寓野余話

６日

谺

一、　朝、その日の日付・曜日・年号を頭に叩きこむ。 どこの暦でも良い。 一、　実際に聞こえる音や、目に映る物事等、五感に触れる全て集中し、 その一つ一つが自分を守る存在だと、思い込む事にする。 一、　「わたしはここにいる」と大きく繰り返す。 何語でも吉。そして口に出しても出さなくても良い。 この時脳裏に浮かぶ方々の事は、家族と呼んで差し支え無いと思います。 以上が私の回答です。 「あくまで私にとっての」と付加えるべきではございますが省きました。 しゃらくさい。 ご自身にとって、あなたを心底大切になさっている方々にとって、 最良の答えを導き出すお力が、真にご聡明なあなた様にはきっと御座いましょう。 文末ではございますが、遐くより御多幸お祈り申し上げます。 此方をご覧ぜられているかは存じよりませんが、 どうかどうか、お身内お心、慈しみくださいませ。

へにゃっ

20日

長い長い歳月を耐えぬいたご褒美に小さな神さまがせっせと用意してくれていた穏やかな､笑いの絶えない日々へのイメージと一日をどうにか生き延びた子が､今日の深手を癒やし､大好きな人たちとともにある束の間への､混じり気の無い無上の喜びとそれらを毒の霧で曇らせ､時を理不尽に加速させ、または鈍らせついには跡形もなく押し潰した何か｡十代なかばの目に焼き付けられた光景と､脳裏を巣喰う暴言が優し過ぎた感受性には､祓いきれない呪詛だった｡ 

14日

3日（風）

シーンとすごす一日 初心、大事

歳月

ひさしぶりに会った知り合いに｢変わってないね｣と言われ､人生で六番目くらいに嬉しかった｡ よく晴れた明るい日だった｡その子とは､中学校以来会うことは無かったので､あの頃の上澄みの光を貰った気がした｡ ただ､この子が知る時分の私なら､あまり良い気はしなかっただろう｡｢私をあの頃に引き戻すのか｣ととるに足りない不快の類として､冗談でくるんで終わっていたと思う｡ けれど､この時､その言葉を聞いた瞬間､真っ先に顕れた喜怒哀楽は､紛れもなく｢喜｣だった｡どんな意味でも心の底から嬉しかった｡ 当時の無様な自分を受け入れる事ができたのかはわからない｡が､ある歳月を共に有し､長い時間を経てそう言ってくれる人間がこの世に1人でも存在する事自体が奇跡なのだと実感していた｡更に､その樣な自分の変化への喜びが重なっていた｡　平成十九年の春から夏の､祝祭日の事であった｡当の友達には｢あはははは､どうゆう意味？｣と明るく返した｡

16日

夕刻、画材屋の割り引きセール 何も考えず店内をふらふらして、気づいたら手に取っていたのは、ほとんどが漫画のための道具だった。 と言うか、最近出かける度に原稿用紙を買ってる気がする。

梅枝

17日

　「袖もぎ樣」を連想　特に意味はない。

現

祖父の法要の為に家中を掃除する事になり、良い機会なので、捨てそびれていた自分の学校時代の遺物を片っ端から処分していたら､卒業式の日に渡された恋文が机の引き出しから出てきた｡あまり生身の人間に興味の無い時期だったので人違いかガキの悪戯だと思い、受け取るだけ受け取って相手の顔を見る間もなくさっさと帰った。確認したら宛名は人違いではなかった。そして、からかいの類でもなかったとも、少し後に送り主を知る人から聞いた。が、手紙に書いてあった名前と連絡先を別紙に控える事もなく、返事もしないうちに紛失してしまい､だんだんと時間の経つうちに当時の自分の気の毒な妄想だとわれから思うようになっていた。が､現実だった｡今はもう立派な大人になって居られるだろう送り主が、当時、何を血迷われたのかは分からないただ、あの頃の、そして今の自分が、彼の思い写した通りの人間であったかどうかと訊かれれば、答は確実に「否」だ何はともあれお会いする事は無いけれど､お元気にされているかどうか､ふとした時に気にかかる人がこの世に一人、確かに増えた｡

12日

ちょっと前の 花っ気の無い木だから少し驚いた

暑

存

 　【ツイッターの投稿では長すぎるのでこちらに保存します。】 舞台の観客には｢金を出さないなら口も出さない｣という不文律がありまして｡今はどうか知りませんが､演目に関して､直接何か言いたい事のある人が小屋に現れた時､裏の人たちはまず｢実際にお金を払って観に来られたお客様かどうか｣を確認するんです｡これがどう言う事かというと､経済的､道義的な理由は勿論ですが｢目の前の人が自分達の舞台世界を本当に見届けた人間なのかどうか｣を見ているのですね｡でなければお話にならない｡ 私にとって6000円は､手弁当と5000円前後の往復交通費である被災地へお手伝いに行き､帰りにどこかの無料ｲﾍﾞﾝﾄで遊べるお金です｡2バンド出演の対バン(前￥2500/当￥3000/別ドリンク代/再入場不可)で､前売りチケット一枚分の料金を両方のバンドさんに支払う事もできるでしょう｡ 誰も彼も明日どうなるかわからない｡ゆく川の水が絶えず､そして元の水では無いように､出し物に二度はありません｡同じ顔ぶれの再演であれ、｢次｣など、絶対に、無い｡見る側にしたって、一人一人がどれだけ恐ろしい来し方を生き延び、どんな思いを抱えて来たのか、そして「次」があるのか、とても分かったものではないし、言い切れる人間は何処にもいない。これは大物アーティストのコンサートから小箱のミニライブまで､或いは世界規模の巡回美術展から小さなギャラリーのグループ展まで共通しています｡だからこそ同じ時､同じ空間にいた人間には最大限の敬意を払うし話も聞く､外では色々言われている人物にも自然と感謝を伝えられる｡少なくともわたしが見てきた人たちはそうでした｡ 今回横須賀美術館は誰を呼んだのでしょうか｢お金で愛情は買えませんが､お金に愛情を込める事はできます（谷川俊太郎/第一生命）｣を心底地で行く世界の住人です､良くも悪くも｡彼､彼女たちが何故このジャンルに執着するのか､細かい事情は一人一人､時と場合によってまちまちですが年を重ねるにつれ､嫌でも耳目に触れる恐ろしい事象や許し難い出来事が濁りきった色であるなら､自分の心をそのような色だけで塗り潰させない為の､初歩的な防衛策であると同時に､決して正しい事ばかり､幸せばかりとは限らない日常を生き抜いていくため。そして何より好きで好きで仕方がないからと考えます｡ 子ども達が幼稚園や保育園､院内教室で必ずと言って良いほど習う物は何でしょうか？「歌とお絵かき」です｡これらはまだ言葉にできない意思を自分ではない相手に伝える手段であり社会に出た時に直面する､理不尽な現実と渡り合って行くための最初の訓練と見ても良いと思います。 片田舎育ちだから分かるのですが､街の風景は箱の中の出来事でいくらでも変わり得ます｡人が祭りに沿う生き物だからです｡横須賀美術館も造られた経緯がどうであれ､少なくとも会期中は多くの彼等彼女らと生きた場所の一つになっていくはずだった｡まつおかは自分の､あるいはLArc-en-Cielファンが出したお金の始末を着けようとした｡そして今､あなた方が最も必要とする物を､本当に信じられない程間一髪のタイミングで持っていった｡少なくとも私にはそう見えました｡ 私が書けるのはここまでです｡十代の一時期は｢とっとと滅びろ現代藝術（含ﾛｯｸ全般）｣と思っていました｡ラルクは「虹」しか持っていません｡（一部敬称略） 

雨月

四月だったか､どしゃ降りの中を､傘無し合羽無しで駆けずり回っていた｡大風が豪雨を撫でて周辺が白く煙るようだったのを覚えている｡髪も服もかばん靴も水浸しであんまりなので可笑しくて笑い出すと、今度はどこかで雷が落ちる、枝葉もコロコロ転がって来る徐々に雨脚が穏やかになって、雲に覆われた空が明るくなってきた時｢あれ､止んだ｣ではなく｢あれ､止むんだ｣とうっかり思ってしまった雨が上がるものだと素で忘れていたのだ。そして今週いつもならこのくらいの雨に傘なんか使わないのだが､念のため広げてみたら結構な雨音で､どこか甘えているような気もしたが､たまには良いのだろうと思った｡四月と六月､どこか張り詰めていた気を不意に緩められたよくある話

巳

春の蛇は優しいらしい 産卵期の秋に入るとどうしても気が立ってしまうとも種類にもよるが､この辺りではそうなのだどっちにしろ､よその生き物を怖がらせてはいけないという事でｵﾁが着いた｡これは昨日の帰り道､すれちがい際にあいさつした人に聞いた話 気持ちの鎮まる､のんびりとした夕方の記憶｡

留

　　いつとはなく、何にとも無し　　

6日

２４日

"鶴川の韋駄天夫人が小面等、居合い...もとい遺愛の品を少数精鋭のお供と引き連れとある三河の田舎町に武蔵の国からお出まし、２５日までご滞在との由主催の古橋氏は筋金入りの追っかけ"明恵上人""近江山河抄等"の貴重な初版本が、誰にでも触れられるように並べてあった。これらの開かれたページの文鎮代わりに、ポンと置かれていたのが甲府産の水晶の原石甲府について書かれた白洲さんの随筆を読まれた氏が、かの地の詳細を手紙で送ったところ、はたして白洲さんから丁寧なお礼のお返事が来たこれを"水晶の消息"と名付けられてはと他の方からの勧めもあり、以来数十年にわたって大事にされていると言う。印象に残ったのは円地文子さんの対談と言うのは古典夜話の序文とあとがきの事そこで引き合いに出された浮世風呂のけり子さんと鴨子さんの話は読んでて笑うに笑えなかった、けどやっぱり笑った。読んでいるようで読まれている年を取ればとるほど遠くから見透かされているようで背筋が凍るこわいのと可笑しいのとは同じ場所にある別物なのだろうちょうど面の表側と裏側を交互に見る事と、面を付けた視界を得る事が全く次元の違う話であるように

清潔な湯気

書名は臥せる著者はどう考えても猛獣だからだ。持ち前の嗅覚で此処に書かれた内容に気付かれでもしたらたまったものではない。文中では主人に懐く愛くるしい犬猫そのものだ。が、私を含めたそこらの有象無象がナメた真似をすれば噛み付く。当たり前だ。けれど地の文や相手とのやり取りで、著者が何とは無しに可愛らしく見えるのは、飼い主夫妻の仁徳と神業に因るものだ。彼らのような人たちの、徐々に地上から失われていくことを、彼女は作中で再三嘆く。   それにしても、行間から立ちのぼるホカホカな空気は何だろう。作中に登場するかあちゃんの卵焼きや、御御御つけの匂いに限りなく近いのかも知れない。長い長い白いバックの新作名画を観たような気分になった。

26日

めぢから

２４日

時節柄、無理だろうと思っていたブツが一つできたあとは別紙に仕上げて送るだけ。さぼりがてら異邦の鳥/佐藤亜紀を再読する。一気に気持ちが引き締まった。

２３日

素描二日目何とも言えない複雑な形。モチーフは布なので、風に吹かれたら振り出しに戻る。早くすませて窓を開けたい。

22日

金縛りのような現象 仕方が無いので描ける物を描いてる。

20日

植木鉢を避難させ簾をしまい、雨戸を閉めきり渋滞の無い道をシュミレートするそんな昼間の騒ぎをよそに台風の夜は、球体関節人形や前世紀初頭の装飾品大正昭和年間の絵写真と同時代の着物、それらを照らす淡い灯り其処に迷い込んだ十五の九月を思い出す

18日

70年代の煉瓦造り

てんしゃ

そう言えば、去年は納棺前の祖父をお通夜の準備の合間にスケッチしていた。取り乱していたのか、横描きの画面を縦にしたら全然似ていなくて焦った。この時の画帳は、次の頁に何を描いたら良いのかわからなくなったので、一年程凍結した。その間に（以前もだが）色々な事が起こった旧に復する日は来ないが、更に生きる事はできる。振り向こうが耳を貸そうが歩みは止めない。そのうちに何かから赦されて、懐かしい時間が、折りを見てよみがえる一瞬があるのかも知れない。これを正面から見据え、応じられるかどうかは、自分の姿勢次第なのだと痛感する。

模

　　　　　今浮かんだり拾った話を少々　　　　　　・実際にお茶席で煙草盆を使うことがあるのだろうかという事　　　　昔、時代劇かなにかで確かに見たのだが　　　　それがいついつの何処そこだったのか、肝心な事が思い出せない。　　　　　　　　・祖父母が海外で拾った石を返しに行く夫婦の話　　　　石の原産地と調べ、それが拾われただろう土地まで行く。　　　　帰りに立ち寄った国で、ふと、別の石を拾う　　　　持ち帰った石は成長した彼らの子孫が故郷に返すだろう。　　　　　　　友人夫婦の新居に遊びに行った日に、そんな風景が浮かんできた　　　　画廊のＤＭに書き留め、そのままほったらかしだったのを、今、見つけた。　　　　　　　　　　　　　　　　百舌鳥の早贄、一事が万事　　　　煙草盆もこの話も、実際に使えるのかは、まだわからない。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

夏六月晦日

わが窓にとどく夕映は村の十字路とそのほとりの小さい石の祠の上に一際かがやくそしてこのひとときを其処にむれる幼い者らと白いどくだみの花が明るいひかりの中にある首のとれたあの石像と殆ど同じ背丈の子らの群けふもかれらの或る者は地蔵の足許に野の花をならべ或る者は形ばかりに刻まれたその肩や手をつついたり擦ったりしてあそんでゐるのだめいめいの家族の目から放たれてあそこに行われる日日のかはいい祝祭そしてわたしもまた夕毎にやっと活計からのがれてこの窓辺に文字をつづるねがはくはこのわが行ひもあゝせめてあのやうな小さい祝祭であれよ仮令（たとひ）それが痛みからのものであってもまた悔いと実りのない憧れからのたつたひとりのものであったとしても伊東静雄 『夕映』

みちくさ

路傍の一枚昔はこの花に野苺ができると思い込んでいた｡似たような所で､藤は紫色であの形だから葡萄が､金木犀からは蜜柑がなるのだとそれぞれの花と実が全くの別物だとわかるまで､間抜けな分析を繰り返してきた｡さやえんどうに似たような藤の実や､本物の蜜柑の花木の形､公園の木苺は酸っぱい､等早い段階で実物を確かめて､自力で幾つもの間違いに気づく機会を得たのは幸運だった｡このように私の物心のつき初めた最初の年は､自分の思っていた事と実際の違いに悲しんだりと要はあの植物は食えるのか､食えないのか､どうしたら食えるのかと言った問題で明け暮れていたのである｡

雑記

　木がある所の地面にどこかしら青々と潤いがある常緑樹の秋雨上がりの匂いが五月　2月に､東京で入手した絵の具に描かれた翡翠の翼の羽の数が正確だった｡見る人にちゃんと観察してると伝わる角度とﾎﾟｰｽﾞだ｡ﾛｺﾞとﾌｫﾝﾄの事はわからない　写真のﾌﾟﾘﾝﾄするも用紙の裏表を間違える暫く経つと不思議な発色になった　前世紀初頭の幻想小説の装画と同じ滲みだ　ｽｰﾊﾟｰで買ったはいいが､そのままほったらかしてた里芋が芽を出した｡育ててみようと思う｡

頭痛が痛いような話

 　　・　登場人物全員の人生が始めから終わりまで全て頭の中に入っていること　　このような時代にこのような人生を送り、こうしたことがあったから、この時に、このような言葉が出てくるという風に 　　　一度、自分の作り出した登場人物の今際の感覚が自分に乗り移ったことがある。　話の中で名前を呼ばれないまま登場してすぐに退場する人間で、どん底の中で産まれ泥沼を這いずり回るように生き、最期までどん底だった　　それからしばらくの間、話を作るどころか、プロアマ問わず人の創作物や実話、各種媒体を見聞きすることさえ、どうしても出来なくなっていた。感情表現が子どもの頃のように極端になったが、油断をすると無地の紙のような無表情にもなった。　　実生活で、簡単な文章を少しずつ読むことから始まって、色々な人の表現に触れ、どうにか自分の草稿に向き合って、下絵に手を加えられるようになったころ、上下のような内容の文章を読んだ　　・　登場人物全員の人生が始めから終わりまで全て頭の中に入っていること　　このような時代にこのような人生を送り、こうしたことがあったから、この時に、このような言葉が出てくるという風に　　　　以前の自分なら基本中の基本だと受け止めていたが、難しい難題だ。　　　　　　ここまで書いていて「向いてない」「描くべきじゃない」ですむ話だと思う。これまで何度も繰り返し思ったが、そうして退こうとすると、「描いてほしい」と身内や見えないところから、それとなく言われているような出来事が多々あった。　　　半信半疑で通して逃げて来たが、今はその声に甘えたいと思う　　　　　

1日

　　ある隊列の夢を見た。　夢でわたしは真夜中の橋を渡っている。渡っている途中で‘宇治橋’と思った。なぜ、宇治橋だと思ったのか、そして伊勢と京都、どちらの宇治橋だったのかは、夢の中の事なのでわからない。　そんな時に向こう側から冒頭の彼等が厚手の軍装のきちりとした様子で、歩いてきた。　　彼等とは昔なじみ(という設定)なのだが、あちらの視線は前に向いたままだ。　彼らはこれから何処かへ向かうのか、それとも行って帰ってきたところなのか、夢の中の事なのでわからない。　わたしもどうして自分がそこにいたのかわからないただその列を見たとき、いつになく驚くと同時にとても嬉しかったので、出征の見送りでも帰朝の出迎えでもなく、本当に偶然行き会っただけなのだと思う。 　　　そうしてすれ違う間際、一人一人が、わたしが過去に造ったらしい作品の題名（銘）あるいは巻名(以前こちらに挙げた物語の題名ではないもの)を呟いていく。　逆流した涙が発火する感覚をおぼえたが、目がさめた時にはほとんど忘れてしまった。　　かろうじて最後の一人の言葉は覚えていて、慌ててメモをとり、その日の夜改めて確認した。   　　　　　　「金魚ちゃん内緒だよ」    　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・・・・・・・・・・・。  　余りにも意味不明だったので、一週間近く経つ今もふとした時に思い出しては頭を抱えている。     

今様

 傲りの春からつまづいて死に至る恥に転げ落ち 地獄の季節を這い上がり現に仕え奉る、最初の一つを積み立ててようやく己を二十歳と呼んだ

９日

過日、友人が近くで個展を開いたので見に行った。彼が描くシリーズに、海底のような仄暗い異世界があるのだが、今度のそれは少し変わっていた光苔だか螢のようなものが棲みついたのか、いつもの深淵めいた場所に、ぽつ、ぽつ、と何かが明るく灯っていたのだあの絵の列の前に立った時、真っ先に連想したものは２つ一番好きなバンドの、川の螢に命の流れをなぞらえた歌と、「十一月」と言う井上靖氏の詩だ地に潜む魂は鬼になり、天に昇る魂は星になる、言うような内容だった。天と地、星と鬼そのどちらでもなく、また、どちらでもあるような陰と陽の間魂魄の旅路のひとひらを、彼の作品を通して垣間見る事ができた、と思う。

備

箒を新しくした正しい掃き方も教えていただいたお正月の二日に掃きはじめると､元日に来た幸せはそのままに穢れだけを掃き出すそうだ｡だから出番はまだ少し先の事だ､今は床の間にお軸のように掛けてある｡

或る会話

｢‘彼等’は相変わらずですか？｣『彼等？』｢あなたにとっての｡｣『・・・・・・・ああ。』『軽蔑するくせにおびえてる』

街着

頂きものの写真うつっているのはﾊﾟﾘの夜道と､女の人たち。額装を引き受けてくれた友人によると､向こうでもこういう着こなしは､もうあまり見られないらしい。昔､お祭りでもない限り田畑以外へは出歩かず､野良着で通す人たちが月に1､2度､お宮さん或いはお寺さんに行ったり､街へ買い物に出たりするそういった特別な日にとっておきの着物を着ていく感覚に近いのだと｡撮影された方は､これが自分のﾀｰﾆﾝｸﾞﾎﾟｲﾝﾄになったと仰っていた｡二十年ほど前に撮影されたものだとも自分もその頃には生まれているから､同じような空の下で呼吸しているはずなのに実感が湧かないこの女性たちと似たようなﾎﾟｰｽﾞを取ればいいのだろうか？よし､今度どこかで出待ちをしてみよう､そうしよう

無関係者の仕事

1秒先さえ恐ろしく思った時期があった｡嶽本野ばら氏の小説でそのような人の事を読み､知っていたつもりだったが､まあとにかく｡生死の絡んだ問いかけに出くわす時がやってくる沈黙を含めたどのような形でも､本当に自分の心の力で答えるつもりなら無傷ではすまない｡昨日の手の届かない速度で､自分の時間を進めていく事が自分だけでなく周囲を､今だけでなく昔を守る事に繋がるとこの世のものではない言葉で、ゆっくりじっくり示されたようだった｡明日の事がわからないのは､今でも､誰でも変わらない｡

比喩

宵祭りの神輿や山車陰翳礼讃の金蒔絵真昼の蝋燭でも火芯に触れるとやはり熱いヴィジュアルの問題は本当に深い

家路

祖父を見送った｡元々無邪気な人ではあったが､最後は本当に子どもに還ったようだった｡お経の節目で鳴るﾘﾝの響きが､お寺の鐘を思い出させた｡この町にいれば毎朝6時に必ず聞く音だ､眠っていても同じことだろう｡まだ暗いうちに自転車に乗り､神社へお参りに行く姿や荷台に鋤や鍬を載せて畑に出る場面など､遠い朝の風景が瞬く間に瞼からこぼれては消えた｡和尚さんは季節柄､お彼岸の法話をされた出棺の時に含ませたお酒は『神の河』で不思議な気持ちがした｡まだ主の気配の残る部屋に入ると､どこにあったのか､上の妹が幼稚園時代に作った屑籠が寝台のすぐそばに置かれていた｡庭を見れば､夏の続きのような光の中を､まだ幼い親戚の子たちが玄関に向かって駆けて来る和いだはずの風が涼しい､秋が近いのだ｡

或る序文

ある人間が本当に並外れた品性の持ち主であるとわかるには 長い年月にわたり、その人のおこないを観察しうる幸運にめぐまれなければならない。 もしそのおこないにいかなる利己心もなく おこないに向かわせた考えが高潔無比であり 何の報いももとめなかったことが絶対確実で、 しかもそのおこないがこの世に眼にみえるしるしをのこしたならば、 そのときこそ間違いなく、忘れることのできない人物を目の前にしているのである。

おかえり

お互いずっと同じ敷地に存在していたのだから変な話だがおかえりなさいと言うべきなのだろういくら探しても見つからなかった時計が出てきた。中高校時代、いつもこの秒針と睨み合っていた定期テストやデッサンの時間がつい先刻の事のように甦った決して値の張る物ではないと思うが金色の文字盤と針は子どもの目には充分過ぎる程贅沢に映った。不注意で見失ってから、それまで積み立てていた夢のような物まで一緒に消えた気がした。この数年で腕時計を購入する機会がないわけではなかったけれど選ぶのは似たような色やデザインの物ばかりだったように思う。７、８年ぶりに見たそれはあちこちに傷がつき、ベルトも湿気でボロボロで記憶していたよりずっと大きなしっかりとした文字盤だった。修理に出せばまた動き出すと思うだけど失した時点から時間をやり直せると心の何処かで期待しているからかまだ少し迷っている。

巡

昨夜､ｳｫｰｷﾝｸﾞがてら妹達と公園に行ってきました急に芝生に寝っ転がって星を眺めたくなったのです晴れていたおかげで､宙の遠くのずっと上の方まで本当によく見えましたひしゃく星はやっぱり目立ちますね天文に疎いので宮沢賢治の星巡りの歌は本当に助かりますでもあれ冬歌だったかな？まあいいか｡この公園は敷地の所々がちょっとした薔薇園になっていて多種多様な品種が絢爛と咲きだすのもちょうど5月のこの時期昼よりも香りが強く感じられたのは､夜間で視覚が抑えられているからでしょうか天に星､地には花帰宅後､部屋の閉めきった雨戸が目に入りここから並んだ三日月と金星を見ていた前日の夕方を思い出しました｡あ！ﾗｵｳごっこするのを忘れてた！！！

海

どうしても海を見たくなったので行って来ました。海あり県万歳二時間くらい浜辺を観察前に来たのは小学校時代の遠足で、あれから２０年くらい経ちます海水が思ったより透明で、これで安心していいのかどうかわからないけどほっとしました。落ちてた帽子をかぶってたのですがやっぱり悪いので近くの建物の人に預けて撤収翌日、やっぱりそばかすが増えてて笑った

＠FACE POP ART GALLERY

友人がまったりゆったり2人展主催はmyu（詩と絵）とnory（写真）お気軽にどうぞ～｡

寝坊した

ちょっと勝てない。

一九七四年十一月ある雑誌の編集者と画家の会話｢あなたの絵をうちの雑誌に載せたい｡｣｢何部発行なの？｣｢……六万部ですが？｣｢じゃあ､夏までに一枚一枚違う絵をその数だけ描くよ（ ´∀｀）｣｢････････( ﾟДﾟ)｣｢失敗もあるだろうから八万枚（ ´∀｀）｡｣｢････････( ﾟДﾟ)｣一年後､いつものようにその雑誌は発行された｡季刊｢銀花｣ 一九七五年第二十四号 冬一冊一冊ごとに､異なる絵柄の肉筆画が中表紙を飾っていた｡

７日

ハルモニア・ムンディの本気 西暦五世紀～二十世紀の主な教会音楽集を一挙に収録した２９枚組 と、お店のポップに書いてあったが、実はまだちゃんと聴いていない。

抜粋

  1 出発 一九二七年十二月十九日､ﾊﾟﾘにて｡ 中略 ﾍﾞﾙﾘﾝのｵﾍﾟﾗには､いろいろな気分がまじっているにしても､なお音楽をききに来たという気分がはっきり出ていたと思う｡ 中略 ほんとうに音楽を聞きに来ているのであって､交際のためとか､お義理を果たしにとかとにかく芸術鑑賞のためでない別の必要で来ているのではなかった｡だから舞台も見物も実際によかったのだと思う｡ 客観的に比較すれば比べものにはならない｡ 背景の大道具は段違いに大仕掛けだし、役者の数は数倍である｡仕出しの兵隊とか町の人とかはうんとおおぜい出てくる｡またそういう下っ端の役者でもわりに粒がそろっている｡ 中略  しかしそういう点は結局枝葉のことだと思う｡   ｢ｲﾀﾘｱ古寺巡礼」 和辻哲郎著