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テーマ:山登りは楽しい(12250)
カテゴリ:ヨーロッパアルプス編
1999年9月1日(水)快晴 標高4000m近い雪の上にビバーク(というか野宿)しているというのに寒くもなく、風もなく静寂の夜・・・ 夜11時過ぎになると氷河の彼方にそびえるグランドジョラスの脇から月が上がりこうこうと照らす月明かりは眠るのに眩しすぎるくらいだ。 雲ひとつない空は星あかりもまた眩しく、北極星が天高くそびえ輝く。 久々の山で多少緊張しているのか、寝付くに寝付けずほとんど一睡もできずに午前1時にシュラフを抜け出し、午前2:23にモンブランに向けて出発した。 今いる場所の標高が3800mでモンブランの標高が4800m 何だ標高差1000mしかないじゃん。楽勝じゃん。 と思うのは大間違いで、ここからミディのコルに下り、モンブランドュタキュルの崩れかけた懸垂氷河を登り、モンモディ北東壁を登り、最後にモンブランまで500mの登りが待ちかまえる超ハードコース。 しかもそのルートを今日中に降りてこなければならないのだ。 昨夜コスミック小屋に泊まった登山者のものらしい明かりが暗闇の中ちらちらと動き出し、早くもモンブランドュタキュルに向かって動き出している。こちらも遅れじとミディのコルまで下り、タキュルへの大斜面に取り付いた。 氷河の上はどこにクレバスがあるかわからないからトレースをはずさないように慎重に歩く。タキュルへの斜面は氷河の状態が末期症状で、いつ崩れてもおかしくないほどのクレバスやセラックスを回り込んで複雑に登っていく。 ふとアルパマヨの時の雪崩事故の現場を思い出す。 恐怖で心臓がどきどきする。 しかし高峰に比べれば体力的には楽だ。 まもなくモンブラン三山の最初のひとつモンブランドュタキュル(4035m)の肩である。 時刻は4:30でまだ頂は暗闇の中だ。 ふたつめのピークモンモディとのコルまではだらだらと下り、急峻な北東斜面に取り付く。 部分的に氷化した雪壁の傾斜は40~50°くらいか。頭上の氷塊がぐらぐら揺れて今にも落ちてきそうだ。最後の50mが急峻で緊張したがアルパマヨに比べれば楽勝である。 午前6:40にモンモディの肩へ。 ようやく東の空が明るくなってきた。 思ったほど寒くはないがこの頃から風が強くなる。 一旦コルに下ってここからは危険地帯もなく、あとはだらだらとモンブランまでの標高差500mを登るだけである。 しかし毎度のことながらここが一番辛いんだよな~ たかが500m 下界なら1時間強で登れる標高差だが、でも前半とばしすぎたせいか、足に力が入らなくなってきた。 力つきてきた。 足が上がらなくなってきた。 頑張って登って1時間に200mしか上がらない。 あと300mがきついんだ。 まあいいや安全地帯だしのんびり行こうとザックをおろして休んでいると、あとから来たスペイン人の兄ちゃんが 「これ食わないか」とクッキーとジュースをくれた。 ぼりぼりとむさぼり食う。 すると不思議なことにそれで再び足に力が戻りスピードもあがる。 グリコーゲンの偉大さを知る。 最後に踏ん張って9:03モンブラン頂上到着! モンブラン三山単独縦走完成なのだ! 登頂!というほどの大げさな気持ちでもないが、最高峰からの眺めは気持ちよく、ビールを忘れてしまったのが悔やまれる。 グーテ小屋の方からぞくぞくと登山者が登ってきて頂上は白山の人だかり。 先のスペイン人パーティーといろいろ懐かしいスペイン語でおしゃべりしながらのんびり過ごす。 そんな緊張感のない頂はまるで日本の山のようだ。 下山はほとんどすべての人がグーテ小屋方向に降りていく。 困難なルートを登り切ったら一番易しいルートから降りるのが当然と言えば当然なのだが、そんな行列に背を向けて僕は再度元来たルートを引き返した。 あえて困難に立ち向かったわけではない。ただ単純に往復で買ったロープウェイの帰りのキップが勿体なかったからなのだ。 貧乏者魂はどんなもうちかつのである。 9:43に下山開始する。 モンモディまでは調子よくサクサク下る。 モンモディ北東面の急雪壁は通常ロープを使っての懸垂下降となるがめんどくさいのでノーザイルで下降。適当に雪が腐って下りやすい。 モンブランドュタキュルには12:40着。もうすっかり陽が高くなって、上昇した気温がいつ雪崩を誘発してもおかしくない状態だ。 ここはスピードが要求されるところであるから最後の力を振り絞って、走るようにして30分で危険地帯を駆け下りた。 そして安全地帯であるミディのコルに着いた途端もう1歩も歩けないほどに疲れ切って氷河の上にへたり込んだ。 14:10である。 しかしここでまだ終わりではない。 コルから大雪原を行き、ロープウェイ駅までの200mの地獄のような登りが待ちかまえる。 嗚呼・・・ 15:40に山頂駅到着。 これにてモンブラン三山縦走は終了! しかし先月のワスカランよりははるかに楽なはずなのに体はぼろぼろだ。 やはり旅行だけしていると体がなまると言うことか・・・ 下りもやはり超満員のロープウェイに揺られシャモニの町に降り立つともうそこはまだ夏の香残る町の空気があった。 ほんの数時間前まで氷河と格闘していたのが嘘のようだ。 駅前のスーパーでビールと桃を買い、広場で飲み食いした。 見上げた晩夏の空にモンブランが高く白くそびえている。 あの山に登ったんだという実感がじわじわと沸いてきて久々に山の幸福感に身をゆだねていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.12.08 21:53:13
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