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カテゴリ:ショートショート
『蒼い林檎』 当たり前のように紅い実を実らせる木々に紛れて、一本だけ、蒼い実の生る木が立っていた。一目見ただけではそれとはわからない、蒼い林檎。深海を思わせる奇妙な色をしたその林檎は、一目見ただけで魅了されてしまうほどの妖艶な雰囲気を漂わせていた。魔性の林檎、といったところだろうか。 その蒼い林檎に心を奪われた人間は数知れない。決して美味そうには見えないその林檎に、人々は、焦点の定まらない眼をぎらつかせながら、手を伸ばす。不思議と蒼い林檎は、紅いそれに優るとも劣らないほど美味であったが、しかし、それでも我先にと人々を焦らせるほどのものではない。それでも、人々を惑わす魅力――否、魔力のようなものが、それにはあったのだ。 凄まじい勢いで、蒼い林檎の価値は高騰していった。財力のある者がそれを独占したのだが、それで金儲けをしようなどという愚かなことは一切考えなかった。ただ、食すだけである。誰にも与えずに、文字通り、独占したのだ。 となれば、次にどのようなことが起きるのか――想像するのは難しいことではない。争いが起きたのである。奪い合うのは、国土でも金でも人民でもない――蒼いということ以外は至極平凡な、林檎。言ってしまえば、ただの林檎なのだ。だがその林檎を手に入れる為には、誰もが良識を捨てた。傍から見ればくだらないことこの上ない争いであったが、それでも当の本人たちにしてみれば、命懸けの戦いであったのだ。 ただ、その林檎を頬張る為だけに。 迸るような欲望を満たす為だけに。 その為だけに、人を殺め、自然を穢し、自らを貶めた。愚かな、行いである。 そして今も、この地球のどこかで、無駄な血を流す者が後を絶たない。もう既に、戦うことの意味さえ忘れて。 蒼い林檎。 それは案外、どこにでもあるようなものなのかもしれない。 了 ★あとがき★ 『林檎』シリーズ(?)第二段。 そしてやはりこれもボツ作。 別に林檎じゃなくても書けるよね? ということでボツにしました。 まあ、林檎には『禁断の果実』みたいな意味があるので、丁度いいのかもしれませんが。 とにかく今回も『林檎』です。 本当に今回は辛かった……。 林檎をネタにするのは、かなり難しかったです。 できればもう林檎はしばらく見たくない。(ホントかよ) 追記・そして次回もやはり『林檎』……かな? “Blue Apple”closed お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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