名優 ローベルト・マイヤー
ある日曜日の昼に、アカデミー劇場で名優ローベルト・マイヤーRobert Meyer(彼は2001年以来恒例の国立歌劇場のジルベスター「こうもり」公演の第3幕であのフロッシュ役を演じている)が、ネストロイの喜劇"Haeuptling Abendwind" (「酋長アーベントヴィント」)を1人漫談形式で演じる朗読会に行った。ローベルト・マイヤーは、日本ではほとんど知られていないと思うが、私はこれまで国立オペラ座の「こうもり」、ブルク劇場のネストロイの「広告配達ペップ」、またブルク劇場の「ハムレット」の義理の父親役、ベルンハルトの「習慣の力」などで見る機会があった。彼は特にこのネストロイの滑稽劇Posseを得意にしているが、オーストリアの多くの俳優のなかでも、一度演技を見たら(また声も独特の魅力がある)忘れられないほど個性派俳優である。その個性的な声の響きに演技がぴったりとはまっている。日本でたとえたらだれだろう?とにかくジルベスターやお正月に「こうもり」をオペラ座で見る機会のある人は、その3幕の彼の演技に注目して欲しい。 この"Haeuptling Abendwind"だが、ネストロイの作品の中でも異色の作品である。舞台は未開の島、酋長アーベントヴィントAbendwindは、敵対する部族の酋長ビーバーハーンスBiberhahnsと和解するために宴会を開く予定なのだが、連日猟がうまくいかず、ご馳走がだせそうもなく焦っている。そこに娘のアタラAtalaと仲良くなった青年アルトゥールArthurがやってくるが、実は彼はBiberhahnsの息子で、昔Biberhahnsがその息子をヨーロッパの理髪師の元に送り、そこで修行させたのである。そしてようやく今日、彼はめでたく故郷に戻ってきたのである。しかしBiberhahnsもその息子も、20年以上一度も会っていないので互いの顔を覚えていない。酋長AbendwindはArthurを見ると、さっそく宴会のための生け贄にすることを思いつき、Arthurを料理しそれをBiberhahnに出すために、コックたちにに捕らえて料理するように命じる。その一方でBiberhahnはAbendwindに自分の息子が今日帰ってくることを話す。事情を知ったAbendwindは、さっき料理した青年がBiberhahnの息子であったことを知り愕然とする。しかし最後に、Arthurはコックたちから逃げていて無事であることがわかり、結局ArthurとAtalaが結ばれることにより、AbendwindとBiberhahnの部族も和解するという話である。 マイヤーは主人公Abendwindをウィーン方言、相手役のBiberhahnをバイエルン方言、そしてAbendwindの娘を標準語で話し、性格の違いをうまく演じ分けていた。彼はもともとはドイツ出身で、ザルツブルクのモーツァルテウムの演劇学科出身だけあって、なかなか歌も良かった。こういう何でもこなせる俳優となると、もちろんオーストリアでも珍しく、貴重な存在である。だからときどき彼の演技が無性に「聞きたく」なる。そう、あと独演会で、演技することなく、その戯曲を「演じる」ことができるオーストリアの俳優の実力は、ほんとうに称賛に値する。やはり徹底的に舞台で鍛えられるこちらの俳優たちからは、日本の演劇のレベルとの差を感じざるを得ない。。(左、ローベルト・マイヤー アカデミー劇場)