コリウールの不安な夜
札幌に雨まじりの雪が降る。暗くて寒い夜。銀世界の雪の夜とはぜんぜん違う、悲しげな冷たい色の夜。こんな晩はコリウールの不安な夜を思い出す。私の予想に反して、1月のフランス地中海沿岸は寒かった。もちろん、地中海をはさんで反対側にあるチュニジアやアルジェリアは暖かいかもしれない。でもフランスが面している地中海は、決して優しい顔ではなかった。スペインから北上してきたせいもあったろう。バルセロナの太陽があまりにもまぶしかったから、国境を越えたとたんに、空が変わって悲しくなった。重い雲。空気まで違う気がした。コリウールに着いた時、すでに日は暮れかかっていた。マティスやドランがなどが愛し、鮮やかな色で描いたあのコリウール。生きる喜びに満ち満ちた、目に刺さるほどの太陽を感じる、あの作品たち。それが、この、地の果てのように寂しい場所なのか?風が強かった。日がくれ、かすかに青紫を残す空に灯台の光がぼんやりと浮かび上がる。あえて、吹き飛びそうな自分を必死で押さえて、防波堤の方まで歩いていく。海の真ん中にいるように、不安でしょうがなかった。でも友達が行きたがるから、行くしかなかった。海に突き出た防波堤の先端まで行く。風の冷たさと、風の音。ごごーう、ごごう!と、ねじふせるように体を押す。「もう帰ろう」慌てるように、岸へ戻った。車で細い道をあがっていく。海岸沿いの道は急カーブを描き、次第に細くなる。だれかが「ピン!」と指ではじけば、車はまっさかさまに黒い海に落ちそうだった…。今でも、思い出すとぎゅっと胸が痛くなるコリウール。夏にもう一度訪れて、あの記憶を消したいような、でもやはり残しておきたいような、不思議な印象の、あの場所。