Maryam's HP 日記

Maryam's HP 日記

1990年 詩作

1990年に記した詩


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心の扉



厚く 固く 重い扉
その向こう側は私だけの宇宙
まだ誰も入れたことのない私だけの世界
その中でのみ私は
歌い 想い そして眠る



問い




夢の中で私は過去に戻る 未来を見る
そして夢の中で過ごす時間が長くなると
人生のどこに居るのかわからなくなる
今日はいつだったか?
今から何をすべきなのか?
私は考え 思い出し 安心する

しかし私にとって現実とは一体何なのか?
という問いが私を悩ます









目の前の景色が
一瞬まったく動いていないような気がする

これは夢の中だったかしら?

疑問を頭に五感を蘇らせる
人々のざわめきが聞こえ
生の営みと時の流れを感じる

そして ああ これは現実なのだ

と認識する



無痛




突然訪れる感情の横溢(おういつ)
左目に涙 右目にも
涙が溢れるに至って初めて気付く

嗚呼 私は悲しかったのだ と

それほどに私の悲しみに対する感覚は
失われてしまっているのか?



ねばならない




私は生きねばならない
何のために?
少なくとも私のためなどではない
賞賛も哀れみも、蔑みすらも
受ける価値が私にはない

しかし私は生きなければならない

人生喜悲劇の登場人物に
また 無力な生活者に

ならなければ

ならなければ




動脈




血が見たい
生きた肉体から流れ出す 
鮮血がみたい

瞬く間に肉体を覆っていく
躍動感溢れる
真っ赤な血がみたい

生きているという証がみたいからだろうか
生きていると実感したいからだろうか

しかし私を傷つけそこから流れ出す血は
果たして赤いだろうか?




刹那




私のはりつめた精神をたとえるなら

のど笛にナイフの先を突きつけて何時間も佇んでいる

そして最初の一瞬に突き通していたら
今私は、紅の夥しい鮮血に包まれて
永遠の安らぎを手に入れていたのに・・・

と後悔する




永遠(とわ)なるものよ




形はなく 色もなく
時に強く 激しく 冷たく
時に温かく 優しく 微かに感じる
自由に、気ままに、好きなように
何処へもいってしまう

流れる 流れる
呆れるぐらい強引に突き進んで行く

美しく 妖しく 呼吸する
近づけないほど眩しく 眩しく

固く 暗く 重く 私を覆う

永遠の時の流れの中で

少しも威力を失わず

存在し続けるものよ



自我




私は決して私を超えられない
自己愛 私欲を捨て 我を取り除いても

私は私以上でも以下でもない

むしろ我を消滅している無意識と言われる中にこそ
私が顕著に存在するのか?

しかし私は私のみではない
貴方はその事に気づいているだろうか?
私が生を受けた時から
そしてこうしている今も

時と空間と 肉体を超えた私が存在することに

あなた自身気づいているのだろうか?

馬鹿なことを・・・
と笑ってもかまわない

けれど

奇異な目を私にむけないで

その二つの刃は私の心の臓を刺し貫く

気狂いか死か?とは先人も苦悩したこと

また一旦死に憧れたら

容易にその魅力から逃れられないのだから

だがこのように貴方に乞うても
結局私の甘えなのだろう
ましてや私を理解する者の存在を期待することなど




射的




そのように私を射る瞳で見ないで

なぜそのように強い視線を私に向けるのか

熱情と欲情を そして軽蔑すらをも含み さらけ出した視線を

上から下に突きつける鋭い視線は

私が必死に押し隠している邪悪な魂に対するものなのか?

罪を罪とも思わぬ瞳で

私の心を幾度となく突き刺しているのがわからないのか

私はゆっくりとあなたの視線を遮り 目を伏せる




真偽



私が最も愛する瞳で私を責めないで

私の本質を知る人よ

私の偽りの姿をみて

私を咎める眼差しを向けないで

真意を偽る私もまた私なのであるから










彼の人が持つ美しい黒目がちな瞳
日差しを受けてキラキラと光る
時におどけ 一箇所に留まることをしらない瞳

でも私をひきつけるのは私の裡に深く潜む
精神の糸に刃を入れようとする
彼の人の瞳から放たれる不思議な光の筋



同化




凍ったように動かないままうつむいている
悲しげな憂いに包まれた君の瞳をのぞく

こけた頬に手をさしのべ、
その瞳に、唇に、愛を注ぎたい
が 私は何もできないでいる
一言の優しい言葉すらかけられない

せめて 君のそばにいて
君の憂いを私の全身で感じていよう



侵入者




誰も入ることのできないはずの私の世界のはてから
ドタドタと音をたててやってくるのは
私の心の扉の前でノックの代わりに手を叩いて私を呼ぶ人は

そこにあったのは無邪気な貴方の笑顔

なぜ笑顔を向けて横をむくのか?
なぜ私を呼び寄せてあなたは横を向くのか?

私はまた想い悩む
夢の中で
夢の中で








私のものではない二つの瞳を見つめながら思う
私の視線に気づく?気づかない?
気づいても視線を逸らす者
そして私の視線に気づき しばらく見つめ返す者も
まるで二匹の野良犬が路上で出くわした時のように
どこからともなく聞こえてくる声が

”おまえもか” とつぶやく



彼女は幻




あれはいつの日だったろうか?
彼女が愛を失った日
彼女が自分の心と引き換えに
再び生命を得た日
彼女は誰をも愛し
誰をも愛さない
自分すらも愛さない

彼女の瞳に映る現実は
映画のフィルムにすぎない
無感動の観客 傍観者

彼女には真の喜びも悲しみもない

肉体は存在する
だが彼女は幻
誰もそれに気がつかない

彼女の優しさは愛ではなく
自己を否定して生きるための手段

あなたの瞳に映る彼女の姿は
虚像にすぎない

彼女は幻

現実に使わされた夢魔の使い




纏う




私は化粧をして生きている
眉を書き アイシャドウをつけ 紅をさし
衣服を纏って生きている

私は纏わなければ生きていけない
自分が醜いことを誰よりも自覚しているから

私の素顔を見た者は
誰もが逃げ出すことを知っているから

年を経るごとに私の化粧は
濃くなっていくのだろうか
薄くなっていくのだろうか

私の素顔の残影に目を向けても
顔を背けない人が現れることを信じているのだろうか?

私は今日も化粧をして生きている




羨望




遊女よ嘆くな
遊女よ その身を嘆くな

夫の放蕩癖故 息子を奉公に出し
その身を遊郭に投じた君なれど

ありたけの嘘と酒興に日々送れども

君ゆえに滅ぶ人ありとも

情けを捨て 涙みせること叶わずとも

遊女よ嘆くな

つまらぬか くだらぬか 一生が情けなく心細いか?

浮世の絆しに忍び 涕に袖ぬらす君よ
君は幸せではなかったか?

君を恋し 恋し狂った男に惑うひまなく
全てを奪われ連れて行かれ

私は君をとても羨ましく思うのだが、、、、



私の存在




ある善良な年相応の悩みを胸に秘めた青年が尋ねた

お前はどこに存在するのか?

問われた者は答えた

私は水のように

掬えばそのうちにあるし

少しでも隙間があれば滴れ落ちます



どちらが先?




貴方の若さとエネルギーは尽きることがないのだろうか
貴方の漆黒の髪はその色合いを失せることはないのだろうか??

広く厚い胸を反らし 力強く踏みしめる両脚で
貴方は振り返りもせず足早に歩み続ける

疲れを知らぬその心身に
時の流れの先にある醜を感じさせるものはない

貴方は思い悩み 瞳に映るはずの先が涙に滲むこともあるだろう
何ゆえに貴方が立ち止まるか私は知らない

唯 貴方がそれでも振り返らず
ふたたび歩き出すことはわかっている
いつまで いつまで 貴方は歩き続けるのだろうか?

この無意味な問いを胸に繰り返し
貴方の影に身を覆われて存在する私

貴方が振り返るのが先か?、

それとも私の疲労が先立ち

貴方との距離が広がっていくのが先か?




弛緩




湧き上がるまま 力のまま 本能のまま 欲するまま
天に向かってまっすぐ 伸びては消え 伸びては消え、、、

漆黒の髪はひるがえり のたうち舞う

研ぎ澄まされた鋭い瞳は私に向けられ
その瞳はつぶやいた

俺を含めた世界はお前の瞳にどう映るのか?

そしてまたすぐに こうつぶやく

そんなことは俺に関係ない

私はその視線をそのまま すぐさま
振り返ろうとする君の瞳へ反射させる

君は慌てて 跪くかのように私の瞳を覗き込む

その時 その時だ
私が素直に君の瞳を受け入れるのは

すっかり酔いが醒めた

君の唇はため息をつくように緩む



臆病者の憂鬱




臆病者の憂鬱

待つという行為の中

時と闘う

大いなる悲観的思考の中

僅かな期待が潜む

打ち消しても次の瞬間

浮かび上がる


事を為す前に

事の終わりを予測する

事の無意味なるを予測する

それでも、行為に導くものがあれば


何なのか?


臆病者は ただ待つ

そして 考える




忘却




今はもう 恋が忘却に姿を変えた
今はもう 忘れ去られる者として

貴方が知る私をも 私の裡から消し去ろう

偶然 再び貴方と差し向かいに顔を合わせることがあっても
決して貴方に私だとわからないように

私は忘れ去られる者
忘却の彼方に存在する者

では なぜ私は存在するのか

なぜ?

忘却がこの世で高貴で美しい精神作用であると信じているから?




しののめ




夜通し悩み続けた私の心は
傷つき果てた私の心は

右手の窓からのぞく
ようやく薄明かりに包まれようとする
美しい空に魅了された

空は生まれたばかりのように
まだ弱々しい日の光を青に変え
私の前に現れた

空よ

私は誰にも知られたくない赤裸々な私の心を
君にこそ委ねたいと思う

その穢れない青で
私の身も心も染めてくれないか

その広大な胸の中に
私を抱きしめてくれないか

でも私が身をのりだし
君の胸に飛び込んでも

精一杯伸ばした私の腕は
君の長く垂れた着物の裾にすら届くはずもなく

私の肉体は君とは逆の方向へ堕ちていくだろう


それでも肉体を離れた

命をかけて君に想いを寄せた

私の心だけは

迎えいれてくれないか









思い侘び 思い侘び

恋焦がれ 恋焦がれ

悲しみのはてに 何を思う

待ちわび 待ちわび

寂しさのはてに尚 君を想う

身も心も凍る夜に

星は凛と光を放ち


私を冷ややかにみつめる


張りつめた闇と

心がふれあい音を立てる


耳を澄ませよ 瞳を閉じよ


嘆きが 叫びが聞こえるか


求めて 求めてやまぬ心を映せよ 映せ



星よ瞳を閉じるな


我が心をとくと見つめ


遠き彼の人に見つめ返せ 見つめ返せ




花 (勿忘草)




君を慕う私の心を 君はどう思う?

君の広い胸の片隅に

ほんの僅かでいい 私の居場所を許してほしい


そこで私は小さな花になろう


そして君の瞳からいずる 涙を注いでおくれ

そして一度でいいから太陽の光にも似た

ぬくもりを与えておくれ




平行線




永遠の愛は存在するのか そんな思いがよぎる

漠然とした予感 どこまでも続く平行線


闇よりも尚 暗い君の後姿 振り向いた君の泣き顔

愛に餓えた瞳 眼差し 君の瞳 私の瞳


生という厚いガラスが私と貴方を遮る


瞳と瞳 まるで鏡に映したよう

だからどうぞ目をそらさないで

どうぞお願いです

他には何も残されていないのです



凛 (C)Photo by swallowtail.jpg








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