源重之 風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな
小倉百人一首 四十八源重之(みなもとのしげゆき)風をいたみ岩うつ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな詞花集 211あまりに風が激しいので岩を打つ波が自ら砕け散るように(岩のように冷たいあなたに心を砕いて)思い悩んでいるばかりのこの頃だなあ。註激しくやる瀬ない(失いかけている恋の)片思いの歌。イメージとしては東映映画の冒頭のトレードマーク・タイトルのような感じか。いわゆる「一人相撲」の状態なのだろう。安全保障条約と同様、男女の仲も片務的でなく、双務的でなければ上手くいかないようである。(風)を(いた)み:風がひどく強いので。上代語特有の「ヲミ語法」。体言(名詞など)+間投助詞「を」+形容詞の語幹 +接尾語「み」で、「・・・が、・・・なので」の意味を表わした。和歌では後世も用いられたが、それ以外では廃れた。なお、「を」の用法としては、こうした間投助詞が最も古く、次いで格助詞の「を(歌を詠む)」、さらに接続助詞の「を(色は匂へど散りぬるを)」が生じたとされる。いた(み):形容詞「甚(いた)し」(甚だしい、激しい)の語幹。連用形の「甚(いた)く」は現代語でも用いられる。「いたく悲しむ」。おのれ(己)のみ:自分だけが。ひとりでに。