2014/06/13(金)02:40
喜楽庵(臼杵)を予約する
臼杵は漁業のさかんな街。
有名な関サバは、フランクトンが豊富で潮流の速い豊予海峡で捕獲され、大分市の佐賀関で水揚げされるサバを言うが、その佐賀関は、臼杵から見ると半島の反対側。地理的に極めて近い。
豊予海峡が古来、速吸之門(はやすいなと)と呼ばれていたことはすでに書いたが、日本書紀では、東征に向かった神武天皇が、ここで「一人の海人(あま)」に会っている。神武天皇に「お前は誰か」と聞かれると、海人は、「土着の神で、珍彦(うずひこ)と申します。曲(わだ)の浦に釣りにきており、天神(あまつかみ)の御子がおいでになると聞いて、特にお迎えに参りました」と答える。
そして神武の水先案内を務め、その子孫は天皇家に近く仕えることになる。
豊予海峡が昔からよい漁場だったことがわかるエピソードだ。そして、このあたりの勢力が、古来から天皇家と密接に結びついていたことも。
こうした場所に近い臼杵の魚が美味しくないわけがない。そして、よき素材・長き歴史あるところには、美食文化が根付いている。
ミシュランで星を獲得した「臼杵ふぐ山田屋」はここが本家。
だが、ミシュランで星を取るとお客が殺到して、味とサービスが落ちる傾向が。地方の「名店」は、特に大都市圏からの観光客の増えるシーズンは最悪なことになる。
そこで、ネットでほかの料亭を探し、「喜楽庵」に行き当たった。ネットでの口コミもいいし、佇まいも歴史を感じさせる。山田屋のように「支店」がなく、地元密着の姿勢が好感がもてた。
電話で予約して、料理の相談をする。フグは季節がら天然物はないが、希望があれば、養殖を出すという。高級店・名店での「偽装」がはびこる世の中。きちんと「天然」「養殖」を分けて説明してくれることに、当たり前といえばそうなのだが、安心感を覚えた。
この時期は、オコゼが揚がるとかで、オコゼを薦められる。
オコゼかあ… 「夏のフグ」とも呼ばれる魚だが、実はあまりピンとこない。高級魚と言われても、そうですか? ぐらいだ。
オコゼは鮮度で値段が違うと言ってもいい。外見がごついうえ(こちら)に毒もあり、さばくのが難しい魚だ。あまり食べたことがないのだが、この際、料亭のお薦めどおりにしてみることにした。
嗜好が細分化し、外食産業のすそ野が広がるにしたがって、視野の狭い、主観的な「コストパフォーマンス」でしかお店を見ないお客が増えてしまった。お金を払うのは確かにお客で、それはそれで敬意を払われるべきだが、逆に料理を供する相手に対する敬意も大切だろう。
元来、料理人のほうが素材の美味さはわかっている。味覚が優れていなければ、プロの料理人としてやってはいけない。腕の立つ料理人がいいと言うものを食べてみて、どこがいいのかを食べるほうが考える…そういう態度が、もうちょっとお客のほうにも必要ではないかと思うこともしばしば。
あとは、伊勢海老がお薦めだとのこと。伊勢海老は5月に入ると禁漁期に入るところも多いが、臼杵の伊勢海老の漁期は長い。
ただ、その日に揚がるものによって内容が変わる可能性があるという。「絶対に出す」と確約しない姿勢に、逆にまた好感を覚える。
内容は変わるが、値段はあらかじめ決めておく。7000円ぐらいから用意できるというが、だいたい一般的な1人1万円(サービス10%、税は別)でお任せにすることにした。
あまり混まない、早めの時間で予約。
臼杵の観光を終え、時間通りに伺う。
緑あふれる門から入り、古いが、よく手入れされた玄関を開けると3人分のスリッパがきちんと並べられていた。
椅子席を希望していて、テーブルのある個室へ通される。
明らかに「ヨソモノ」のMizumizu一行に、仲居さんは、どういったタイミングで食事を出すべきなのか、若干とまどっているようでもあった。
まずは、にぎやかな海の幸・山の幸のハーモニー。黒豆、ごま豆腐、クルマエビの焼き物、鴨肉。
さりげなく、昼に食べた、「クジラの背に似せた」和菓子もついていた(笑)。しかし、微妙に違う気もしたのは、気のせいか?
特に甘辛く味付けたクルマエビの焼き物が気に入るMizumizu+Mizumizu母。さすがに九州の味付けだけあって、甘い。関西より甘い。関東とは…正直、Mizumizuは、関東の和食は嫌いなのだ。西に比べると、ずいぶんと田舎っぽく尖った味だ。「歴史と伝統」の差が、東と西の和食にある気がする。
<続く>