カテゴリ:仕事の話
「この4カ月、仕事のことを懇切丁寧に教えていただきありがとうございます。いつも身近にいるように感じました」。朝一番に連絡ノートを見ると、遅番の同僚がそんなことを書いていた。いつもよりも丁寧な字。しかもこれほどかしこまった文章は初めて目にした。今日は第1現場での最終勤務。だから彼の文章を見るのもこれが最後だ。
先日来月から勤務する新しい職場を見学に行き、ユーザーへの対応に憤りを感じたらしく、自分がそこでの勤務に慣れたら、徐々に改善したいとも記されていた。いかにも正義感の強い彼らしい内容。例え躓いても自分の信念に基づいて行動したら良いと思う。たった4ヶ月間だけの付き合いだったが、心から信頼出来る仲間だった。 お掃除を担当しているSさんが私にクッキーを届けてくれた。先月私が無事に退院した際はハグする約束になっていたのだが、それを守れなかった代わりらしい。73歳の可愛い老婆の気持ちが嬉しい。いつもどおり屋上から巡回。ここから雪を戴いた山々を眺められるのも今日が最後だ。 各階を巡回しながら感慨が過り、一瞬ウルウル。何の経験もないままスタートし、たった1人で良く頑張った6年間だった。8階のリフレッシュコーナーでタバコを吸ってる職員の方に挨拶。どこのテナントの人だかも知らないのだが、いつも静かに紫煙をくゆらせていた彼。一瞬驚いたようだが、丁寧に挨拶を返してくれた。 事務室に戻ってノートに記す。「6年間大変お世話になりました。お世話いただいた全ての人に感謝しています。本当にありがとうございます」。だが今日の午後に我が社の物品は全て持ち運ばれ、この文章を誰かが読む保証はない。この6年間左腰にベルトで固定していたキーカードを、係長を通じて返却。いつもあったものが無くなるのは、不思議な感触だ。 玄関での立哨時にも数人の方に今日が最後の勤務であることを告げた。だが警備員の爺さんがある日突然別な人に変わっても、誰も不思議には思わないだろう。来週から4月。重役を送り迎えしていた個人タクシーの運転手さん達は、その仕事が無くなるそうだ。ヤク○トの小母ちゃんに別れの挨拶。 勤務を終え、管理室の責任者とお掃除の小母ちゃん達に挨拶してビルを出る。人生とは多くの出会いと別れを繰り返すもの。まさに「万物は流転する」だ。今日は着替えないまま第2現場へ出向き、仲間達に最初で最後の警備服姿を見せる。この現場が来週からの新職場。そして週2回は早出して他のビルでの清掃を担当する。 帰宅後、近所のクリーニング店に警備服一式を持って行った。冬の制服1着。夏の制服4着。ズボン2本。制帽2個。ネクタイ1本。防寒着1着。これらをクリーニングする。そしてベルト1本、警笛1個と合わせて会社に返却する。これは犯罪防止のためなので、失くしたら大変だ。こうして6年間の警備員生活は無事終了した。今夜はプロ野球の開幕戦でも観て、のんびりするか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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