポート100枚を書かされていた。「災難だったわね、太陽」 熱めのコーヒーを啜りながら、水菜が呆れた風に言う。「あの人の説教は長い上に、罰もキツイから嫌になる」 口と手を器用に動かしながら、太陽は愚痴る。恐るべきスピードで反省文を書き上げると、戦術レポートに取り掛かった。「早くしないと、時間に遅れるわよ。今日は兄さん達と過ごす予定なんだから」「わかってるよ」「本当に分かってたら、機密扱いの試作機を持ち出したりはしないと思うけど? X02Fは、ここの人達の好意で見せてもらったんだから。本当なら、私達はこの基地に居ちゃいけないのよ? それに、戦闘に巻き込まれて墜とされでもしたら、兄さんの名前だけじゃなくて、RS軍自体の信頼も落としかねなかったのよ?」「解った、解ったってば。解ったから、もうしないから。だから耳元で叫ぶのは止めてくれ」「……反省してるのなら宜しい」 ひとしきり捲くし立てると、水菜は満足そうに頷いた。 太陽は「はぁ」と溜息をつき、レポートを再び書き始めた。「あと10分くらいで終わらせてね」「…………」 その後、10分ほどでレポートを書き上げると、20分後にはヴァルク基地を飛び立っていった。 月光の安息にて。 店の雰囲気を壊さない程度に飾り付けられた店内は、クリスマスムード一色となっていた。「クリスマス限定、特製ケーキセットを二つ」「はい。特製ケーキセット二つですね」 客入りも上々といった感じで、何故かサンタコスのエリスが客に対応していた。 店内は学生のカップルが大半を占め、他には少しばかり親子連れや女子高生がいる。「月斗さん、2番テーブル、特製ケーキセット二つです」「おう」 厨房で月斗は、無駄の無い動きで切り分けたケーキを盛り付けていく。30秒後には特製ケーキセットが二つ出来上がった。「できたぞ」「は~い」 ケーキセットを持っていくエリスの後ろ姿を見送り、月斗はテキパキと皿洗い、食器拭き、調理、盛り付け、切り分けをこなして行く。 チラッと時計に目をやる。そろそろ太陽、水菜、ルミの3人が来てもいい時間だ。「何をやってるんだ、いったい」 何かトラブルに巻き込まれたのだろうか? すぐには来れない緊急の用事でもできたのか? そんな事を頭の隅で考えつつも、手元はちゃんと動かしている。凄い人だ。「遅れてごめん兄さん」「手伝いに来たぜ、月斗兄さん」「こんにちは~」「遅かったな。三人とも」 そそくさとエプロンを付ける太陽、水菜、ルミの3人に、月斗は手を休めずに言った。「太陽が反省文を書かされて、それで遅れたの」「俺のせいかよ!?」「太陽君のせいでしょ。明らかに」「?」 事態を知らない月斗は話についていけず、?マークが頭上に浮かぶ。「送れた分は仕事できっちりと取り戻すさ」「太陽には特に頑張ってもらわないとね」「何故に!?」「元はといえば太陽君が悪いんでしょ?」「く……」「「??」」 またもついていけず、?マークが頭上に浮かぶ月斗。注文を言いに来たエリスも、話が解らず混乱している。「(事情は後で聞くか……)」 なんか癪なので、後で話を聞く事にした。 ちなみに、話を聞かされたあと、太陽は月斗にもお説教されたらしい。