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カテゴリ:小説
人ごみに視線を感じる。あたしを、あたしだけをみている視線。視線の先を辿ってみる。いた。あの人だ。
黒髪がさらさらとしている。肩までのその長さは段が入っていて、色が白い。まるでアイドルみたいだ。 その人が近づいてくる。あたしは、それとなく皆からの輪から外れた。 「友達から離れてもいいの?」アイドルのJMみたいな声。どきどきしてきた。 「ん、ん。すぐ、追いつくからいいの」そう答えるのもまるで自分じゃないみたいに少し震えてた。 「一緒に行った方がいいよ。ぼく、怖い人だから」「えーうそぉ」「うそじゃないよ」 言ってすぐ、そのひとは素早くあたしにキスをした。とろりととけそう・・・。力がぬける。 あたしは心地よく彼の胸にもたれかかった。 「ほら、ね。逢ったばかりの君にキスをする、怖い人でしょう」どこか歌うようなその声に、あたしはまる で酔っていた。まだ高校生だけどお酒を飲んだ事はある。好奇心からだったけど、それも皆といたから。 わいわい楽しかったから。でも、こんなの初めて。制服のままあたし、なにやっているんだろう。 「怖くない」遠くから自分の声がした。とろりとして、心地いい・・・。 「そう」彼があたしの腰に片手をまわし、左側の髪を後ろへなでた。 「ん・・・」なにかが柔らかく触れた。頭の中が真っ白になった。そしてとろけるような痺れが全身を伝う。 「ん・・・!」あたしの中で赤と透明の渦が巻いた。それはすでに熱く感じている首筋に流れ放出されていた。 「んん・・!!」身体を離そうとしても、もう離れる力があたしに残ってなかった。 「んー!んー!」一番の灼熱が済んだ時、あたしの身体はからからからんと音を立てて崩れた。 「だから怖い人だっていったろ」 あたしが最期にきいた言葉だった。 そうして彼はあたしをそのままにして闇に消えて行った。現れた時とおなじように。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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