テーマ:ひきこもりの様々なカタチ(20)
カテゴリ:こわれ者の祭典
いよいよ“こわれ者の祭典”のメンバーふたりによる“脳性まひブラザーズ単独ライブ”当日。
向かって左がDAIGO、右が周佐さん まずは脳まひブラザーズのふたりが、お互いのハンディを逆手にとったギャグを用いたショート・コントを披露した。この日のイベントのサブタイトルの“僕、うまくしゃべれません 僕、全く歩けません”のとおり、脳性まひのためDAIGOはうまくしゃべれず、周佐さんは歩けないので車椅子で移動している。お互いのハンディを罵りあうかのようなふたりのギャグは、初めて観る人にとっては衝撃的なものだろう。これを言葉で表現することは非常に難しい。関心のある方はぜひ、観に来てほしいとしか言えない。ドア越しに声を聞くことしか出来なかったが、会場から笑いがもれ聞こえていたからウケているらしいことは判った。 ショート・コントの時間が終わり、いよいよゲストが呼ばれることに。ワタコウさんをトップ・バッターに、K・Tさん、そしてオレの順。各ゲストの入場時には、各々のテーマ・ソングが流れる。ワタコウさんの襟元にピンマイクを取り付けて入場のきっかけである曲の開始を待つ。こわれ者芸人のひとりであるアイコさんの“花つ月”という曲が流れ出し、電動車椅子に乗ったワタコウさんが会場中央の通路から舞台に向かって進んでいった。K・Tさんはというと、緊張した面持ちで落ち着かない様子だった。お互いにリラックスするために、『深呼吸しましょう』と声をかける。 ワタコウさんは筋ジストロフィーで四肢が不自由な方だ。話をするとき、こちらの両の瞳をしっかりと見据え、力強い口調で語りかけてくる。病気と、自らの存在とに向きあい続けてきた時間の積み重ねを感じさせる、迫力に満ちた雰囲気を漂わせている。車椅子生活者として、日常生活で感じる不自由さや、他人からうける心無い扱いに対して異を唱え、より暮らしやすい社会へ変えていこうという確固とした意思を持った方だ。またその志に従って、大胆に行動している。ハンディを負っていることで、理由の無いままに行動を規制する社会の偏見や歪んだ仕組みに対して行動し、また発言しているのだ。『それが自分に与えられた役割だと思う』とご当人から伺った。自分のしたいこと、できることは自分でする。できないことは手を借りるという、潔さと自負もまた、ワタコウさんを語る場合には欠かせないものだと感じる。ものすごく存在感のある方だ。 ところで、ワタコウさんは若い頃に描いた自筆のデッサンの作品を持ってきており、それらの作品がトークの場で披露された。オレは午前のリハーサル時に作品数点を鑑賞させてもらったのだが。いずれも海外の俳優さんを描いたポートレート。男性も女性も、端正な顔立ちが丁寧なタッチで見事に描かれており、思わず見とれてしまうほどだった。カメラに収めてこなかったことが、かえすがえすも悔やまれる。 ワタコウさん。写真がピンボケで、すみません… 生活の糧を得るために、ワタコウさんは行商をしている。リンゴ・大根などの野菜から、カブトムシの幼虫。果ては猫に至るまで、幅広く取り扱っているのだそうだ。ちなみに猫は、シャムの子猫の写真を持ち歩いてセールスしてまわったそうなのだが、一匹も売れなかったとのこと。このエピソードもトークの中で語られていた。 ワタコウさんのトークが終わり、次はK・Tさんの番。サザンの曲にあわせて、こちらもまた電動車椅子での入場。K・Tさんはウィルソン病という病気で、肢体不自由に併せて発声困難でもある。ハンディキャップという点では、DAIGOと周佐さんの持つそれらの両方を併せ持つつわものだ。K・Tさんは結婚しており、共に独身の脳まひブラザーズの羨望の的なのだった。夫妻の馴れ初めや、新婚生活のことに話が及ぶと、しきりに照れている姿が印象的だった。 シリアスな部分では、笑凱(“障害”の二文字は、いかなる場合においても人間の状態を表すのに相応しくないとの考えから、“笑凱”と書いています)者を取り巻く住居事情のことが語られていた。ハンディを負っているからという理由で断られるケースが、100件に99件なのだそうだ。こういった、当人の自立と自尊を奪い去る心無い扱いは、これから真剣に深く論じられるべきものだと信じる。我関せず・関りあいになりたくないという気持ちが、どれほど人の心を傷つけるか。自分が相手の立場であったら…そう思い描いてみるだけで、状況は大きく変わってくると思うのだが。ワタコウさんもK・Tさんも、そういう視点を示し、考えるきっかけを与えてくれるこの日のイベントにふさわしいゲストだった。 K・Tさんの番が終わり、いよいよオレの出番。ゆずの“いこう”をテーマ・ソングに入場した。意外性を演出しようと、黒のごついサングラスを身に着けての登場。グラサンに口ひげ短髪の格闘家風のいでたちで(レスラーの蝶野氏をちょっとイメージした)、見た目にはとてもメンヘラには見えなかっただろう(笑)。筋肉はあまりないけど体格はいいしな、オレ。 周佐さんが主に聞き役で、DAIGOが突っ込みを入れる係。打ち合わせなどできないアドリブの部分で、ふたりはとても息があっている。流石に場数を多く踏んでいるだけのことはある。いじめられ・不登校・AC・鬱・不安神経症・NEETひきこもり経験者等々…DAIGOをして『メンタルのデパート』と呼ばしめるオレの経歴紹介からトークが始まった。話題は鬱と不安神経症に移ってゆき、周佐さんからコメントを求められた。今現在も不安神経症で通院しているオレは、実は今もほとんど毎日調子が悪い。でも、それを受け入れて、そういう自分であって何ができるのか?自らに問いかけながら行動している。できないときはできないし、できないことは無理してやることもない。ただ、身体は動くし頭も働く。行動の前提になる意思が病気によって萎えてしまわないのは、不本意な自分自身であっても受け入れるという気持ちが、深く強く心に根付いているからだろう。それらはすべて、メンタルなトラブルから時には逃げ回り、時には向きあうことによって身につけてきたものだ。だから、いいことはもちろん、自分の身に起きた様々な悪いことにも感謝する気持ちになれるのだ。 車椅子での来場者も多く参加していた 鬱の主な原因となった、母親の自殺未遂のことも話した。2週間で2度にわたるそれらの事件と、心労の絶えなかったその後の暮らしぶりと絶望感。事件の後半年して、鬱を発症したこと。当時は打ちのめされて、いいことなんて何も考えられなかったけど、過ぎ去った今ではそれらのことも、現在の自分をかたちづくっている大事な大事な要素だ。やりなおせないことなら、悔やんでもしようがない。悔やんで悔やんでのた打ち回った末に、出した答え。 夢っくす(うおぬま国際交流協会)での活動や、読み聞かせ、昨年出演した芝居のことなどについても訊かれ、答えた。芝居のことに関しては、『おそらく日本初の“元ひきこもり俳優”でしょう』とコメントし、会場の笑いを取ることができた。ひきこもりサポート活動に関しても触れ、今のオレの活動は“こわれ者”に大きく感化されているということも話した。ひきこもりなどの過去の不具合をおおっぴらに公表できるのは、DAIGOや周佐さんをはじめとしたこわれ者メンバーたちのパフォーマンスやエピソードに大きく心を動かされたおかげなのだ。 周佐さんの見事な司会ぶりと、DAIGOの要所要所にはさまれる遠慮の無い突っ込みによって助けられ、まったく緊張せずに話すことができた。ほんとうに、頼もしいふたりだった。この場で感謝の意を表したい。ありがとう。 >脳性まひブラザーズ単独ライブ・その2へ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/04/20 01:22:44 PM
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