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奇跡ハ起コルノカ

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2009.10.19
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カテゴリ:小説
第一話:覚醒者
「ふぁ~……」
 今日は日曜日。学校も休みで、特にすることも無い。容姿は中の下、性格はひねくれている俺に彼女なんてものが存在するわけもなく、休日と言っても、親しい男の友達と遊ぶことしかない俺には、休日という退屈な行事はただ苦痛でしかないのだ。
「ゆーうーし! もう12時よ、降りてきなさい!」
「はいはい」
 俺の家は二階建て。そのせいで、近所迷惑並みの騒音で叫ぶ母親の声が家中に響く。ここで、俺がすんなりと起きないと、すぐさま強烈なプロレス技がかけられることになる。どこの家でも、母親が一番怖いのだと信じたい。
 1階のリビングに着くと、テレビがついていた。そこには、もう見飽きた文字と言葉が飛び交っている。
『バグウイルス』
 もう4年になるだろうか。いきなり炎を吐き出す者、水のように形状を固定しなくても生きていける者、チーター並みに足が早い者。それらの現象が、ある国の町で突如起きた。しかし、そのようになったのは極小数だと聞く。その町の大半が、脳みそが沸騰したかのように死んでいたという。
 ご飯が律儀にリビングの机の上に並べられていた。そういえば、お腹減ったな。椅子に座り、ご飯にありつく準備を済ませると、母も同じように目の前の席に腰を下ろした。
「本当に怖いわねぇ」
 なんのことを言っているのかは、考えなくても理解できる。もちろん、このバグウイルスのことだ。感染の仕方は、公にはされていない。しかし、俺はその方法を知っている。
「このウイルスが日本で発見されて、もう2年よ? 勇姿も気をつけなさいよ」
「はいよー」
 なんて言っているが、俺の体の中にそのウイルスがもう潜んでいる。そんなことは母親にも、誰にも絶対に言えない。なんたって、そのウイルスが発見された人物は、国の法律により殺されているのだから。そんなことを許せる社会になったのも、丁度2年前。今の総理大臣により、全ては決定された。政権交代などしなかったら、こんなことにはならなかったのかもしれない。
 ちなみに、俺、北王子(きたおうじ) 勇姿(ゆうし)がバグウイルスによって得たのは風を操る能力。と、カッコ良く言ってみたけれども、使える風の強さは微々たる物。それに、自らの体内から放出された空気しか操ることは出来ない。そんなつまらない能力のために、殺されてしまうなんてまっぴらだ。
 ご飯を食べ終わる頃、家の中に聞きなれたチャイムが鳴り響いた。どうやら、誰かが訪れたみたいだ。
「ゆーうーしー! 真冬ちゃんよ!」
「真冬? どうして?」
 南波(なんば) 真冬(まふゆ)とは、もう10年以上前からの知り合いである、お隣さんだ。いわゆる幼馴染という関係。アニメやドラマでは、隣の家に住む幼馴染と言ったら、ウハウハな展開を期待できるのだろうけど、こいつと俺は同じ学校という理由だけで毎朝一緒に登校している二人だ。学校に着くと、一言も会話などしない。
 不思議に思いながらも、パジャマ姿で玄関へと向かう。そこには、きっちりとめかし込んだ真冬の姿があった。それにしてもどうしたのだ? 今日は決して遊ぶ約束などしていない。しかも、こいつと俺は犬猿の仲なんて呼ばれているほどなのに。
「どうした?」
 恥ずかしさが抜けない。そのせいか、頭を掻いてしまう。俺の家に真冬が来る事は頻繁にあることだが、俺が呼ばれることなんてそう無かった。
「あがるよー!」
 しかし、真冬は俺の言葉を無視して、ドカドカと家へ上がりこんでは、俺の部屋がある2階へと向かっていく。呼び止めてみるが、あいつが止まることはなかった。まぁ、階段を上がっていく真冬を見たときに、スカートの中からパンツが見えただなんて言えない。
 俺も真冬と同じように階段を上っていく。俺の部屋を開けると、そこには案の定真冬が座っていた。
「どうしたんだよ? 俺、今の今まで寝ていて、こんな格好だけど。何か悩み事か?」
 犬猿の仲とは言っても、かれこれ10年以上の仲。幼馴染と言っても問題はない。俺は嫌いでもないし、こいつも俺のことを嫌ってはいないと思う。多分……だけど。
 真冬が地べたに座っていることをお構いなしに、俺は自分のベッドへと腰掛ける。その俺を、見上げた真冬は少し顔に赤みが入っていた。
「早く言えよ。別に今更恥ずかしい事なんて無いだろ? 俺とお前は一緒にお風」
「ワーワーワー! あれは、私の黒歴史なの! べ、別に大した用事じゃないんだけどね、その……今日からちょっと面白い映画があるんだけど、見に行きたいなぁって思っただけよ」
「見に行けばいいじゃん」
「勇姿も来るの!」
 その言葉に俺は顔をしかめる。俺が映画なんてもの見に行くキャラじゃないなんて、こいつも分かっているはず。それに、どうして俺が、真冬と二人で映画を見に行かなくてはいけないんだ。それこそ、この世のどこかにある7不思議とやらに迫るほど意味が分からないことだ。
「行くの? 行かないの?」
 今にも、むぅと言い出しそうな顔だ。
「別にいいけど」
 一瞬、真冬の顔がニッコリ笑ったように見えたのは気のせいだったのだろうか。まぁ、細かいことは気にしない。とりあえず、このパジャマから着替えなくちゃな。
「服、着替えるから下で待ってて」
「はいよー」
 真冬は立ち上がり、部屋を出て行く。その時、少し顔が赤かったような気もしたのだが、俺にはまた関係の無いことだ。
 着替えを終わらせると、俺は下で待っている真冬の下へと向かう。階段を下りている最中から聞こえる、母と真冬のうるさい喋り声。どうして、女というものは喋る声が大きいのだろうか。もう少し小さく喋って、エネルギーの消費を軽減しようというエコ的な気持ちはないものか。
「真冬」
 名前を呼ぶと、真冬は母に一言つげ、俺に近づいてくる。こいつも、普通にしていれば可愛い女の子なのに。
「何見てんの? 早く行くわよ」
 こういう冷たいところが、女の子らしくないのだ。でもまぁ、真冬のこういう冷たい性格がすきという、意味不明なM野郎がたくさんいる学校のせいか、真冬は学校ではかなりの人気を手に入れている。昔から一緒にいる俺としては、そのドM達の考えなど到底理解できないでいた。
 俺達が住んでいるところから、映画館がある場所まではさほど遠いものではない。と、言っても、電車で一本乗り継ぐ程度の遠さだ。そこには映画館だけではなく、有名なデパートや、食事通りなんて言うものまである。なんとも、この町もここまで発展したものだ。なんて関心をしていると、真冬は颯爽と電車を降りて、映画館のある方向へと向かっていく。
 その途中で、真冬が映画館への抜け道へと言って、商店街のわき道へと差し掛かったとき、俺達は嬉しくないものと出会ってしまった。
 真っ黒なスーツを着た男が3人。その中心には今にも倒れそうな、か弱い女の子。見た目で判断するところ、年齢は俺達より少し下と言ったところだろうか。しかし、このスーツの人たち相手に、俺達が手を出すことは出来ない。なんたって、このスーツを着た人は、政府の手先。胸に金色に輝いた、この国の国旗マークを付けているのが目印。
 この女の子は多分、バグウイルスに掛かった覚醒者なのだろう。関わってはいけない。そう分かっているのに、いつもこの状況に直面すると、俺は立ち止まってしまう。
「君、早く行きなさい」
 男の命令に俺は素直に従う。その時、女の子と目があった。なんとも、悲しそうな目。助けてと言わんばかりに、俺を見つめてくる。俺は、こんな小さな子を見捨てるほど、最悪な男なのだ。自分が死にたくないばかりに。
「たすけ……て」
 今にも消え入りそうな声が、背後から聞こえてくる。俺は、俺は。
「ごめん、真冬。一緒に映画には行けなくなった」
 その言葉に、真冬は反応する。
「ちょっと、何言って……勇姿!」
 真冬の言葉が聞こえたのは、はるか後ろ。もう、止まることはなかった。自分も、あの子と同じ覚醒者。どういう理由があれど、人が殺されて言いわけが無い。同情した。そういわれてもいい。ただ、どうしても見捨てることなど出来なかった。
 女の子に手をかけようとする真ん中の男の背中に体当たりをする。男は声をあげ、目の前の壁に思いっきり頭をぶつけた。その出来事に動揺しながらも、左右の男達は俺を見た。
「政府へ攻撃したな。反逆と見なすぞ!」
 男は叫ぶ。震えている女の子は、そのまま尻をつき俺を見開いた目で見ていた。
「どうせ死ぬなら、一緒に、反逆者になるか?」
 女の子に微笑みかけても、彼女は震えて動かなかった。
 飛び掛ってくるスーツの男。どういう理由であれ、人より高性能の脳を手に入れている覚醒者。力の差では一般人などに負けることは無いのだ。
 ゆっくりと息を吸って勢いよく吐く。すると、強風に当てられたかのように、こちらへと前進してきていた男は、後ろの壁まで吹き飛ばされた。あまり、力を使用したことは無かったが、こういうときのために、こっそり練習はしていたのだ。結構便利だったりする。女の子のスカートを……とかな。
 なんて考えている場合じゃなかった。今度は左から、男が殴りかかってきた。俺は、もう一度空気を吐き出し、男へとブチ当てた。やはり、力の差は歴然。俺の目の前には、気絶した男が3人転がっていた。
「大丈夫?」
 俺はしゃがんで女の子に手を差し伸べる。すると、彼女は微かに首を縦に動かし、俺の手をとった。
 それにしても、どうしたものか。これから、ここを逃げたとしても、こいつ等には俺と、この女の子の顔はばれている。政府に反逆したとなれば、賞金つきで狙われるのだろう。そうすると、俺の家にももう戻れない。厄介ことに巻き込まれちゃったな。
「大丈夫です」
 女の子がいきなり呟く。今更になって、返事をしたのか。相当、ゆったりした性格なんだな。
「違うんです! 別にこの街から出なくても大丈夫だって言っているんです」
「え、なんで? っていうか、俺口に出して喋ってた?」
 そうなれば、相当ショックだ。そんなの、今更40歳過ぎたおじさんだってしねぇよ。
「えっと、私はバグウイルスにあてられて、心の操作っていう能力を手に入れたんです。だから、お兄さんの心の声も今は私にも聞こえてくるんですよね」
「そ、そっか。でも、どうして街から出なくても大丈夫なんだ?」
「それは……」
 少女は俺から離れて、恐々と気絶している男の頭を触り始めた。そして、数十秒経ち、もう一人、そして最後の一人と触って、何事もなかったかのように、こっちへと戻ってきた。
「記憶の操作は、気絶しているときか、寝ているときにしかできないんです。でも、お兄さんが気絶させてくれたので、なんとかなりました。あの人たちにあるこの数十分の記憶は、この世に存在しない顔のヤクザに絡まれたことにしましたから」
「あ、そう」
 ちゃんと、この世に存在しない人にしたんだ。なんか、可愛らしいというか、純粋というか。
「ゆ、うし……」
 すっかり忘れていたというか、今気付いたというか。驚きのあまり、顔の固定がされているような真冬がそこに立っていた。
「勇姿、これは夢だよね? そう言ってよ、ね?」
 あまりに、色々な出来事があったせいか、真冬は意味不明なことを言い始めた。俺は、真冬に近寄って、頬をつねってやる。すると、いきなり泣き出す真冬。やっぱり、怖かったのだろうか。小さいときから一緒にいた俺が、バグウイルスに侵された覚醒者だなんて。
「夢じゃねぇよ。黙っていて悪かった。でも言えない理由は、分かるだろう? この世の中だ。誰に何を喋っていいのかなんて分かったものじゃない。だから、俺には母にも真冬にも言わなかった」
 泣き止まない真冬。しかし、いつ男達が起きるか分からないここにこれ以上いることは妥当じゃない。俺は女の子のほうを見て、ジェスチャーでこっちに来るように呼ぶ。俺は、真冬の肩を支えながら、この脇道を抜けた。





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Last updated  2009.10.19 18:45:32
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