1:いいえ
「あ」で始まる落語、105席で完了。番号で61が抜けましたが73がダブっていたので、総数は変わりません。今回から「い」に入ります。 【粗筋】 この時代の女形は普段も女の格好で歩いている。嵐民弥という旅役者、宿に困っていると聞いた馬子が家にしばらく泊めることにするが、本物の女だと思って、布団が足りないから女房と一緒に寝かしてしまう。久し振りの女だと手を出してしまい、次の夜には娘とも関係してしまう。母娘の様子がおかしくなり、民弥を争って喧嘩をするので、追い出すことにした。父親が途中まで馬で送るが、その姿を見ているうちに変な気を起こして民弥を口説き始める。相手にされないと分かると、無理矢理に手籠めにしようとして、反対にやられてしまう。 お尻をさすりながら家に帰ると、女房に「お前、嵐民弥と何かあったか」 女房前を押さええて「いいえ」 娘に向かって、「お前、嵐民弥と何かあったか」 娘も前を押さえて「いいえ」 「そんなことを聞くなんて……お前さん、嵐民弥と何かあったの」 亭主後ろを押さえて「いいえ」 【成立】 人物名で「嵐民弥」「佐野川市松」とも。関西では、江戸から明治にかけて実在した尾上多見蔵の弟子として、「尾上多見江」また「多見江尻」という題も見える。 不思議なのは、上方でも同じストーリーなのに,「東京ではバレとして扱っているそうである」と書かれている。民弥が皆と関係を持っているのに……謎を解く鍵は、最後のやり取りにあるのかもしれない。娘に尋ねると母の方をちらりと見て「はあ、いいえ」、母に尋ねると娘の方をちらりと見て「はあ、いいえ」、亭主に聞くと、とぼけた顔で「はあ、いいえ」という。つまり、上方では心理劇であり、バレではないと思っているといういうことだろうか……そのくせ上方の速記には「おまえ様、さっきから尻をいたがってるけど」って全く無駄な台詞がある。 東京の方は、お尻を押さえるだけで大爆笑になる。こちらの方が出来がいいと思う。 尚、原作は天明3年頃の『間女畑』の「御比丘尼」で、馬子が最初から比丘尼を狙って家に連れて行く。寒いから娘と抱き合って寝ろというが、これが比丘尼に化けた男だった。気付いた娘を無理矢理に抑えつける。無理にイカされて部屋を出ると、母親が様子がおかしいので尋ねると「フフフン」とはっきりしないので、比丘尼の部屋に見に行く。比丘尼はまだ元気で、そのモノを握らせる。母親は亭主のよりも立派なのに驚くうちに抑えつけられ、何度も何度も付きのめされる。娘にどうなさったと言われて「フフフン」。そこへ亭主が馬の世話から戻り、どうしたかを訪ねると二人して「フフフン」。確かめに比丘尼の部屋へ行き、無理矢理乗り掛かると、簡単にはねのけられ、何の苦もなく後ろを取られて突き刺される。やっと逃げて来ると、女房娘がどうしたと尋ねるので、「フフフン」 描写がかなりすごい。娘は悦ぶまでいたぶられ、妻は大汗かくまで何度もやられる。