ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』
サイエンスフィクションは【空想科学小説】と日本語訳される。 この本はそうした意味で、正真正銘のSF小説である。 近未来の月面で発見された人間の遺体。調査してみると、それは5万年昔の死体だった。 【ルナリアン】と名づけられたその人間は異星人なのか、はたまた原生人類と何らかの関わりがあるのか。原子物理学者のヴィクター・ハントがその謎にいどむ。 この小説のすごいところは、物語のすべてがこの謎を解くための研究の過程にあてられているということ。戦争もアクションも恋愛もない。 死体を調査し、月面の岩石を分析し、5万年前の太陽系や地球の表面の状態を考察する。 学者どうしの対立や学問分野の壁が研究を滞らせ、ハントはそれを柔軟な頭脳で解決していく。 核心に近づくにつれ、読者はハントだけでなく、知らず5万年まえのルナリアンにも感情移入しているという、いわば二重の構成になっている。 あくまでフィクションであり空想だから本当ではないのだが、人類の歴史の壮大な秘密にふれたような穏やかで心地よい読後感。 若い人には少々難しいかもしれないが、一読をお勧めしたい。 ジェイムズ・P・ホーガン/池央耿 訳 『星を継ぐもの』 創元SF文庫