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くろの旅

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 春は、あけぼの。 やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。

 日の出前の東北道を走りながら枕草子の書き出しを思い出す。白と青紫のツートンカラーに彩られた山の稜線はまさに清少納言の言葉そのもので、私は絵画のような景色に目を奪われていた。しかし、この美しい国は、目に見えない放射性物質に汚染されつつあるのだ。


 「そろそろですよ。」東京を出て6時間、運転していたボランティアのチーフから声がかかる。カーブを曲がった瞬間、目の前に広がる風景に私は言葉を失った。見渡す限りの瓦礫の大地。木造の家は粉々になり、折れた柱や、割れた壁が積み重なっている。自動車はぺしゃんこに潰れているものもあれば、裏返しにひっくり返っているものもある。テレビで見ていた筈なのに、被害状況を知っていた筈なのに、私は何も分かっていなかったのだ。

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 家を、人間を、生活を、想い出を、歴史を飲み込んだ海は嘘のように静かで、日差しは暖かく鳥はさえずり、破壊された街がなければ悪夢の中の出来事にしか思えない。

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 津波が襲ってくる様を見ていた方の話を聞いた。普段青い海だった場所が干上がって真茶色になり、その数分後、津波がやってきた。天気の良い日だったのに海の方角が一面真っ白に曇っている。よく見るとそれは津波から巻き起こす水煙だった。「津波の音ってどんなだと思いますか?建物や木が折れていく、バキバキバキという本当に嫌な音なんですよ。」自宅より少し下に住んでいたご両親の家は津波に飲まれた。両親を連れて高台の公民館に避難した。電気もガスも水も無い寒い夜。空は「今までに見た事もないほどに澄んだ、憎らしいほどの星空」だったという。

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 瓦礫の中をとぼとぼ歩く女性に出会った。ボランティアのチーフが女性に話しかけた。彼女の家は流され、小学生の子供とは今離れ離れで暮らさざるを得ず、知り合いの家に身を寄せている。肩身の狭い生活。何か仕事がしたいのだが、仕事が無く、自分の社会的存在意義を問う毎日が続いているという。「あたし、なんで生きているんだろう。死んだほうが良かったのに。」 私は女性にかける言葉を必死に探したが、結局最後まで、何も言う事ができなかった。「頑張って下さい」と言う事さえも、無礼なことに感じてしまう。彼女の悲しみの深さの前に、言葉はあまりに無力だった。


 津波で一階部分がヘドロで埋まった被災者の家を片付けに行った。「何をしたらいいのでしょうか?」と聞くと、「それさえ分かりません。考えてください」と言われた。家の中を見て納得した。確かに、何から始めたらいいのか、どこから手を付けたらいいのか、分からない。
 気を取り直し、厚く堆積したヘドロをスコップで掬っていく。ヘドロに含まれた割れガラスがジャリジャリと嫌な音を立てる。バケツが一杯になると外に捨てに行く。硬く干からびたヘドロを崩していると、カニの死骸がたくさん出てくる。津波が奪ったのは人間の命だけではなかった。
 作業を進める中、突然カニの死骸が動き出し、私は思わず悲鳴を上げそうになった。なんと、生きていたのだ。その日出てきたたくさんのカニの中で、4匹だけ生きているものを見つけた。身動きも取れない硬いヘドロの中、一ヶ月以上もの間、辛うじて命を繋いでいた小さなカニ。皆が作業の手を止め、カニを見に来る。最後まで生きることを諦めなかったカニは、復興への象徴にも見えた。こんな小さなカニだって、必死に頑張ってきたのだ。私たちも負けてはいられない。

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 気が遠くなりそうな作業量。だが、皆で一緒に働いていると、心強い。会話の中では笑いも起きる。被災者の方自身からも冗談が出る。笑いが起きれば、また力が湧く。一日ボランティアの私が帰った後、被災者の方はまた自分たちだけで作業を続けていかなければならない。せめてこの時間だけは、明るい気分で過ごしていただければ、と思う。そして私が帰った後は、誰か別の人が。そうやって、少しでも多くの被災者に、少しでも長く、少しでも多くの人達が力を貸してくれたら。
 「日本が一つになるいいチャンスだ」というようなことを、何不自由なく暮らしている私がいう資格は無い。その言葉を発する権利がある人がいるとすれば、それは苦しみを乗り越えた人だけだ。しかし、辛い苦しみの先に、それを乗り越えた喜びと自信を。泣き顔を笑顔に。電気は節約しても、笑顔を節約する必要は無い。被災地を拠点に笑顔が世界に広がっていくことを、切に願わずにはいられなかった。

 命の儚さと、命の強さと、二つを同時に感じた一日。今このとき、自分に命があるんだ、という事を痛感した一日。命ある者は、自分達に課せられた使命を果たす義務がある。次の世代を担う者たちのため、より良き世界を作るために。復興への援助、被災者の心のケア、次世代エネルギー問題、考えるべきこと、やるべきことはたくさんある。命ある限り、私たちは未来を見据え、進んでいかなければならない。皆で力を合わせれば、きっと。


『この大地を畏れ敬え。

 それは おまえたちの先祖により
 与えられたものではなく、
 おまえたちの子孫から
 預かっているものだから。』

        (ケニヤの諺)








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最終更新日  2011年04月18日 01時12分55秒
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