カテゴリ:美術
「スキン+ボーンズ」というタイトルは、
ファッションと建築を結ぶキーワード。 展覧会の中で、両者は、「身体」を守るシェルターであり、 アイデンティティの表現手段であるとして、同じ俎上に載せられます。 …難しい、ってば(苦笑) しかし、切り口は新鮮で面白い。 ファッションと建築が一緒に並べられるなんて、そうそうないですし、 これらが双方向に与え合った影響なんて、考えたこともありませんでしたし。 ----- まぁ、社会人になってから、建築は気をつけて見るようになりましたが、 昔から「ファッションは苦手」でしたからねぇ。 つまり、ファッションショーとかでトップモデルが着てる服とか、 何がすごいのか、意味分かってないですから。 奇抜だし、高そうだし、普段着では着られそうにないし、 普通の人が着ても似合わなさそうですし。 なんて、「食わず嫌い」を抱えつつの今回の展覧会。 「知らない」だけに、新鮮さも格別でした。 ===== 驚いたのは、ファッション・ショーそのものが、 かなり、現代美術の領域に踏み込んでいる点。 パリ・コレとかで、八頭身のスーパーモデルが、しゃなりしゃなりと 奇抜な格好で歩いている、固定的なイメージを持っていただけに メッセージ性の強いファッション表現には、目を見張りました。 ----- ヴィクター&ロルフによる「ロシアン・ドール」という作品は、 簡素な服を着たモデルに、一枚ずつ服を重ねていく、というもの。 モデルは、段々と服にくるまれ、最後には大きなケープに覆われてしまいます。 それぞれの「衣服」の価値は、その上に重ねられた服によって覆い隠され、 逆説的に、それを着ている「人」の価値を強調しているように感じられます。 ----- あるいは、テス・ギバーソンの「構造1」は、円形に並べられたポールに、 次々に出てくるモデルが、自分の着ていた服を脱いで掛け、 一つの「シェルター」を作ってしまう、という作品。 解説によると、作者は「子供の頃にお城を作った記憶」から、この作品を考えたそうです。 ===== あまりに挑発的だったのは、フセイン・チャラヤンの、「ビトウィーン」。 イスラムの衣裳であるチャドルの丈が、モデルが変わるごとに段々と短くなっていき、 最後には、仮面だけ残した、裸身となってしまうのです。 正直、この表現方法は、宗教的な問題にまで発展しかねませんが、 ファッションという「言葉」を借りた、作者なりの主張なのでしょう。 ----- 同じ作者による、「アフターワーズ」のメッセージ性はさらに強いものです。 4脚の椅子と、低いテーブルの置かれた部屋に、シンプルな衣裳のモデル。 彼女たちは、おもむろに椅子のカバーシーツを取り、それを裏返しにします。 それは、あっという間に彼女たちの身を包む艶やかなドレスへと変貌し、 椅子の枠組みは、折りたたまれてスーツケースへと変容します。 極めつけは、最後に残された円形のテーブル。 モデルが、その真ん中に立ち、テーブルを引き上げると、 それは同心円を描くスカートに早変わりします。 そして、モデルたちは去り、部屋からは何も無くなってしまうのです。 紛争において、「着の身着のまま」逃げ出さざるを得ない「弱者」を思う時、 この作品のもつ、独特の緊張感は、より切実なものとして感じられます。 ----- 建築の側からは、このメッセージに対して、 坂茂の「紙の緊急シェルター」が一つの回答を指し示しています。 被災地で、ルワンダで実際に使用されたこのシェルターは、 単に「ファッション」で終わらない、実用性のある実践として、 語られる価値のあるものでしょう。 ===== フォーリン・オフィス・アーキテクツの「メビウスの輪」的な建築イメージと、 三宅一生の「一枚の布」との発想的近似、 また、同じく三宅一生のプリーツ構造が、建築に与えた影響、 知らないことばかりで、刺激になりました。 てか、コム デ ギャルソンが川久保玲さんって 日本のデザイナーによるものだってことも知りませんでしたよ、私は。 ---- 建築の方では、今回の旅行で見てきたばかりの 「金沢21世紀美術館」by SNAA が取り上げられているのも嬉しかったですし ザハ・ハディドなんて、聞いた名前があるのも楽しい。 一方で、知らない建築家の名前がいっぱいで、 自分の勉強不足を切に思い知らされる展覧会でもありました。 ===== それにしても、建築とファッションを同じ俎上に載せてしまう、 という今回の企画は、刺激的で新鮮なものでしたが、 多少、牽強付会かなぁ、と苦笑してしまう部分もないとは言えず。 建築なり、ファッションなりの知識が十分あって、はじめて、 「なるほど、面白い」と言えるのかな、という気がしました。 しかし、質・量ともに、見応えのある展覧会で、今後とも、 たとえ空振りに終わるのだとしても、こういう想像も出来ないような ダイナミックな企画を立ててもらえると嬉しいな、と思った次第です。 ---- 一つ注文をつけるなら、カタログにファッションショーのDVDをつけて欲しかったなぁ、と。 うん。難しいであろうことは容易に想像がつくのですけど。 ===== 『スキン+ボーンズ 1980年代以降の建築とファッション』 @国立新美術館 (乃木坂) [会期]2007.06/06(水)~08/13(月) [開館]10:00-18:00(金曜は 20:00まで) [休館]火曜日 [料金] 一般 1000円 / 大学生 500円 / 高校生 300円 作者: テス・ギバーソン (Tess Giberson;1971-) フセイン・チャラヤン (Hussein Chalayan;1970-) 三宅一生 (Issey Miyake;1938-) 川久保玲 (Kawakubo Rei;1942-) ザハ・ハディド (Zaha Hadid;1950-) 坂茂 (Ban Shigeru;1957-) 妹島和世 (Sejima Kazuyo;1956-) 西島立衛 (Nishijima Ryue;1966-)SANAA ヴィクター&ロルフ (Viktor & Rolf) フォーリン・オフィス・アーキテクツ (Foreign Office Architects) 他 ★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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