|
テーマ:呪術(5)
カテゴリ:神話・伝説・哲学
実は3年前に、妻の神坂高子と離婚後行方不明だった一郎君の父である神坂常和氏、旧姓辻野常和氏の妹に当たる人、つまりは、一郎君には叔母に当たる野口恵子氏が亡くなって、相続問題が生じ、恵子氏の兄で一郎君には叔父にあたる辻野久氏が依頼した弁護士から、わさわさと書類が届いたのです。 一郎君は、辻野久氏とは面識がありましたが、野口恵子氏とは会ったことも無く、更に弟つまりはおじさんが二人居たことすら知らされていませんでしたから、寝耳に水だったのです。 しかし、このお知らせで、とっくの昔に死んだかと思っていた常和氏が、何と元妻で一郎君の母の高子よりも1年長生きしていたことが判明したのです。 つまり、一郎君に嫌がらせ的に呪ってまわったから亡霊だとばかり思っていた常和氏の霊は、質の悪い生霊だったことも判明したわけです。 また、相続関係の参考に送付された戸籍関係の図で、一郎君が知っている関係者の続柄とかなり相違があることもわかったのです。 まず、一番大きな相違は、常和氏の戸籍で、これは、かなりいじくったと聞いていましたからそれほど驚かなかったのですが、実際は昭和元年にアメリカで生まれたものが、外交官の父とともに帰国した日と思われる昭和3年4月27日生まれになっていたことです。 これで、常和氏の数奇な運命が、更に過酷になったのですから、いろいろ事情があって良かれと思ってやったことだったのだとは思いますが、罪なことです。 また、常和氏の継母になった辻野真紀子氏は、一郎君は、彼女が息子の久氏の元に身を寄せていた時に会ったことがありました。彼女は某有名大名家の娘で、本人もそのことを認めていたのですが、戸籍ではその家名はおろか結婚していたはずの夫とも姓が違っていて、こども達は皆辻野姓で、常和氏は彼女の長男になっていましたから、それも不可解だったのです。 どうも、元?夫と結婚した日も、常和氏が生まれた日も、全て昭和3年4月27日になっていたようで、戸籍上の夫は昭和20年に亡くなっていて、姓が違いましたから、その後再婚して辻野姓になり、その際にこども達も皆辻野姓になっていた可能性は考えられました。 しかし、それならばその痕跡が残っているはずで、とにかく不可解な戸籍だったのです。 それで思い出したのですが、常和氏、出身は高知県で、これまた一郎君の知る限りでは、彼の家族も昭和30年代までは高知に居たはずなのです。 そこで、ホラーな話になります。 常和氏、高知に伝わる狗神の呪いに大変詳しかったのです。 一郎君、好奇心旺盛でしたから、小学生の時に父の常和氏に詳しく聞いたことがあったのです。 一般的な言い伝えでは、かなり強烈というか、飢えた犬を首だけ出して地面に埋め、餓死する寸前に首を切って、その首を呪物とすることになっていますが、常和氏の話では大分違っていたのです。首だけ出して埋めるところまでは共通していましたが、犬が餓死するまで毎日その犬の前に餌を持って行って、「お前には、××さんの命令で、餌をあげられないんだ。恨むなら××さんを恨め。」と繰り返すのだとのことでした。 常和氏が見て来たかのように話しましたから、これはこれで怖いなあと思いましたが、もっとホラーなのは、常和氏、呪殺を生業としていた狗神筋の一員で、親戚には呪いを請け負っている人も居たらしいのです。 狗神筋ですが、被差別民の一つの形ではないかと見られていますが、実は、常和氏には大変な証拠があったのです。 常和氏、何とお尻に尻尾の痕跡があったのです。 それで、一郎君が父と一緒にお風呂に入った時、「それなあに。」と聞いたら、「しっぽの跡なんだよ。お父さんの一族には、これを持っている人がたまに出るんだよ。」と話してくれたのです。しかし、幸いなことに、一郎君にも他の家族にも、しっぽの痕跡を持った人間は居ませんでした。 そこまで思い出して、常和氏がずっと生霊を飛ばし続けることができたのは遺伝的な能力であり、その能力の一変形で、戦時中もたった一人の生き残りとして生還することができたと考えることもできることに思い当たりました。 それでなくとも、一郎君自身が霊力の化け物みたいな人間ですし、その息子の一郎君に、生霊となって何度も喧嘩を売ったのですから、戦時中も、生霊となった時も、しぶとく生き残ることができたのは、その呪力の賜物だったのかと考えれば納得が行きました。 おそらくもうそんな一族は残っていないと思いますが、彼が父親から聞いた狗神筋に関するお話は、伝説とは大分違ったものだったのです。 それでなくとも、狗神筋については誰も話したがらない話ですから、一郎君が常和氏から聞くことができて、こんな形でも記録されることができたこと自体奇跡のようなものなのでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jun 11, 2024 09:34:30 PM
コメント(0) | コメントを書く
[神話・伝説・哲学] カテゴリの最新記事
|
|