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2018.08.19
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​​かつて関東地方で開かれた「本居宣長展」を見に行った。この江戸時代のウルトラナショナリストに興味があった。展示入口に宣長が所有していた世界地図があった。一般人の思い込みを打ち砕く展示、実は宣長は世界にも眼を開いていた、と主催者は主張したいのだろう。地図をよく見ると、ハワイの位置が日本海の真ん中に置かれている。宣長はこの地図に疑いを持たなかった。江戸時代の世界認識の限界で仕方ないことなのか。
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​イギリスのグリーニッジ天文台に伊能忠敬の日本地図が展示されている。この地図は巨大なものであり、縦横20メートル以上あるだろうか。日本から贈られたものか、盗んできたものか、不明である。世界の観光客はイギリスのグリニッジに来たのに、足で作ったという「日本」地図に出会うことになる。ここに来た日本人は遅ればせながら、伊能忠敬の偉大さを、イギリスで再認識することになる。
​鶴見大学図書館1階エントランスで「つながる世界ー古地図の中の日本」が開かれていた(8月25日まで)。図書館が所蔵する西洋および日本の古地図から「日本の姿」を描いた15点が展示されていた。西洋で作られた地図は商人や宣教師からの情報と想像で描かれたもので本来の姿とは大分違うものになっている。現代のように衛星から写真を撮るという技術がない時代に地図を作るというのは大変なことだ。伊能忠敬は歩いて日本地図を作った。世界地図となったら、どう作るのだろう。
​​世界は「日本」をどう認識していたか。日本が単独で描かれた図としては、西洋で最初のものとして、ボルドーネの「日本図」がある。ベネディッド・ボルドーネはヴェニスの地図製作者。1528年刊行された「世界島輿誌」に掲載された。画面右側に大きな島、左下に2つの島が描かれる。右側が本州、左側が九州と四国だろう。日本は3つの島で構成されている。本州には3つの城のようなものが置かれている。城という「軍事施設」に世界は注目していた。
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ミュンスターの世界図は2種類展示されている。1544年の「世界図」と、1552年の「新世界図」。スイス・バーゼル生まれのドイツ人地理学者セバスチャン・ミュンスターが刊行した地図帳「世界誌」に掲載される。日本はアメリカ大陸の近くに南北に細長い島として描かれる。1500年代から、日本はアメリカに媚びへつらっていると見られていた。

​オルテリウスの「韃靼(だったん)図」。フランドル人の地図製作者アブラハム・オルテリウス作成のもの。「地球の舞台」(1570年)に掲載。黒海・カスピ海以東、韃靼(タルタリア)を中心に中央アジア、中国、北東アジア、北米大陸の一部までを描く。日本は本州、四国、九州が描かれるが形は不正確。鹿児島は九州から離れ、島になっている。島津藩は日本から独立していた。
行其図。灌漑・架橋・貧民救済等の社会事業を行い、東大寺の大仏造営の勧進を行った奈良時代の高僧行其(ぎょうぎ)が作成したと言い伝えられる日本図。江戸時代初期に至るまでの唯一の日本図。仁和寺本と金沢文庫本が知られているが、今年6月に14世紀成立の「日本扶桑国の図」が完全な形で発見され話題になった。鶴見大学のものは「拾芥抄」所収のもの。「拾芥抄」は南北朝期の公家桐院公賢による百科事典。左上の注に「大日本国図、行其菩薩の図する所なり。此の土の形は独鈷の頭の如し。よって仏法滋盛なり。其の形、宝の形。故に金・銀・銅・鉄等の珍宝有りて、五穀豊稔なり」と書かれている。「独鈷」は密教の道具。日本の形は仏法盛んになるというご託宣。唯我独尊極まれり。
テイセラ「日本図」。ポルトガルのイエズス会士でスペイン王室の地図製作者、ルイス・テイセラによる日本図。行其図を参考にしたらしく、形が整っている。地図の裏側に「日本」についての詳細な情報を付け加えてある。1595年、銅版。
流宣(りゅうせん)日本図。貞享5(1687)刊。貞享・元禄頃に活躍した浮世絵師石川流宣(とものぶ)による日本図。地図としての正確さより、絵画的に描かれている。女護国といった伝説の島も描かれる。室内装飾用か。お土産にちょうどよいと思ったか、出島でオランダ商館の医師として日本に滞在したドイツ人、ケンペルが持ち帰ったリストの中に含まれていた。
シャトラン「日本帝国図」、1719年、アムステルダム
アンリ・アブラハウ・シャトランによる日本図。流宣図が海外に流れ、模刻版が出るが、この地図はその模刻版をさらに写したもの。国名は漢字で表記され、ローマ字が添えられている。長崎の拡大図が入っている。
ザッタ「世界図」、1757-1783.ヴェニスの地図製作者、アントニオ・ザッタの世界図。世界周航を遂げたジェームス・クックとルイ・アントワーヌ・ド・ブーガンヴィルの航路が示される、科学的航海の時代の世界図。
​​長久保赤水「地球万国山海輿地全図説」天保15(1844)刊
長久保赤水は江戸時代中期の漢学者、地理学者。享保5年、原田貞清(伝未詳)の「輿地図」が原図で、千島列島が加えられている。明治大学図書館芦田文庫に「赤水」の書入れのある輿地図が収蔵されているという。昔もこういう学者がいたんですな。他者制作のものに自分の名前を書き入れてしまう人。情報が広く行き交う時代になると、すぐバレてしまう。
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何点か省略した。昔の日本地図は伊能図だけではない、という発見。日本は世界から見つめられていたという事実。図書館の奥深くに、こんな資料が眠っていた驚き。こういうのは常設展示にしてもらいたい。





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最終更新日  2018.08.19 13:34:21
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