落語「た」の58:タクシー時代
【粗筋】 夜のタクシー、顔色の悪い怪しい客を乗せた。「運転手さん、ここらに交番はあるかい」「ありません」「それじゃあ、その先の草むらのある所で止めろ」「と、止めました」「ちょっと我慢が出来ないんだ。紙をおくれ」 すっきりして現れると、「ありがとう、もうここからは歩いて帰れるから、いくら」「まだメーター倒したばかりですから、最低料金ですよ」「安いねえ。少しまからない」 入れ替わりに乗ったのはアベック。「晴子さん、こんな汚い車ですみません」 いちゃいちゃしてプロポーズまで始める。やっと降りると今度の客は昔の友人。何だかんだと料金を払わずに行ってしまう。次の客はかみさんが怖いという。喧嘩をしてから、遅くなって帰ると、玄関を上げた途端にはさんでおいた棒が落ちて瘤をこしらえるし、中では女房が庖丁を研いで待っている……というのだ。「着きましたよ」「運転手君、ちょっと玄関を開けてくれないか」「いやですよ。棒が落ちて来るんでしょう」「人の内緒話を聞いていたのか。とにかくノックしてくれ」「トントントン、すみません、私はご主人じゃないで……運転手ですがなあ」「誰でも主人の味方は敵、私の味方は味方です……運転手さんですか。そうぞ開けてお入り下さい。まず運転手さんから片付けます」「冗談じゃない」【成立】 桂米丸の創作落語。1969年の本にある。色々な客が出るだけでまとまりはない。