目と耳が悪いビジネスマンの一筆

昼間に通り過ぎていった気まぐれな雨は土埃を洗い落とし、あちらこちらに水たまりを残していきました。

空気は程よくひんやりとして澄み渡り、鳥のさえずりがいっそう先鋭に聞こえました。

葉陰から尾の長い鳥が垂直に飛び上がり、がさごそとぶっきらぼうな音を立ててどこかへ行ってしまいました。

昨日は一日中どこへ出かけることもなく自宅でのんびりと過ごしたので、おかげで体調はすっかり回復し、走る身体に力がこもっているのを感じました。

夕暮れのジョギングを通して、わたしはいつも身体からの率直な声を聞き取ることになります。

自宅から駆け出してしばらくの間は、身体が酸素を渇望しているのを感じます。

草の香りを含んだ空気を大きく吸って、そして大きく吐き出す。

それを繰り返しているうちに、しかるべき場所にしかるべき血液が流れ出すのを実感することができます。

そこへ至る道順は気分次第で変わるのですが、いつも必ず川へ出ます。

左右から自転車が来ないことを確認して勢いよく土手へ駆け上がり、夕陽をいっぱいに浴びた河原を見渡して、それから野球グラウンドやサッカーコートが敷かれたほうへと駆け下りていきます。

決まった時間に決まった道を走っていると、だいたいすれ違う人の顔ぶれも決まってきます。

ロープでつながれた犬を二、三匹連れて歩く母娘、ハーフパンツのポケットに手ぬぐいを忍ばせて軽やかに駆けていく痩せ型の男性、ランニング・シャツにお尻の形がくっきりと浮き出るパンツといういかにもランナーといった格好の男性。

毎日すれ違っていると挨拶したいような気もするのですが、勇気がなくて声になりません。

いや、もしかしたらわたしはすでに彼らから一度声をかけられているのかも知れません。

だけど、わたしは耳が悪くてそれを素通りしたばっかりに、「返答をしない男」として覚えられてしまっているのではないでしょうか・・・。

これがただの妄想なのかどうなのかは分かりませんけれど、そうしたことはわたしの宿命として、きっとこれから何度も演じていくことになるでしょう。

決して無視するつもりなどなく、ちゃんと聞こえてさえいれば喜んで挨拶するのに、それができなくて無愛想で失礼なヤツだと誤解されるのです。

それはそうとして、わたしにできることは、悪意など微塵も感じさせないくらいに穏やかで柔和な顔をして生きること。

考えてみれば、世の中は正解よりもむしろ誤解で満ち溢れています。

目で見ているもの、耳で聞こえているものはあくまで脳が便宜的に推測した結果としての仮説であり、多くの人たちはそれが仮説であるということを意識しないままに生きているのですから。

他者はおろか自分自身のことを誤解して生きている人だって決して少なくないでしょう。

誤解されることを悲しむより、とにかく自分自身が囚われなく、まっさらな心で生きるのを貫くことのほうが大切です。

雨を吸って黒く色づいた土をしっかりと踏みしめながら、自分の顔をチェックしてみました。

いつもならここで引き返すのですが、今日はもっと走っていたい気分でした。

シルエットになったビルディングの向こうに沈んでいく夕陽を見送りながら、遠回りして帰ることにしました。

今日も好い一日でした。

ありがとうございました！！

【三文日記】

親戚からメロンをいただきました。

一つを二等分にして、長嶋一茂さんのように半球をスプーンですくって豪快に食べました。

ちょうど食べ頃だったようで優しい甘さの果汁がきっしり詰まっていて、正直今まであまりメロンが好きではなかったのですが見直してしまいました。

●今日の天気
くもりのち晴れ。

●今日の運動
ジョギング40分。