2022/07/12(火)06:16
落語「こ」の72:ご対面は涙々のポタージュスープ(ごたいめんはなみだなみだのぽたーじゅすうぷ)
【粗筋】
スターの対面番組があまりに低視聴率でスポンサーが下りると言い出した。テレビ局もせめて3ヶ月は続けたいと、プロデューサーを代えて臨む。このプロデューサーがでっち上げのスペシャル番組ばかり作っている男。出演が決まっていたアイドル(当時)が、家族も仲良しで幸せに暮らしているというので、中止。両親が別れ別れになり、苦労をしている新人歌手を捜し出す。父親が旅役者で母と子供を捨てて行き、残された母は懸命に食堂を経営した。
「で、その食堂はどうなった」
「大変な業績で、今は大きなチェーン店になっています」
「それはいかん、店がつぶれたことにしろ」
「父親は役者を断念しまして」
「いいじゃないか」
「再婚して印刷会社を始めたら、これが順調で、大阪で大きくなりました」
「それはいかん、その会社もつぶせ」
という無茶苦茶で、無理矢理にそういう設定にしてしまう。
いよいよ当日。
「お母さんは冬の日本海で海草を集めて生活したそうですね」
「え……ああ、そんなこともあったような気がします」
「それがたたって、とうとう倒れてしまったとか」
「そんなまさか……いや、ええ……そうでした」
「それでお母さんの代わりに行商をして……辛かったでしょうね」
「ううん……今の方が辛いかも」
「お父さんが大阪にいると聞いて、流しをして捜したそうですね」
「ええ、もうそれでいいです」
「ではお父さんにご登場願いましょう。どうぞ」
「息子……あ、逢いたかったぜぇー……」
「お父さん、旅役者の芝居じゃないんだから、もっとお楽に」
「あ、苦労をかけたなあ……」
「はい、もっと抱き合って……お父さん、ここでこうして逢って、またしばらくは逢えないでしょうね」
「いいえ……明日、他のテレビ局で逢いまんねん」
【成立】
桂三枝の創作落語。第26作、1981年7月の作品。
【一言】
(テレビのご対面番組で、誰に逢いたいかと聞かれ、「一番逢いたいのは、幼い頃に亡くなった父親です」と答えたが、相手は洒落が分からない。それで、二十年前の中学校の担任の先生ということになった。「いいですね」ってんで、テレビ局の人は、学校名も聞かずに帰ってしまった。翌日長電話でようやくそれを確認するが、前日上京すると、その先生本人が探し当てて、「一緒に飲みに行こう」懐かしい話を全部し終えて、翌日の本番を迎える。何も知らないディレクターがわくわくしているので辛い。)
先生はしっかりしたもんで、司会者に、
「先生、三枝さんと二十数年ぶりに逢われていかがですか?」
と聞かれた時、すました顔で答えた。
「ハァ、二十年前がまるで昨日のことのようです」(桂三枝)