表板のエッジ付近とフォルケーレ(エッジのすぐ内側に掘る浅い溝)は掘ったので、一番厚い部分を所定の高さまで削る。教科書には27mmと書いてあるが、別に守る必要はない。しかしエッジまで一応面をつなげて削ってみたらいかになんでも高すぎる。測ってみたら32mmもあったので、中央付近を平カンナで削っていく。ここは昨日書いたように、左右で逆目の方向が違うのでネック側からかけようがエンドピン側からかけようが、左右どちらかは逆目になる。これまでは横方向にかけて対処していたのだが、今回は「櫛刃」を使ってみた。
昔、古いヴァイオリン製作の本を読んでいたとき、横板を所定の厚さに削るときにこの櫛刃のカンナで削ると書いてあった。横板を薄く削るのも逆目で難しくすぐ割れるので、特殊な方法が必要なことはわかっていたが、櫛刃ってなんだろう、と思った。わからないまま放っておき、この作業はスクレイパーとヤスリ、サンドペーパーという効率の悪い方法でやっていた。
平カンナは日本製も使うが、イギリスで買った小型の洋カンナも愛用している。手のひらに丁度収まるくらいの大きさで使いやすい。日本のカンナは木製だから、すぐに台が減り修正する必要があるが、洋カンナは鋳鉄製で減らない。それでついこちらを使うのだが、洋カンナの刃は全部鋼鉄で研ぎにくいし切れ味も日本製の刃物には劣る。3年ほど前に楽器専門の道具、材料の店に行き、いろいろ物色していたとき、うれしい刃物を見つけた。洋カンナ(Record社)用の替え刃で、日本製日本式の刃(軟鉄と鋼鉄の貼り合わせ)というものだ。これならよさそうだと思って店員に声をかけたら、これはお勧めなのだと言う。そして、これまで使っていた刃を「櫛刃」にして、用途に応じて2枚の刃を使い分ける人が多いです、と教えてくれた。
櫛刃にするには、カンナの刃の部分にヤスリなどで1ミリ間隔くらいで傷をつけてやればよいというのだ。これでちょっと斜め方向に傾けてカンナをかければ、カンナ屑がすぐに切断され、逆目のとき刃が材木に線維に沿って木に食い込むことがなくなる。つまり逆目方向にカンナをかけられるようになるのだ。今回のチェロ製作で、横板を削るのにこの櫛刃のカンナを使ってみたのだが、実に調子がよい。そこで表板にカンナをかけるのに使ってみたが、まさにこれに限る、という使い勝手だ。あの店の店員には感謝しながら作業をしている。