2014/03/27(木)09:25
わたしと沖縄と詩 番外編ー1
H氏の御霊に
窓をたたくのは誰ですか
風も出てきました
外は寒いですか
センダードの空の上
あなたの星がひときわ光り
そして静かに消えました
つい今し方
あなたの訃報を聞いたばかりです
いつもは陽気な富雄君の声が
電話の向こうでくぐもっていました
そうでしたか
やっぱりそうだったのですか
あなたが喉の手術をしたと聴いたときから
わたしはこの日がくることを
秘かに怖れていました
父の死も見ました
姉の死も見ました
祖父や祖母や伯父や伯母や
義母の死にも遭いました
そしていま
血がつながっているわけではない
あなたの死と向かいあっています
夕方 ひとしきり言い争った長男は
布団をかぶって寝てしまいました
つい先程まで風の音を怖がっていた妻も
傍らで静かな寝息を立てています
これからどこへ行きますか
西方浄土は遠いですか
風が窓をたたきます
そこで泣いているのは誰ですか
1992.5.8 未刊詩集『日常』から
H氏の訃報を聞いたのは沖縄から転勤した年の春、四国の松山でだった。電話で知らせてくれた富雄君は会計課の職員で、野球部の後輩だった。いつもは明るい彼の声が、とても沈んでいた。私はH氏の奥様に弔電を打ち、お悔やみを富雄君に立て替えてもらった。
H氏の自宅を訪ね、霊前に線香を手向けたのは、私が長い転勤暮らしを終えて故郷の仙台に帰ってから。この詩もワープロから打ち出して、氏の霊前に捧げた。氏が亡くなってから11年後のことだった。奥様はご健在だったが、脚が悪いため坂を登るのが辛いと話されていた。
詩の中の「センダード」は、宮沢賢治の小説『銀河鉄道の夜』に出て来る地名で仙台のこと。因みに盛岡は「モリオール」だったと思う。多感な青年時代にH氏と出会えたことは、一生の宝だと思っている。この詩は沖縄で書いたものではないが、氏を偲び掲載させていただいた。合掌