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マックス爺のエッセイ風日記

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2017.06.06
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カテゴリ:芸術論
<偶然の産物>

  

 指定のシアターの入り口でこんなパンフレットをもらった。これから観る映画のPR用のものらしい。こんなのは初めて。でも内容を読もうとしても既に室内は薄暗い。それに映画は全く何の説明もなく始まった。時代設定も場所も分からない。こんなのも初めての経験。ただただ静謐な場面が目の前を通り過ぎ、自然の音がどこからともなく聞こえて来る。

   
               

 この映画を観ようとしたのも偶然から。たまたま他の映画を捜していて目についた。作品の解説を読んだら面白そう。だが封切からかなり日にちが経って、上映は朝一での1回だけ。それで朝から用事がある日は行けずにいた。

 大体にしてタイトルが変。「たたら」は製鉄に関する用語で、これがなぜ侍と結び付くのかが分からない。それも結果的に私の興味を引いた。この映画に関しては何の予備知識もない。ただ好きな「歴史」と、私が勝手に結び付けていただけの話。


  

 「たたら」とは鉄を作る際の道具の一つで、炉を高温に保つために強い風を送る装置。これを複数人の男が交互に踏んで風を起こすのだ。「たたらを踏む」はここから来た言葉。鉄の原料となる砂鉄は貴重品で、しかも製鉄技法は秘伝中の秘伝。マニュアルのない時代は全てが「勘」に頼っていて、しかも「一子相伝」が原則だった。こうして生み出された玉鋼(たまはがね)が日本刀の良質な材料になる。


               

 出雲の国(現在の島根県)斐伊川の上流では古代より良質の砂鉄が採れた。ここはかつて素戔嗚尊(スサノオノミコト)が八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した場所でもあった。この神話は8つの頭を持つ大蛇を、山中を曲がりくねりながら流れる斐伊川に喩えたとも言われる。そして大蛇の腹の中から出て来た雨の群雲の剣こそが製鉄の象徴であり、後に天皇家の神宝ともなったと私は理解している。

 豊かな出雲は古代より「出雲族」が治めていた。出雲氏は古代豪族の一つで畿内にもいたのだが、大和を支配した天皇家により出雲へ退却した。だが天皇家と吉備族の連合軍によって敗れた。これが形を変えて「国譲り神話」となったのだろう。出雲族は九州の宗像氏とも誼を通じており、共に海人族で日本海の水運を牛耳った。荒神山遺跡から大量に出土した銅剣も出雲族の遠い先祖が遺したと私は考えている。


   

 時は戦国時代の末期。このたたら村を狙う武将も現れた。村を護ろうとして侍になろうとする若者もいた。たたら吹きを司る村下むらげ)の息子である伍助もその一人だが、良質な玉鋼を独占しようとする商人の策謀にはまる。彼らはこの危機からどうやって逃れ、村を護るのかが見ものだ。


  

 映像は実に美しい。全てフィルムを使用しての撮影だったとか。神に捧げる神楽の舞も本物。歌舞伎の祖である出雲阿国を生んだ土地柄だけあって、舞も一流。またロケの場所も選りすぐったお陰で、神秘的でかつ自然豊かな日本の姿を映像化出来、これが第40回モントリオール世界映画祭最優秀芸術賞受賞の決め手になったのだろう。

 監督の錦織良成は出雲市の出身。この作品は彼自身が原作を書き、脚本も書いた。それだけこの映画にかける想いが強かったのだろう。だが時代考証には疑問が残る。製鉄技術者自身が刀鍛冶になることはまずないし、それもいきなり鉄砲鍛冶になるなどは無茶。当時極秘の「設計図」の入手など至難の業だと思うのだが。


             

 さて伍助が都に上る際に乗った船は、青森県で復元された北前船。絵や写真では観たことがあったし、佐渡島では博物館で本物も観た。だが実際に海を走る姿を観たのは今回が初めてだった。日本海を北から南へと自由に航行し、蝦夷地(北海道)などの産物を大坂まで運び流通経済を盛んにした北前船。その走る姿を観られたのが嬉しい。CGに比べたら「本物の良さ」が全く違う。


  

 背後に流れていた音楽も良かった。初めて聞く名前の歌手だが、オーケストラの指揮は久石譲。今回観た3本の映画全てが、彼の音楽とは奇遇としか言えない。

 若手の演技を際立たせたベテラン俳優の名を以下に挙げておこう。津川雅彦、奈良岡朋子、笹野高史、山本圭、中村嘉葎雄、高橋長英、宮崎美子、でんでん。一方若手は、青柳翔、小林直己、AKIRAなど。なお薬物所持の疑いで逮捕された橋爪遼の名前はクレジットから消されたようだ。これも何かの因縁か。





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Last updated  2017.06.06 04:30:03
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