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2006.12.05
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カテゴリ:カテゴリ未分類
昔々、あるところに若い男と女がいました。二人は梅の花が咲く頃に出会い、桜の花が咲く頃に一緒になりました。

そろそろ稲刈りの時期を迎えようとしていた秋の夕暮れ、二人並んで家路を辿っていると、突如男の背後から竜巻のような風のうねりが巻き起こり、男は道端に倒されてしまいました。

起き上がってみると、傍らの愛妻がいません。愛妻は竜巻のごとく、翔けて来た鬼に攫われてしまったのです。

男は途方に暮れました。そしてその後愛妻を捜しました。何年も何年も捜しました。

月日が経ちました。

長雨がやっと上がった、ある初夏の朝、丘の麓を流れる小川の畔で、赤い褌(ふんどし)を洗濯している女を見つけた男は思わず息を呑みました。

愛妻は縄で縛られているわけでもなければ、鬼に監視されているわけでもないのに、鬼から逃げようと思えば何時でも逃げられるのに、逃げようともしないで鬼の褌を洗濯しているのでした。

呆然とした男は、女に声をかけることもなく、一人で里へ帰ってしまったのでした。

これが今に言い伝えられる「鬼の褌」の物語だ。女は助けに来てくれる男を待っていたのかもしれないし、あるいは何時の間にか鬼を好きになっていたのかもしれない。

トリスタンを失ったイゾルデにも、いつの日にかマルケ王を愛する心が芽生えてくるのだろうか?

たとえ鬼に攫われなくても、愛した男と一緒に暮らしていても、いつのまにか心は別の異性に移っていってしまうこともある。

結婚して三年、浮気がばれて怒っているエヴァに、ワルターは「三年目の浮気ぐらい大目にみろよ」と言うのだったが、こんなことならあの時ザックスのほうと結婚しとけば良かったなァと思うエヴァだった、と思いながら聴くバレンボイムの「マイスタージンガー」には特別な味わいがあると思った2006年晩秋の夜だった。







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Last updated  2006.12.05 13:51:09
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