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カテゴリ:小説
今夜は新月だった。ひどい腹痛にトイレへ行くのさえ動きがつらい。
翅隼はどこかへ出かけていなかった。ゆふみは白いワンピースを着たくなり、身につけた。 雨の音がする。今が外へ出るチャンスかもしれない。ゆふみは携帯を持って透明の安い傘を さして、部屋を出た。 少し歩いて公園へ行く。ここで、初めて史朗とキスをした。嬉しかった。想っている相手と 初めてキスしたのだ。 「あ・・・」 雨なのに、透明の傘の外に、満天の星が見える。どうして見えるの? それより。その美しさに目を奪われた。時間を忘れて魅入った。なぜだか涙がでてきた。 「ゆふみーさん?」 どきんとした。懐かしいとさえ思えてしまう、とても聞きたかった声。振り返るのが怖い。 心臓が高鳴り、飛びだしそうだった。動けないでいると、史朗の方から向いてきた。 「具合大丈夫なの?」身体全体が震えてくる。涙が自然と出てきた。 「あい・・・あいたかった・・・」言葉が自然にでてくる。 「おれもあいたかったよ」 抱きしめようとする史朗の動きに、ふらふらとゆふみは後ろへ下がった。 「だめ・・・。あたし・・・穢れているの・・・」 「ゆふみ・・・さん?」 ああ、桜の花びらの月があれば。あたしはそこを踏んで堕ちていくのに。あれはこういうこ とだったの?愛しいこの人の前から消えてしまいたい。 「ふみさん」紘一が走ってきた。「この辺りの雰囲気が変です。奴が来るのかもしれない」 「しはや、くる」傘を落として、両手で耳を押さえてゆふみはしゃがみこんだ。 「ええい、とにかくここから離れよう」 史朗はゆふみを抱き上げると紘一と一緒にその場から駆けて離れた。そして車でさらに離れた。 運転は紘一がしていた。後ろのシートで史朗はゆふみを抱きかかえていた。彼女は気を失っていた。 史朗の携帯が鳴り、出ると一矢だった。 「はい、今被害に会うかも知れないから女性1人保護してます」『被害者はその近くですで に出た。模様は完成したんだ』「そんな」「ふみさん、代わって」 紘一は路肩に寄せて車を停止させ、携帯を後ろから受け取った。 「一矢さん。鍵となる女性を保護したんです」『武器の調達は出来ている』 「よろしくどーぞ」 携帯を切って、返す時紘一が何気なく史朗に言った。 「ふみさん、今日ふみさんチに泊めてください」 「えー」紘一にはさっきの気になる言葉も聞きたい。「いいよ」。 紘一はそのまま史朗のアパートへ車をまわした。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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