夢みるきのこ

2018/07/27(金)12:19

夏のきのこ-5 ヤナギマツタケ・ヒダナシタケほか

ムックきのこクラブ(517)

​​​​​​ ​​さて、長岡京の旅でのきのこたちもいよいよ大詰めに近づいてきた。  今年は私たち人生の大半を異世界のいのちのいとなみに関心を持ち続けてきた生き物愛好家にとってあらゆる意味で振り出しにもどる年と感じている。生き物を愛する人たちというのは本当は誰よりも地球規模の目に見えない巨きな力の暴走に敏感でなければならないのだが、我が国のナチュラリストと呼ばれ有頂天になっている人たちにその意識はない。これは実に悲しむべきことである。私が「月のしずく」を思い立ったのは、目の黒いうちに生物ファンとグローバルな世界との間の隔壁を溶かしてつなげるひとつのモデルをつくるためである。気の遠くなる作業ではあっても短絡は許されない。右も左も分からぬ庶民の立場に立ちながら他者との対話を続け、それに少しずつ新しい思想的な織物に紡いでいかなければならない。その手がかりを残すことが「月のしずく」の唯一つの目的である。  近畿では初夏に見られ盛夏には影をひそめてしまうきのこが酷暑の時期に顔をのぞかせていた。ヤナギマツタケくんだ。    ​ヤナギマツタケ ​​Agrocybe cylindracea​​​  ポプラ、ヤナギ、トウカエデなど、街路樹に発生することでおなじみのきのこだが、クライマーズ・マッシュルームと僕は受け止めてきた。街路樹の根元に発生し、初年度は散歩中の犬が小便をかけることを配慮して採らずに置くと年を重ねるにつれて街路樹の上方へ登りながらきのこをつくり続けるのだ。3年目頃からは安心して食べられる位置にきのこをつくってくれる。そんな「せいくらべ」の出来るきのこちゃんなのだ。 中から大型の肉厚のきのこで全身淡黄土色~ベージュ色。とりわけ柄が充実して木の枝ほどに硬いのが特徴だ。写真にみられるように胞子が成熟するとココア色になりツバを染めるのがきわめて特徴的である。 きのこ鍋などにいれると鍋の底にチョコレート色の胞子が沈殿するほど大量に胞子を放出する。 きわめて美味なきのこで京大の今は亡き数学者・森毅が愛したきのことしても有名だ。 ​ 同行のきのこライターの堀博美さんがたのしみにしていたアリノタイマツ Multiclavula c​lara かと思いきやキソウメンタケでした。  このきのこと次のアンズタケは旧分類体系ではヒダナシタケのグループに収められていたものだ。アンズタケはそのグループの中では比較的端正なしわ状のヒダを持つ。​​ ​  キソウメンタケ​ ​Clavulinopsis belvola​​​ ​  地上生のClavaria の仲間で無性の1cmほどの中空の柄が認められる。肉は淡黄色。先端は通常尖らない。この写真は尖っているので別種と思うのは早計である。「きのこは人をあざむく」ことを熟知している私たちには通用しない。​       アンズタケ ​​Cantharellus cibarius​​​  初学の頃、ずいぶんとお気張りになってヒダつけてまんな。と学名のキバリウスを覚えたものだ。そしてヒダとともにときおりヒダとヒダをつなぐ連結脈を持つということで、それが見たさに探し求めたものである。アンズ様の香りをもつのでそれをかぐのがたのしみでもあった。 ​​アンズタケモドキ ​C. lateritus​とはヒダの明瞭、不明瞭で区別してきた。この写真のように卒塔婆小町の年齢に達しているアンズタケは、それでも老いてもなお凛とした風格を保っていて色香の香はすでに失せてはいるがまぎれもなくアンズタケだ。​​ しかし、近年この仲間は数種あることが報告されており、時に中毒もしているので要注意のきのこだ。  かってはタバコウロコタケ科に収められていたこのきのこ。切通しや山道の路肩にしばしばみとめられ、ちょっと意識すれば誰もが山旅の途次に出会っているはずのきのこだ。 ​  ニッケイタケ ​​Coltricia cinnamomea​​​ ​​ シナモンのようなきのこで全体革質の可憐なきのこ。しっかりした革紐のような柄をもつ。ビロード状の傘の表面の感触から僕はラッコの毛皮を想像してラッコタケと呼び習わしてきたので、観察会などで、正式和名が出てこずに困ったこともしばしばだ。人間どもに食用きのこという期待を抱かせることなく絹糸状の光沢を放つことも大好きな理由のひとつである。砂地や焼け跡などに発生するオツネンタケ ​C. perennis ​に酷似するが、近畿ではこの手のきのこはほぼ間違いなくラッコタケ、いやちがったニッケイタケだ。​

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