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カテゴリ:環境問題
毎日新聞 5月1日(金) 温室効果ガス排出量を2030年までに13年比26%削減する政府の新たな目標案が30日、公表された。原発や再生可能エネルギーなどの電源構成をまず決めた上で、森林の二酸化炭素(CO2)吸収分などを上積みした。政府は「裏付けのある実現可能な目標」と胸を張るが、実行には高い壁がある。 政府は目標値の根拠にこだわった。09年、民主・鳩山政権が原発の大幅新増設を前提に「20年に1990年比25%減」を掲げ、撤回を余儀なくされた苦い経験がある。既存の対策を積み上げ、可能な削減量をはじき出した。 とはいえ、今後15年間で、業務・オフィスと家庭部門でそれぞれ約4割、運輸部門で3割弱のCO2削減は容易でない。電気自動車など次世代車の普及率を50%(現状3%)に引き上げ、ほぼ全ての家庭用照明をLED化する想定だ。国内総生産(GDP)1ドル当たりの排出量は12年0.28キロから30年0.16キロへ大きく下げる。目標案が示された30日の経済産業、環境両省の合同審議会では、有識者から「省エネ目標はかなり挑戦的だ」との意見が出た。 また、目標案は30年の総発電量の20~22%を原発でまかなう前提だ。運転開始後40年を過ぎた老朽原発の延命や新増設が不可欠で、非現実的との見方が強い。たとえ、原発が想定通り稼働しなくても、国際公約の削減目標は簡単に撤回できない。その場合、CO2を排出しない再生エネなどでの代替が必要になるが、電源構成案は再生エネ割合に最大24%の上限を定めた。合同審議会委員の高村ゆかり・名古屋大教授は「原発が動かない場合に備えて省エネと再エネを深掘りするプランを国が持っていないことが不安だ」と指摘する。 新設計画が相次いでいる石炭火力発電所への対応も鍵を握る。石炭火力のCO2排出量は天然ガス火力の約2倍に上り、開発に歯止めをかける電力業界の削減目標設定が急務だ。3月に大手電力会社と新規参入の新電力主要19社が目標作りに向けた協議を始めたが、原発を抱える大手電力と、火力発電中心の新電力との調整は難航している。【阿部周一、安藤大介】 ◇本気度問われる産業界 温室効果ガス削減目標の政府案は、自動車の自動運転の実用化による交通渋滞の抑制など技術革新を促す対策が盛り込まれた。しかし、国内エネルギー消費の約4割を占める産業部門の削減目標は2013年度比6.5%。商業・サービスなどの業務部門や、家庭部門の約4割減に比べて小幅にとどまった。手堅い目標で国内産業の国際競争力を高める技術革新を促せるかどうかは疑問符も付く。 削減目標の政府案は、30年度に電力やガソリン消費などの国内のすべてのエネルギー消費を「13年度比で13%効率化できる」とした経済産業省の有識者委員会の見通しを前提にしている。この省エネ見通しは、経団連が産業界の温室効果ガスの削減目標をとりまとめた「低炭素社会実行計画」などを踏まえ、各部門の対策を積み上げた。 省エネ技術を推進する「省エネルギーセンター」の判治洋一理事は「企業は省エネ投資や技術革新に本腰を入れれば、さらにCO2削減に取り組める余地がある」と指摘する。 とはいえ、目標の実現は簡単ではない。経団連の実行計画で、鉄鋼業界は製鉄所の溶鉱炉の高効率化などで900万トン分の削減に取り組む目標を掲げた。このうち260万トンは「革新的技術の導入」が前提で、技術革新の動向次第では目標の見直しに言及している。 1970年代の石油ショック以降、産業界は省エネを追求し、国内総生産(GDP)が2.4倍に増加するなか、エネルギー消費量を2割削減した。しかし、00年以降、国内製造業のエネルギー効率の改善は約3%にとどまっている。省エネへの企業の本気度が問われる。【安藤大介】 ◇「基準年」他国反発も 新たな削減目標案は、基準年を13年とし、現行の05年は参照値にとどめた。「エネルギー事情が変化した東日本大震災後が適当」というのが理由だが、13年度の日本の排出量は過去2番目に多い。排出量の多い年を基準にすれば、削減幅は大きく見えるが、そうしたやり方は他国の反発を招く恐れもある。 新目標は、削減量は同じでも、05年比だと25・4%で、13年比だと26%になる。13年比に換算すると、米国の目標「25年に05年比26~28%減」は19~21%減▽欧州連合(EU)の「30年に1990年比40%以上減」は24%以上減になり、これらより高く見える。ただし、米国やEUは基準年以降、増減はあるものの排出削減傾向にある。13年比換算はこうした過去の実績を考慮しないことになる。 基準年を巡っては、京都議定書の90年は、オイルショックを契機に省エネ対策が進んでいた日本にとっては不利で、工業化が遅れた旧東欧諸国の加盟で削減余地が増えたEUにとっては有利だという見方が政府や産業界には根強い。 新たな目標については、基準年や数値は各国が自主的に決めるが、国連は提出する目標案に「公平性と野心度」の説明を付記するよう求めている。日本が13年基準を使って公平性を主張すれば米欧の反発は必至だ。このため、政府は目標案に13年と05年の二つの基準年を登録し、交渉の場面に応じて使い分ける方針だ。【阿部周一】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015/05/03 07:25:16 AM
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