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I.Q150「浮人形」

いうまでもなく、この「浮人形」は、私を、私の演劇観を、変えた芝居だ。


確か、2003年の梅雨の頃だったと思う。
次の芝居はどうしようか?と、色んな事を話している時に
主宰の丹野さんが、次の台本のイメージを、数枚持ってきた。
深くて、濃度の濃い、恋物語だった。

読んでみて、「演りたい」と思った。
メンバーの幾人かも、同じ役を「演りたい」と言っていた。
正直に言えば、その時「演りたい」と手を挙げた女の子の方が
その役にはぴったりかもしれない、と思っていたところもある。
だけど、私はこの役をなんとしても演りたかった。
「この役はあなたの持っている資質と違い過ぎるよ。難しすぎるよ?」
そう主宰に諭されても、なんとか食いついた。
どうしても30代を迎える前に『主役』を経験したかったのだ。

今、改めて考えると、ものすごく安易な考えだった。
でも、その時の私にとっては、凄く重要なポイントだったのだ。
「30歳を迎えるその前に、まだ20代のうちに『主役』をやりたい」
その時、この思いだけが私の中にあった。


初演は、なにがなんだかわからないまま、突っ走った。
今さらながら、この初演を観て下さった方々には、申し訳ないと思う。
初演というのは、ある種の「勢い」みたいなものがあって
それでなんとか乗り切ってしまった感があるのだ。
何度、公演を重ねても、反省すべき点はたくさん出てくるけれど
この初演に関しては、舞台に立つ心構えというような、色んな意味での反省が、ある。

『主役』というプレッシャーに負けそうになったこともあった。
自分の、精神的に弱い部分に、頭に来たこともあった。
ダメ出しされてることが、頭では解ってるはずなのにできなくて悔しいと思うこともあった。
でも、主宰の丹野さんを信じ、仲間に頼ることでなんとか乗り切れたと思う。
そして、稽古を重ね、公演を重ねていくうちに、入団してからこれまで
舞台を踏んできた時には感じた事がなかった感覚が、芽生えてきた。
頭でわかったつもりでいた事が、身体でわかったとでも言えばいいのだろうか。
舞台上で「生きる」ということ。
「感じる」ということ。
神経を集中させ、意識を集中させ、物語を編み上げるということ。
入団して「浮人形」を経験する前と後では、確実に違う自分がいる。

物語としても、いろんな事を考えたし、感じた。
こんな事があった。
お盆の仙台公演の時だ。
エンディングで、誰もいなくなった舞台上で、ぼぉっと堤灯に明かりがともるシーンがある。
その時、カーテンコールのため舞台袖にいた私に
ふと、死んだじいちゃんの顔が浮かんできた。
別に、今回はお盆だから先祖供養のために演ろう!などと思っていた訳ではない。
なぜか、ふと浮かんできたのだ。
なぜだろう。
二人は優しく微笑んでいた。
そして私は、なぜだか「ありがとう」と思った。
こんなことは、今まで舞台を踏んできた中で一度もなかったことだった。


人として、役者として、いろんなことを学んだ作品だったと思う。
ただ、いまだに、ビデオなどを見返してみると、「あ~ぁ…」と思う部分が沢山ある。
もちろん、その時々で自分が演れる最高のものを演ってるつもりなのだが
こうして、少し時間と距離を置いて観てみると、どうしてもそう思ってしまう。
そんな時、相手役の茅根さんが言っていた言葉を思い出す。

「最高の舞台は、『Next One』だ」

一番良い舞台は、まだ誰も観たことのない、次の舞台だ、という意味だ。


『Next One』を探して、私は、演劇を、I.Q150を、続けていきたいと思う。



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