森功「黒い看護婦 -福岡四人組保険金連続殺人-」
「福岡四人組」とあるが、事件は久留米で起こり、主犯の“吉田様”を含む三人は柳川出身で、残り一人は大川出身。すなわち、舞台は県南であり、福岡市や北九州市といった大都市を抱える県北ではない。殊に、主犯の吉田純子が柳川の中流以下の家庭で生まれ育ったことは、大きな意味を持っている。丹波地方の事件が京都の事件と報道されるようなものだと言えば、関西の人ならわかってくれるだろうか。口八丁手八丁で、身近な人物を次々と騙して金を巻き上げる点では、木嶋佳苗事件、他人の家族を丸抱えでコントロールして、家族に家族を殺させようとする点では、小倉や尼崎の監禁事件、身内をターゲットにした保険金殺人という点では、和歌山毒入りカレー事件を思い起こさせる。しかし、犯罪史上に残るこれらの事件と比べてもなお、残忍さでこの事件が一頭抜きん出ているのは、殺人に医療の専門知識を駆使している点だろうか。生命を救うのが仕事のはずの看護師に殺されたのでは、まさに救いがない。さらに恐ろしいのは、主犯の吉田純子が、四人組のうちの一人を約十年もの間、同性愛の性奴隷としていたことだ。現代の猟奇犯罪は、ある意味女性でもっている。