2020/07/17(金)06:41
大宇宙ファンタジア☆世界樹☆その4
大宇宙ファンタジア☆世界樹☆その4
「彼はこう言ったよ。
…日本の科学技術は、ついに、空気にまで文字が書けるようにしたのですか? すごいなあ。でも、わたしには見えない…ってね」
「あはは。冗談にきまってるのに。マジにうけとっちゃったの? その人」
「わっはっは。そう、まずは、信じてくれた。近ごろは、日本人は、なんでも造っちまうっていうイメージが、外国人には浸透してるみたいだね」
「そうみたいね。でも、ちょっと、笑っちゃう」
「そうだね。それで、こう続けたよ。だけど、その前に、ちょっと説明がいるね。そのだいぶ前に、その続きの中にでてくることで、耳と大脳による音の処理が、日本人と外国人では異なることについて、話しておいたんだけどね」
「あー、あれでしょ。日本人は、母音とか虫の鳴き声を、外国人とは反対に、ことばを扱う左の脳で処理するってことね」
「そう。そのことさ。で、続けたのは、こうさ。
…そのインクには、さらに、日本人には見えて、外国人には見えないような性質をもたせてある。
さっき話したから、君も知ってのとおり、
日本人の耳と大脳による音の処理は、アジア人を含めた外国人のそれとは、異なっているから、
光の処理についても、そうしたことが可能なんだ…ってね」
「あははは。それって、もっともらしく聴こえるわねぇ」
「わはは、うん。それからさらに、言ってやったよ。
…だけれど、その技術は完璧ではないから、見る角度によっては、外国人にも見えるらしい。角度をくふうしてみるといいよ…ってね」
「あははは。で、その人どうしたの?」
「角度を変えたり、近寄ったりはなれたり、目をこらしたりさ。そりゃあ、もう、自分の存在基盤にかかわる、といった熱心さだった。
まわりのお客さんたちは、にやにやしてるし、警備員もぼくになにごとかときくし、そりゃあ、もう、ちょっとした騒ぎってかんじになっちまったんだ」
「あははは。やるわねぇ、ケンったら。
それで、その人、それがジョークだとわかった時、怒らなかった?」
「彼らは、知的なジョークには、まずは怒らないね。むしろ、そのジョークに感心していたよ」
「そういった点は、外国人も心が広いわね」
「うん、そうだね。
そのあと、そのアメリカ人から、ユーモアの反撃をくらったよ」
「あはは。それって、どんなのかしら?」
「彼が、…この国には、コインを食べる機械たちが、いろいろといっぱいあるね…、といったんだ」
「あはは、コインを食べる機械ねぇ。いろんな自動販売機のことでしょ」
「そう。そこで、…うん、そうなんだ…と相づちをうつと、
その男、…それらは日本人たちに似て食い意地がはってるね…
と言ったのさ」
「あははは。でも、外国人の方がもっとよけい食べるわよ」
「うん、そうなんだよね。だから、それを言ってやると、テキもさるもの、こう言うんだ。
…でも、日本人の場合、その機械が、はらをすかせると、その持ち主まで、ハラペコになってしまうでしょう。アメリカには、あんな機械はほんとに少ない。だから、日本人は食い意地がはってるということになる…
なんて言うんだ」
「あはは。自動販売機にコインがちょっとしかはいらないと、つまり、売り上げが低いと、持ち主の収入がへって、おなかをすかせるってことね」
「そう、そういうこと。
そして、彼は、…もう一つ理由がある…って言うんだ」
「へーえ。それって、どういう理由かしら」
「うん。そこをただすと、その男は、
…その持ち主は、その機械のことを、自分の分身だと思っているから…
と言うんだ」
「あははは。機械が自分の分身ねぇ。物好きな考え方ねぇ」
「あははは。まったくだよね。
その男に言わせると、日本人ほど、物を大切にする民族は少なく、そのことは、物を分身だと思っている証拠だ、となるんだそうだ」
「あははは。まあ、完全にはずれてるわけじゃないけれど」
「わっはっは。まあ、そうだね。
それから、もうひとつ、彼はこう言うんだ。
…さっきの、機械たちがかせがなければ、持ち主は収入が減る、といったことに関連させると、その持ち主にとって、機械たちは従業員だ。そして、日本の雇い主は、従業員が飢えたら、自分が飢えたのと同じだと考える。だから、その機械が飢えれば、持ち主も飢える。そうなると、食い意地がはってくる…
という論法だそうだ」
「あははは。昔の日本人にとっては、まんざらはずれてはいないわね」
「わっはっは。まあ、そうだね。
さらに、その男は、
…この国には、そのほかにも、ヘンな考え方をする人たちがいっぱいいる…
と言うんだ」
「その人の考え方だってヘンテコリンじゃない。それで、そのあとは?」
「うん。その男が言うには、
…たとえば、ヨーロッパあたりから輸入した値段の高い品物を、ブランド品と言って、ありがたがる人たちがいる。そして、それをもっていると、自分が高級な人間になったと思うそうだ。それはコッケイだ…
彼に言わせれれば、そうなるらしい。
まあ、これは日本人の中でも広く言われている貶しことばではあるけどね」
by西山浩一(C)(春楽天・世界人)