テーマ:マラソンに挑戦(5666)
カテゴリ:ウルトラマラソン(未)完走記
≪ 走友達の力走 ≫
上下スーツ姿のランナーが行く。もちろんネクタイも締めている。金棒を持った赤鬼も、女学生姿の男もいる。きっと仮装するにはよほど完走の自信があるのだろう。運動公園を抜けた4km過ぎ、H夫人を抜いた。苦しそうな表情の彼女は、帯状疱疹が酷いらしい。埼玉の「奥武蔵」(距離75km、高低差900m)や富山の「立山登山マラニック」(距離65km、高低差3003m)でも、一生懸命走る姿を見たが、彼女も私同様岐路に差し掛かっているのだと思う。つまり年齢の壁だ。 道は西行と北上を繰り返しながら、少しずつ北へ向かう。周囲は静かな農村で、応援する人はほとんどいない。明るく澄んだ朝の空に、吹く風が心地良い。Hさんのご主人が抜いて行った。結構なスピードだが、きっと奥様の体調を心配しているはず。若い頃は円谷幸吉選手と共に走ったエリートランナーの彼が、今は老化との戦いに苦戦している。 O川さんが行った。彼は「川の道」520kmを完走した勇者。練習のため盛岡から仙台まで、一睡もしないで200kmを走り通した男だ。「祝賀会に出られないでゴメンね」と言うと、「良いんですよ。それより復活ですね」と彼。「こんな俺が復活?」と思ったが、それが彼の優しさ。口には出さず、有難く心で受け止めた。今日も一番後ろからスタートしたのだろうが、あっと言う間に彼の姿は見えなくなった。 Kさんが来た。彼もO川さんと一緒に今回「川の道」520kmを走り切った男。「仙台国際ハーフでは体が曲がっていたね」と言うと、「今でも曲がっているんですよ」と彼。直前には東京の「柴又100km」も完走している。大した精神力だ。Y田さんが抜いて行った。「73km地点で銀河ビールを飲みましょう」と彼。お金は持っているが、私はそこまで到達出来るかどうか。 大震災による原発事故で故郷へ帰れなくなった彼が、仙台近郊に家を買ったと聞いた。9月には「猪苗代湖一周」(66km)に出場する由。私も出る予定なので楽しみだ。山並み、農家、牛舎、そして広大な田圃。そんな農村風景に心が洗われる。何の目印もない田舎道の所々に、ピンクのタニウツギと真っ白なヤブテマリの花。 ≪ ヤブテマリ ≫ 緑色の帽子とTシャツ姿のS木さんが来た。短い距離しか走っておらず、スピードが出ないと嘆く彼。4月の「かすみがうらマラソン」(フル)では盲人ランナーの伴走を務め、5時間台で完走したと聞いた。「奥さんに公園で応援してもらったよ」とお礼を言い暫く並走。「少し前へ行くよ」と私。病後の私が先に出たことで、彼もスピードを上げる決心がついたようだ。彼は高校の後輩。「何言ってるの、俺より3つも若いくせに」。きっと私の言葉に発奮したのだと思う。 「相当走り込んでますね」。そう言いながら抜いて行ったのはM井さん。Dさんと一緒に前を走っていた彼が、何故こんな所に?と訝ったが、きっとトイレ休憩だったのだろう。「これは草取りのせい」。私がそう答えたのは、露出した肌が焼けているのを見て彼が判断したから。彼も不調な時期があったようだが、今は復調して猛練習を重ねている。 もう後に走友は誰もいないはず。追い抜いて行ったY田さんの話だと、H夫人はその後も体調が悪く、途中で吐いていた由。私と同様、長らくレースから遠ざかっていたため、体力が戻ってないのだ。だが、レースでは誰も助けることは出来ない。苦しくても前進するか、それとも走るのを止めるかを決めるのは自分自身。道端のマーガレットが苦しむランナー達を眺めている。そして頭上には容赦なく照りつける太陽。 ≪ 一面のマーガレット ≫ 11km辺りで左膝と右脚に痛み。練習では13km付近で出る痛みが、今日は少し早めに出た。そして13km過ぎには右股関節に痛み発生。これはピンチ。きっと痛む足を庇ったため、別の個所が痛み出したのだろう。道路の左側ばかり走ると、常に低い右足に負担がかかるのだ。14.7kmの第3AS(エイドステーション)で給水し、バナナを食べ、痛む個所に水をかける。 こんな状態では30km持つかどうか。今日は厳しい戦いになると覚悟。痛みをこらえながら走っていると、18km過ぎに美しいゴルフ場が出現。2年ぶりの懐かしい風景だ。そこから道は下り、20km付近で堂々たる川を渡る。北上川の支流の和賀川だ。橋の上で立ち止り、写真撮影。この川の源流は銀河高原の和賀岳。果たして今日は、あの美しい山容を見られるだろうか。<続く> ≪ 和賀川の橋の上で ≫ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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