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昭和6 (1931) 年9月18日夜。
満洲 (現中国東北部) ・ 奉天郊外柳条湖。
南満洲鉄道と付属地の警備を主任務とする 関東軍 は、 自らの手で線路の一部を爆破。
満洲の政治主権者である張学良軍閥の仕業として、 一斉に軍事行動を開始 した。
( 『戦争と人間 第一部 ・ 運命の序曲』 )
張作霖暗殺から三年余・・・。
一度は頓挫した 満蒙分離構想 ・・・東北三省を中国本土から切離し、 日本の支配下に置こうとする計画が、 横暴極まりない手段をもって、 実行に移されたのである。
日本の運命の重大な岐路となった 満洲事変 である。
高級参謀 ・ 板垣征四郎大佐 は、 北大営の中国軍兵舎砲撃と、 奉天城内への進撃を同時に下令した。
既に、 北大営に照準を合わせ、 待機姿勢に在った 24糎榴弾砲 が咆哮。
中国軍兵舎は、 忽ちにして粉砕された。
この巨砲は、 謀略の決行に備え、 隠密裡に、 奉天に運び込まれていたものである。
奉天総領事代理の 森嶋守人領事 は、 急報に接するや、 戦闘行動の即時停止を要請する為、 特務機関へ直行した。
特務機関には、 板垣大佐を始めとする関東軍参謀連が詰掛け、 今や・・・臨時の戦闘指揮所として機能していた。
(山本薩夫監督作品 『戦争と人間 第一部 ・ 運命の序曲』 )
「攻撃命令は、 司令官閣下が出されたのですか?」
「本庄閣下は、 旅順の司令部に居られる。 緊急突発事件であるからして、 自分が代行指揮を執っている。 我が重要権益たる満鉄線が攻撃を受けた以上、 是に酬いるは当然至極ではないか? 軍は規定の方針通り・・・」
「中国側は無抵抗主義で行くから、 速やかに鉾を収めて貰いたいと、 総領事館へ再三に渡って電話が入って居ります」
「もう遅い。 統帥権 は発動した!」
「いえ! 遅くはありません!!」
森嶋領事は、 食い下がった。
「今すぐ停戦命令を出していただければ、 我々が責任を持ち、 外交交渉で解決致します」
「総領事館は 統帥権に容喙干渉 するのか! ソレが総領事館の方針か?」
板垣大佐は、 矢庭に威丈高に成った。
一度腰砕けになったら、 全ての計画が破綻する。
三年前の二の舞である。
軍の陰謀である事が露見する。
首謀者は、 免官程度では済まない。
陸軍刑法 による厳重な処罰が待っているのである。
特務機関長代理の 花谷正少佐 は、 軍刀を抜放つと咆哮した。
「統帥権に干渉する者は叩ッ斬る!」
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